「あ、流れ星。」

流れ星が夜空に一筋落ちるのを見て、私はすかさず願い事を三回唱える。もちろん、憧れの彼とずっと一緒にいられますように、と。



今夜は流星群の夜。何年か周期で飛来する流れ星の星間旅行団体が今年また訪れて来たのだ。
観測するには絶好の条件だとテレビの天気予報は伝えた。ピークの時間帯はわりと早く、空には雲一つないしあまり冷えない。見る方角は東北東が良。


「あぁん、三回言い切れなかったぁ。」


今夜だって本当は彼が隣にいて欲しかった。
このイベントで彼との距離をぐっと恋人に近づけたくて、だから絶対逃したくなかったのに誘う事すらできなかっ た。



とはいえ単純に大好きなヒトと同じ時間を過ごしたいだけ。

なのに気まぐれに放浪する彼にいっつも振り回されてばかりだ。
どんな手段を用いてもいいから、こ うしたおまじないや迷信に頼ってもいいからとにかく私のこの希みが叶ってほしい。
一途な思いを空に馳せる。



でも流れ星は不意に落ち、瞬く間に消えてしまう。構えているとなかなか来ないくせに思ってもみないタイミングで現れる。




そのもどかしさはまるで憧れの彼と同じ。急に現れ勝手にいなくなる。

捕らえにくいという点でとても似た感覚がして、もしかしたら成功したときにおんなじよ うに彼を捕まえられそうな気がしたから、もう少し粘ってみる。




流れ星は不規則に一つ、またひとつ、そして時には続けざまで振ってきたりもした。
一つとして逃さず挑戦した。
でもやっぱりムリ。

むしろ段々こっちのほうが難しいんじゃないかって思うようになり、流れ星への願掛けも空しく感じて、次第に このまま続ける気をなくした。





「って!」


そう感じていた頃、不意に近くで誰かが声を上げた。
真夜中に誰かしら。より良く流れ星を見るために、なるべく街灯を避けて郊外に出たから人もそうそう来な いトコロなのに。

でも確かに聞こえた。気のせいじゃなく、ちょうど転んだ拍子に出るような声が草むらの向こうからした。
気になってその場所を覗き見ると、男のヒトが尻餅を ついていた。





すらっとして私よりも背の高いヒトがそこにいて、痛そうにお尻をさすっている。
やがて彼は顔を上げやたらと辺りを見回した。

まるでこの場に初めて降り立ったかのように、ちょっと不審に思えるくらいキョロキョロして、自らの状況を把握 しようとしていた。



そうして彼は様子を見ている私に気付いた。

目が合った。

さっきの仕草の怪しさからちょっと怖いと感じ心臓が跳ねたけど、何だろう、この場から逃げ出そうと は思わなかった。
でも声を出そうとしても言葉がノドでつっかえて出てこない。話しかけられない、叫ぶことも。






彼はおどおどしている私の方へゆっくり歩み寄り、そしてこう口を開いた。





「こんばんは、初めまして。僕は流れ星のフィラストロ。」


柔和な笑みを浮かべ夜の挨拶を言葉にする。
丁寧に自己紹介をしてくれているということはわかるんだけど、一言だけ引っかかるので私は聞き返していた。
声が少し間抜けに響いた。






「流れ星ぃ?」
「そう。今さっき空から降ってきたんだ。」

きっぱり言い切っちゃった。聞き間違いだったらそのまま会話で流してしまえばいいのに、掘り下げたのは私だけどね、気にしない方がよかった。
このヒトの目 は力強く光っていた。




本気で自分のことを流れ星だなんていうかな。変なヒト。

それか、もしかすると星降る夜に引っかけたナンパかもしれない。だったらどうしよう、すごく気持ち悪い。
私がそうやって不審がる眼差しを向けていたからか、それとも自分の発言を振り返ったのか彼はあわててこう言い出した。



「や、あの、別に変な意味はなくて、その・・・。そうだよね、知らない人からこんなこと言われたら、びっくりするよね?」

彼は溜め息を吐いてうなだれた。そのしぐさが無性にかわいらしく感じられて、頼りなさそうな表情からは全然怖いかもなんて思えなくて。



一気に安堵してどことなく気を許したのかな。
それか願掛けがうまくいかなくてヘコんで、寂しかった自分の傍に誰か居て欲しかったのかもしれない。



「変なの。まいいわ。私はエミー。よろしくね、フィラストロ。」



温かく彼を迎え入れていた。微笑みは自然とこぼれて、対して彼は恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

もう彼が言う変な事はあまり気にしないことにして。






「あなたも流れ星にお願いしに来たの?」

空がよく見える草の斜面に並んで座り込んでから話しかけてみる。




「あの、だから僕はさ・・・」
「はいはいそーだったわねフィラストロはお星さまだったのよねぇ。」
「もう・・・。」




不満そうに口を尖らせる彼。その顔がまたおかしかった。
彼からしてみれば真面目に話を聞いてくれないのが気に食わないだろうけど、私はもう友達のつもりで接している。
この話はからかうのには丁度いいネタだっ た。一方彼はすぐに顔を引き締め直して尋ねてきた。
彼にはまだ緊張が残っているみたいだ。



「も、って言ったね。エミーは何かお願い事があって来たの?」
「うん。ずっと願い続けてる事なんだけどね、どうしても叶えたくって、でもなかなか上手くいかないのよ。
いろいろ行動してるんだけどね。それでお星さまに 縋っちゃおうとね。」


でも何を願ったまでは言わない。他言するのは今回なぜか気が引けた。単に今知り合ったばかりでまだ完全に心を開いていないだけかもしれない。

彼がまだ硬い 表情をしていたせいかな。


フィラストロは「何を?」と聞き返したりしなかった。夜空を見上げたまま呟くように言う。


「その想いは、きっと流れ星に届くよ。」
「あは、そのお星さまがあなたじゃない。」


そう言って笑ってやった。真顔で恥ずかしい事を言い出すんだもん、こっちが恥ずかしくなる。
お返し、というか、私もちょっとだけ照れて、それを隠すために またからかった。




フィラストロは困ったような顔になり、赤くなった。ちょっとだけ可愛いと思う。
そのあと色々とお話した。彼はお星さまとしての生活を沢山語ってくれた。作り話だったら本当に良く出来ているくらいに。

そしてその全ては私たちとはかけ離 れた、不思議なものだった。







ロマンチックな夜にこうして知らない人とおしゃべりするのも悪くないかもしれない。理想とは違ってもそれはそれで心地良く楽しいものだったから。

ゆったりと時間は流れる。
































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サイトできた頭初にリストアップ後、放置されたコ その1

いゃねぇ構想はできてたんすよ。ただ文章にするとなかなか進まなくって・・・
遅筆ですんまへん;;