ここはいったいどこなんだろう。










太陽が燦々と輝く南国の島に降り立ち、テイルスは考えていた。
ただなんとなく遠くに行きたい衝動に駆られ、愛機トルネードに乗り込み、ひたすらに南を目指し辿り着いた島。
本来なら大海原に浮かぶ一つの島として大して気に留めずに通り過ぎてしまうだろうが、
しかし不思議と呼ばれているような心地がして訪れてみることにしたのだ。故郷のウエストサイドアイランドによく似た、緑の美しい島である。





山裾に木々が生い茂り砂浜のすぐ側まで森が広がっている。島全体が豊かな緑に覆われていて、着陸場所はその浜辺しかなかった。
乗って来たトルネードを浜の適当なところにとめ島を探索することにした。空から見たがこの島はなかなかの広さのようだ。
見たことのない景色と向き合うと何だか心が浮き立ってくる。新しい冒険が、新しいドキドキが始まるという感覚。
憧れのヒトもこんな気持ちを抱くのかなぁと考えると、少しだけ近づけたような気がしていささかくすぐったい心地である。
海風に揺れ手招きする木々に誘われるまま、テイルスは歩き出した。





森の茂みは手付かずにして生命力強く、深かった。探検隊気分で進んでいくのも悪くは無いが、険し過ぎた。
こういうときは空中からいくのがいい。テイルスフライなら行くところ縦横無尽。自慢の二本の尻尾を駆使して、高い木に登って
辺りを眺めてみたり、ちょっと行ってみたいと思った所へ降りたり、もちろんまた自分の足でも駆け回ったりと、そうしている間、
幼い頃島で遊んでいた時の感覚を思い出していた。





川を見つけた。せせらぎの音に導かれながらテイルスは流れに沿って歩いた。川の水は透き通っていてとても綺麗だ。
同じくらいに空気も清らかで跳ねるしぶきが気持ち良い。ゆっくりと散歩するように楽しみながら、上流を目指し進んでいく。


途中で鳥の囀りととても良く似た音色を耳にした。でも本物の鳥とは違う、澄んだやわらかい音。オカリナにも近い。
この先に少しだけ開けた所が見えた。



そこに何かしらの楽器を吹いている人物がいた。口元に手をかざしそれを操っているのは、黄色としては赤みの強い体毛をした、狐だ。
両手で覆える位の大きさの楽器を、岩に腰掛け足を組んで演奏している姿は優雅だった。



しばらくそのまま演奏を聴いていた。音楽は完全に周りの景色を包み込んでいく。テイルスは目を閉じた。

心地よい浮遊感。風の音、水の音、葉の揺れる音、心地よい自然がテイルスを迎え入れる音楽を奏でる。
はじめましてじゃなくておかえりなさいの音楽。楽隊はみんな見知ったメンバーだった。みんなが待ちわびた優しいメロディー。








不意に演奏が止まり、テイルスの視界には足元の緑が広がる。彼はこちらを見ていた。
ついうっとりしていて気が付かないうちに前に出てて、彼の目に留まったようだ。
知らない人に会うと緊張してどぎまぎしてしまうのだが、向こうはお構いなくこちらをじっと見つめてくる。
見慣れないヤツがいて不審に思われているのかな。問い詰められているような気持ちになり、言い訳するみたいな言葉が出てくる。





「あの、あなたの演奏がきれいだったから、その、つい・・」





上手く言葉が出てこない。覗き込むように表情を伺った。自分よりも少しだけ吊り目。その目の端がゆるんで、にっこり微笑んで手招きした。


「こっち来て座りなよ。」







テイルスは躊躇したのだが、相手の笑顔を前に背を向けることができない。結局招かれるまま隣に座った。
彼はレナルドと名乗った。とても好意的に接してくれるので次第に緊張はほぐれてきた。
テイルスは彼が手に持っている楽器が気になって、好奇心に従い尋ねてみた。

「これってなんていうの?」





木製で円筒形、指穴が数箇所あいている。上のほうに息を吹き込むところが付いてるが、テイルスが知っているような楽器と違い
底は閉じられている。普通の縦笛に似ず細長な形でなく、基本的な造りは似ているのだが実際は全く知らないものだった。

「これはコカリナ。とっても綺麗な音色でしょ。」

はい、と手渡された。固めの木でできたそれは、暖かみと柔らかな感触を持っている。





「吹いてみて。」





彼が勧めるので遠慮しつつ、そっと口をつけてみた。瞬間、ピー、という音が頭を貫きその大きさに驚いた。
強く吹いたつもりは全くなかったのだが。





「それで指をこう動かしてみて。」




言われたとおり動かしてみたら、つたないなりにも三音だけメロディらしく奏でられた。




「できた。」
「簡単でしょ。」



微笑みかけられたのでつい笑みを返してしまった。そのまま続きも教えてもらった。
慣れてくるとスムーズに指が動き、さっき聞いていた曲に段々近づいていった。








なんだか一緒に居て楽しい。音楽の力で二人は出会ってからすぐに仲良くなった。








「ウチに来ない?他にも面白いものがあるんだ。」





彼が住んでいるところはここからそう遠くないという。テイルスにはこの誘いはとてもうれしいものに感じられた。二つ返事でこたえていた。



「うん。」



座っていた岩から降り一緒に歩き出した。足取りはいつになく軽い。とてもいい友達ができたなと喜んでいた。
ただ、最初見たときに気になったことがひとつ、胸に少しだけ閊えていた。こちらが持っていることを気に留める素振りも見せず、
あまりに当然のように堂々と振舞うから、指摘するほうが妙な気がして結局聞きそびれてしまった。










































あなたも僕と同じ、二本の尻尾を持っているんだ。











































一覧へ   次へ
始まりました六回シリーズ第一回。
ちなみにタイトルはテイルスのテーマソング名をもじって付けたもの。

どうぞ最後までお付き合いください。