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日米の強襲揚陸艦部隊の出撃基地

 軍港佐世保の歴史は約100年におよぶ。戦前はアジアへ侵略する出撃基地であった。戦争末期、米軍は日本軍の施設を攻撃せずに残し、戦後はそこに米海軍第7艦隊佐世保基地を創設した。朝鮮戦争やベトナム戦争では補給基地となり、その後、米世界戦略のもと、アジアでの出撃・補給基地として急速な機能強化が進められてきた。

 米海軍佐世保基地の第一の特徴は、強襲揚陸艦部隊を母港化し、沖縄・岩国の海兵隊部隊と一体となった「水陸両用作戦」の出撃拠点であること。90年代以降、着々とその機能強化が図られてきた。水陸両用作戦とは、海兵隊を揚陸艦で敵地などへ運び、小型の上陸艇や航空機に移乗させて上陸・制圧する軍事作戦のこと。上陸後は、後続する兵力の到着までの間に安全を確保する環境を整え、港湾施設や飛行場を含めた拠点の奪取などを行う。

 第二の特徴は、米第7艦隊の艦艇約70隻を3カ月間行動させることが可能な約85万㎘の燃料と、約4万トンの弾薬を貯蔵する、西太平洋の燃料・弾薬の補給、中継基地点であること。

 イラク侵略戦争ではまさに弾薬・燃料の補給の役割を担い、そして強襲揚陸艦部隊は在沖縄海兵隊をアフガニスタンからイラクに輸送した。この海兵隊部隊はファルージャでの戦闘に参加し、1,300人を超えるといわれるイラク市民などを殺害したのである。

 一方、西海市の米軍LCAC整備場では、米海軍が地元との協定を反故にして夜間航行訓練を強行している。佐世保のLCAC部隊が独立組織として格上げになったことが背景にあるとみられるが、あらためて米軍の横暴さがあらわとなり、住民や自治体行政との矛盾と対立が激化している。

 この間、米オバマ政権は中国の台頭を念頭に、2020年までに海軍艦艇の60%をアジア太平洋地域に配備する方針の下、在日米海軍の強化やアジア太平洋への軍事力を再配置する政策をいっそう明確にしてきた。安倍政権も自衛隊が海外で米軍と肩を並べて戦争できる、憲法違反の戦争法制(「安全保障関連法制」)を強行した。

 そして「米国第一」を掲げて登場した米トランプ政権は、同盟国の軍事費増額や役割の拡大を求めてきた。そんな中、史上初の米朝首脳会談が開かれ、朝鮮半島の非核化と朝鮮戦争終結に向けて大きな潮流が生まれた。これが実現すれば北東アジアを中心に安全保障環境は激変する可能性がある。しかし安倍政権はこの流れに積極的に関与しようとせず、あくまでも力の政策に固執している。

強襲揚陸艦部隊とその強化


強襲揚陸艦アメリカの配備で航空戦力の本格的展開が可能に

 佐世保基地は米海軍の海外で唯一の強襲揚陸艦部隊の前進配備基地である。現在は、強襲揚陸艦アメリカをはじめとする5隻の揚陸艦と4隻の対機雷戦艦(掃海艦)の母港である。また揚陸艦に搭載するLCAC(世界の7割の海岸線から陸地に侵入できるエアクッション型上陸艇)7隻の唯一の海外基地でもある。

 強襲揚陸艦部隊は、相手からの攻撃をも打ち破って「なぐり込み」を強行するために、これまでトマホークミサイルなどの強力な打撃力を備えたイージス駆逐艦と攻撃型原子力潜水艦と共に「遠征打撃群」を編成して行動してきた。ところが、17年11月までに岩国海兵航空基地にF-35Bステルス戦闘機16機が配備され、19年12月に強襲揚陸艦アメリカが佐世保に配備されたことで戦略は一変した。

 F-35Bは強襲揚陸艦で運用できるように短距離離陸・垂直着陸の仕様にした戦闘機である。14年10月に就役した最新鋭の強襲揚陸艦アメリカは最初からF-35B運用を想定して設計され、従前の強襲揚陸艦より排水量を1割大きくする一方で、LCACを搭載しない構造とした。そのために格納庫が広くなり、最大で23機のF-35Bを収納/展開できるなど母艦機能が大幅に強化されている。強襲揚陸艦がオスプレイに加えてF-35Bを運用することは、遠征打撃群を編成することなく、海兵隊単独の航空戦力だけによる「なぐり込み」が十分可能になったことを意味する。

 しかしそれだけにとどまらない。この強襲揚陸艦部隊に海上戦闘ヘリを搭載したイージス駆逐艦部隊を加えることで、空母打撃群に準じた能力を身に付けるのである。この航空戦力を展開して軍事的威嚇の役割も果たす「強化型遠征打撃群」を編成する準備も始まっている。


グリーン・ベイ配備で“なぐり込み”機能強化

 また大型の格納庫を備え、輸送能力を強化したドック型輸送揚陸艦も大幅に強化された。15年2月と19年12月に、レーダーに映りにくいステルス構造の輸送揚陸艦グリーン・ベイとニューオリンズが配備された。それぞれがオスプレイ2機を搭載でき強襲揚陸艦に次ぐオスプレイの第2のプラットホームとなる。また一般の揚陸艦の2倍の車両を収容でき、大量の物資・弾薬・ジェット燃料を搭載できるなど、上陸部隊の展開能力も大幅に強化された。


強襲揚陸艦ボノム・リシャールの戦闘医療施設

 強襲揚陸艦部隊は海から空からの「なぐり込み」のプラットホームであり、同時に味方が受ける激しい被害を想定した戦闘維持部隊でもある。それぞれの揚陸艦には医療設備が整えられており、特に強襲揚陸艦アメリカには2つの手術室があり、常に3人の軍医、2人の看護師、1人の麻酔科医が配置され、輸血用の冷凍血液も大量に積んでいる。集中治療室を含む24の治療室のほか200床の病棟があり、計300人程度の同時治療が可能である。これらの機能は従前の強襲揚陸艦の施設の半分の規模であり、F-35Bの運用で味方の受ける被害を低く想定したものと思われる。作戦で実際に洋上に出る際には沖縄で海兵隊と一緒に医療チームが乗艦し、医療能力は3倍に拡張されるという。

●佐世保の強襲揚陸艦部隊が参加する主な演習

*自衛隊も参加
演習名 米国以外の主体 概要
コブラ・ゴールド * タイ 東南アジア最大級の多国間共同訓練
バリカタン * フィリピン 対テロ戦争の一環。ミンダナオ島や南沙諸島など
フィブレックス フィリピン 水陸両用訓練
タリスマン・セイバー * オーストラリア 両軍の各方面での機能の強化を目的。隔年。
マラバール インド 海軍共同訓練
カラット 各国 東南アジア「協力海上即応訓練」

水陸機動団(=日本版海兵隊)の創設

 18年3月27日、米強襲揚陸艦部隊と一体となって、海からの「なぐり込み」が可能となる水陸機動団(=日本版海兵隊)が佐世保の陸自駐屯地を中心に創設され、国内外で訓練を展開している。

 13年12月に安倍内閣が閣議決定した「新防衛大綱」は、陸・海・空3自衛隊を一体的かつ迅速に運用する「統合機動防衛力」を掲げた。その最初の1つが、離島への侵攻に対して「上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」を備えた水陸機動団である。

 水陸機動団は2つの水陸機動連隊と戦闘上陸部隊などから構成され、2,100人規模でスタートした。中核となる第1連隊は相浦駐屯地の西部方面普通科連隊(西普連)の改編によるもの。団司令部と第2連隊も相浦におかれた。水陸両用強襲車(AAV7)を運用する戦闘上陸部隊が分屯地と大分県駐屯地におかれ、迫撃砲を運用する特科大隊が大分県湯布院駐屯地におかれた。佐賀空港に配備予定の陸自オスプレイ、海自ヘリ空母、横須賀の海自掃海群、広島県呉基地の海自輸送艦とLCACなどと一体運用されることになる。18年度末には300人が増員され、最終的には第3連隊の新設を含めて3,000人規模とする計画である。

○西部方面普通科連隊を中核に


繁華街を武装更新する西部方面普通科連隊

 西普連は海兵隊的性格を有する部隊として02年に発足、その半数がレンジャー資格(山中での生存自活能力や対ゲリラ作戦など過酷な教程修了者)を有していた。

 06年からは毎年渡米して海兵隊基地で直接、強襲揚陸の手ほどきを受けてきた(実動演習アイアン・フィスト)。戦闘態勢での遠泳、偵察泳法、強襲揚陸の指揮方法、夜間強襲上陸などの訓練は米海兵隊が半年間の派兵前に受ける12週間の訓練の短縮版といわれる。

 西普連は水陸機動団創設に向けて早くから海外で米軍との共同演習や海自との統合訓練を行い、水陸両用作戦を実行できる能力を着実に備えてきた。水陸機動準備隊が発足してからは海自掃海群司令部、ヘリ空母、輸送艦、LCACが参加する本格的な水陸両用訓練を開始した。まさに満を持して水陸機動団が創設されたのである。

○第2水陸機動連隊も米海兵隊の下で

 各地から異動してきた隊員で編成された第2連隊も発足後、米海兵隊との共同訓練を開始した。

 ハワイとその周辺海域で行われた米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)では1カ月にわたって水路侵入、着上陸、敵制圧の訓練を行った。種子島とその周辺海域で米海兵隊と実施した実動演習では、旧種子島空港跡地を敵に占拠された陣地と見立て、海岸から上陸後に銃などで敵を制圧しながら奪回する訓練を行った。さらに20年のアイアン・フィストには初めて第2連隊が参加した。

○崎辺地区が「水陸機動団」の一大拠点に

①崎辺西側地区に陸自崎辺分屯地

 ここは佐世保重工業社有地(13.4ha)だったが、防衛省はこれを買収して19年3月26日、崎辺分屯地として開設し、水上を浮上航行できる水陸両用強襲車(AAV7)を運用する戦闘上陸大隊を配備した。隊庁舎や整備場、陸上訓練場などが建設され、AAV7は19年度中に約30両が配備となる予定(最終的には玖珠駐屯地も含めて計52両)。訓練場にはAAV7の登坂訓練用と思われる小高い山が造成され、洗車場や入水点検槽も設置された。

 陸上訓練は週に3回程度(1回は夜間)とされる。大規模な訓練は崎辺以外の演習場などで行うことになっているがAAV7を移動させるには、今のところトレーラを使うしか手段がなく、狭い市道での安全確保が課題となっている。今後、海に面した「着上陸訓練場」が整備される。着上陸訓練場が完成すればAAV7が直接、海に出ることやLCACの利用も可能となる。海上に設置される訓練海域の範囲はまだ決まらず、船舶の往来への影響や周辺住民の騒音に対する心配の声が高まっている。

②崎辺東側地区に輸送部隊の岸壁整備

 ここは現在は米海軍の崎辺海軍補助施設(12.9ha)だが、返還後に埋め立てを行ってL字型の大規模岸壁(約1,100m)を建設する計画となっている。さらに艦艇に搭載する弾薬を点検・維持する施設や弾薬一時保管庫などを整備する。ここには海自輸送艦、ひゅうが型/いずも型護衛艦(ヘリ空母)などが接岸し、水陸機動連隊と戦闘上陸大隊の隊員とAAV7を載せ、海外展開されることになる。20年度予算案には岸壁・桟橋の設計費1億5000万円、弾薬整備場の整備費6億5000万円が計上された。

○佐賀空港へのオスプレイ配備計画は不透明に

 水陸機動団の航空輸送を担うため、オスプレイ17機が導入される。防衛省は水陸機動団の拠点が佐世保であることを念頭に、佐賀空港に隣接する民有地30haを買い上げて陸自駐屯地とし、格納庫や誘導路等を整備して全機を配備する方針だった。しかしオスプレイの事故が相次ぐ中、地元漁民や市民のたたかいの前進によって計画はほとんど進んでいない。さらに目達原駐屯地の攻撃ヘリが住宅地に墜落したことで見通しが立たない状況が続いている。

 そのため、18年度に納入された5機は米国に留めおかれており、陸自隊員が渡米して海兵隊基地で飛行・整備訓練を続けている。防衛省は米軍オスプレイの整備拠点である陸自木更津駐屯地への「暫定配備」を要請。木更津市長は「5年以内の暫定配備」を受け入れた。


陸自木更津駐屯地(米軍木更津飛行場 定期航路からの航空写真)

○自衛隊版「強襲揚陸艦」部隊の編成

 16年7月、海上自衛隊は「掃海隊群」の再編を行い、これまで護衛艦隊に所属していた「第1輸送隊」(輸送艦3隻)を掃海隊群の指揮下においた。これまで掃海隊群は機雷の除去を主任務としてきたが、米軍の対機雷戦艦と同様に「水陸両用作戦の支援」を加わえた。

 海自輸送艦は医療設備も備え、AAV7の運用ができるように艦内および艦尾ハッチが改造され、米軍のドック型揚陸艦に相当するものとなった。

 「ひゅうが型護衛艦」は艦首から艦尾まで全通飛行甲板のヘリ空母であり、オスプレイの離発着・収納が可能である。通常の護衛艦と同様のミサイル、魚雷も装備されている。すでに米軍との水陸両用作戦と熊本震災支援で米軍のオスプレイを離発着させている。司令部機能のあるヘリ空母は米軍の強襲揚陸艦に相当するものとなる。

 このように水陸機動団の統合運用の態勢は米軍の強襲揚陸艦部隊の態勢と瓜二つである。さらに防衛省はF-35Bの導入と同機を離発着させるために「いずも型護衛艦」の改修工事を決定した(実は「いずも型」はF-35Bの運用を前提に設計されていた)。まさに日米の強襲揚陸艦部隊の出撃拠点として一体強化が図られることになる。

原子力空母の準母港化


戦闘機を満載して寄港した空母ステニス

 米海軍は横須賀港を原子力空母の海外における唯一の母港としており、佐世保港がその唯一の寄港地となっている。一方、米海軍は米領グアムのアプラ港に、空母が長期間滞在して船体のメンテナンスや乗員の休養ができる「中継港」づくりを進めている(想定は3週間×3回/年)。母港の横須賀と「中継港」のグアムを拠点に、西太平洋に原子力空母2隻を常時展開させようというものである。その際に、物資を補給し、乗員が1,2週間程度休息できる、いわば「準母港」として佐世保基地を利用する計画が浮上している。実際に東日本大震災時には佐世保が「臨時母港」としての役割を担わされた。

海上自衛隊の海外派兵の拠点

 01年11月9日、米英のアフガニスタン報復攻撃を「後方支援」するため海上自衛隊佐世保基地から3隻の自衛隊艦艇がインド洋へ戦時派遣された。これを皮切りにテロ特措法・イラク特措法・給油新法のもと、全国から延べ75隻の艦艇が派遣された。佐世保からは延べ27隻(延べ人員約6,800名)であった。また「後方支援」の中心となる補給艦の派遣は延べ27隻だったが佐世保からは延べ10隻(「はまな」が7回、「おうみ」が3回)で、まさに佐世保基地が海上自衛隊海外派兵の最大の拠点となった。

 その後のソマリア沖・アデン湾の「海賊対処」には、現在まで16隻の護衛艦が派遣されている。

 一方、三菱長崎造船所は佐世保基地に配備されている護衛艦の点検修理を一手に引き受け、補完基地の役割を担っている。また佐世保基地と呉基地に配備されている護衛艦のヘリ基地である長崎県の海自大村航空基地からは多数の哨戒ヘリSH−60J/Kが海外派兵されている。

ミサイル防衛構想の拠点


「ミサイル防衛」用に改造工事が施された2隻のイー
ジス護衛艦「173 こんごう」「176 ちょうかい」

 「ミサイル防衛」は唯一の超大国となったアメリカの先制攻撃の戦力にいささかも傷がつかないようにする戦略である。特に北朝鮮や中国から発射される弾道ミサイルから海外領土を守ることに主眼を置いており、米海軍が保有する2隻の弾道ミサイル追跡艦のうちハワード・O・ローレンツェンが佐世保にたびたび寄港している。

 日本はすでに6隻のイージス護衛艦に弾道ミサイルの監視・追跡能力及び迎撃能力を付加し、そのうち「こんごう」「ちょうかい」「あしがら」が佐世保配備である。さらに「あしがら」には日米で開発中の迎撃ミサイルのSM-3ブロックⅡAを発射できるようにさらなる改造工事を行うことが決定されている。