米海軍佐世保基地の最大の特徴は、強襲揚陸艦部隊を母港化し、沖縄・岩国の海兵隊部隊と一体となった「水陸両用作戦」の出撃拠点であり、90年代以降、着々とその機能強化が図られてきた。水陸両用作戦とは、海兵隊を揚陸艦で敵地などへ運び、小型の上陸艇や航空機に移乗させて上陸・制圧する軍事作戦のこと。上陸後は、後続する兵力の到着までの間に安全を確保する環境を整え、港湾施設や飛行場を含めた拠点の奪取などを行う。
また佐世保の陸上自衛隊も、離島防衛を名目に創設した「西部方面普通科連隊」を米海兵隊基地で訓練させ、日本版海兵隊とするべく育成が図られてきた。そして今年3月27日、「上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」を備えた「水陸機動団」へと改編された。この部隊は海自の輸送艦と「ヘリ空母」、陸自に導入されるオスプレイと共に機動展開され、佐世保はまさに日米の強襲揚陸艦部隊の出撃基地と化そうとしている。
一方、佐世保のLCAC部隊が独立組織として格上げになったことにともない、西海市のLCAC整備場では、米海軍が地元との協定を反故にして夜間航行訓練を強行している。あらためて米軍の横暴さがあらわとなり、住民や自治体行政との矛盾と対立が激化している。
この間、米オバマ政権は中国の台頭を念頭に、20年までに海軍艦艇の60%をアジア太平洋地域に配備する方針の下、在日米海軍の強化やアジア太平洋への軍事力を再配分する政策をいっそう明確にしてきた。安倍政権も自衛隊が海外で米軍と肩を並べて戦争できる、憲法違反の戦争法(「安全保障関連法制」)を強行した。
そして「米国第1」を掲げて誕生した米トランプ政権は、同盟国の軍事費増額や役割の拡大を求めてきた。そんな中、史上初の米朝首脳会談が開かれ、朝鮮半島の非核化と朝鮮戦争終結に向けて大きな潮流が生まれた。これが実現すれば北東アジアを中心に安全保障環境は激変する可能性がある。しかし安倍政権はこの流れに積極的に関与しようとせず、あくまでも力の政策に固執している。
米強襲揚陸艦部隊とその強化
強襲揚陸艦ワスプの配備で部隊は航空戦力の展開が可能に
佐世保基地は米海軍の海外で唯一の強襲揚陸艦部隊の前進配備基地となっている。強襲揚陸艦ワスプをはじめとする4隻の揚陸艦と4隻の掃海艦の母港である。また揚陸艦に搭載するLCAC(世界の7割の海岸線から陸地に侵入できるエアクッション型上陸艇)7隻の唯一の海外基地である。
またトマホークミサイルなどの強力な打撃力を備えたイージス駆逐艦と攻撃型原子力潜水艦とともに第7遠征打撃群を編成して、相手からの攻撃をも打ち破って「なぐり込み」を強行する能力も有している。
15年2月、輸送揚陸艦グリーン・ベイが配備された。最新の指揮統制システムを搭載し、レーダーに映りにくいステルス構造となっている。強襲揚陸艦に次ぐ、オスプレイの第2の飛行プラットホームの役割を果たし、なぐり込み能力は大幅に増強された。これに合わせるかのように15年3月から普天間基地の米オスプレイの佐世保飛来が始まった。主な目的は赤崎貯油所のヘリポートでの燃料補給のようである。飛来数は、15年は6回10機、16年は12回15機、17年は6回11機だった。
グリーン・ベイ配備で“なぐり込み”機能強化
18年1月、岩国の海兵航空基地のF-35Bステルス戦闘機を運用するために強襲揚陸艦ワスプが交代配備となった。F-35Bは強襲揚陸艦で運用できるように短距離離陸・垂直着陸の仕様となっている。1989年に就役したワスプは現役最古参の米強襲揚陸艦だが、F-35B運用のために飛行甲板を耐熱性のものに貼り替えるなどの改修工事が行われた。加えて低空の航空目標に対する探知・追尾能力を向上させたレーダーを搭載し、対空ミサイル発射装置を最新型の垂直発射機に変更するなど、戦闘システムは格段に機能強化されている。
強襲揚陸艦がオスプレイに加えてF-35Bを運用することは、これまでの遠征打撃群でなくとも、海兵隊単独の航空戦力による「なぐり込み」が十分可能になったことを意味する。しかしそれだけにとどまらない。この強襲揚陸艦部隊に海上戦闘ヘリを搭載したイージス駆逐艦部隊を加えることで、空母打撃群に準じた能力を持つようになる。この「強化型遠征打撃群」を編成する準備がワスプを中心にして始まっている。これは水陸両用作戦にとどまらずに、航空戦力を展開して軍事的威嚇の役割も果たすことが可能になる。
一方でワスプには4つの手術室と600床のベッド(集中治療用15、入院用38、緊急用約550)、不慮の事故に備えるX線検査室や血液保管室も整備され、航海時には医師など医療関係者が乗艦する世界最大の洋上戦闘医療施設を備えている。強襲揚陸艦部隊は海から空からの「なぐり込み」のプラットホームであり、同時に味方が受ける激しい被害を想定した戦闘維持部隊でもある。
強襲揚陸艦ボノム・リシャールの戦闘医療施設
●佐世保の強襲揚陸艦部隊が参加する主な演習
演習名 | 米国以外の主体 | 概要 |
コブラ・ゴールド | タイ | 東南アジア最大級の多国間共同訓練 |
バリカタン | フィリピン | 対テロ戦争の一環。ミンダナオ島や南沙諸島など |
フィブレックス | フィリピン | 水陸両用訓練 |
タリスマン・セイバー | オーストラリア | 両軍の各方面での機能の強化を目的。隔年。 |
マラバール | インド | 海軍共同訓練 |
フォールイーグル | 韓国 | 主に北朝鮮との紛争が勃発した事態などを想定。 |
カラット | 各国 | 東南アジア「協力海上即応訓練」 |
水陸機動団(=日本版海兵隊)の創設
相浦駐屯地で披露された水陸両用強襲車両と水陸機動団
18年3月27日、米強襲揚陸艦部隊と一体となって、海からの「なぐり込み」が可能となる日本版海兵隊=「水陸機動団」が佐世保の陸自相浦駐屯地を中心に創設された。
13年12月、安倍内閣が閣議決定した「新防衛大綱」は、陸・海・空3自衛隊を一体的かつ迅速に運用する「統合機動防衛力」を掲げた。その最初の1つが離島への侵攻に対して「上陸・奪回・確保するための本格的な水陸両用作戦能力」を備えた水陸機動団である。
水陸機動団は2つの水陸機動連隊と戦闘上陸部隊などから構成され、2,100人規模でスタートした。中核となる第1連隊700人は相浦駐屯地の西部方面普通科連隊(西普連)の改編によるもの。団司令部と第2連隊も相浦におかれた。水陸両用強襲車(AAV7)を運用する戦闘上陸部隊が分屯地と大分県駐屯地におかれ、迫撃砲を運用する特科大隊が大分県湯布院駐屯地におかれた。佐賀空港配備予定の陸自オスプレイと海自ヘリ空母、佐世保の海自第2掃海隊、広島県呉基地の海自輸送艦とLCACなどと一体運用されることになる。最終的には第3連隊(沖縄キャンプハンセンが検討されている)を含めて3,000人規模となる計画である。
○西部方面普通科連隊を中核に
繁華街を武装更新する西部方面普通科連隊
西普連は海兵隊的性格を有する部隊として02年に発足、その半数がレンジャー資格(山中での生存自活能力や対ゲリラ作戦など過酷な教程修了者)を有する。06年からは毎年渡米して海兵隊基地で直接、強襲揚陸の手ほどきを受けてきた。この訓練は米海兵隊が半年間の派兵前に受ける12週間の訓練の短縮版といわれる。オスプレイやAAV7にも搭乗し、米軍との相互連携訓練も行われ、共同作戦を実行できる能力を着実に備えてきた。
西普連は水陸機動団創設に向けて早くから米軍との共同訓練や海自との統合訓練を実施してきた。米国での水陸両用演習ドーン・ブリッツ(13年6月)、陸海空の3自衛隊による奄美群島での離島上陸・奪回の実戦訓練(14年5月)、米海軍リムパックの水陸両用訓練(14年6月)、佐世保市宇久島内と周辺海域で陸海水陸両用戦訓練(15年4月)、米豪合同演習に初めて米軍の分遣隊として参加(15年7月)、ドーン・ブリッツ(15年8月)、日米統合演習の一環としてテニアン島で「島しょ奪回」訓練(16年10月)。
一方、15年3月に水陸機動準備隊が発足して編成作業を開始し、17年3月には準備隊内に4つの準備班(本部、水陸機動部隊、戦闘上陸部隊、偵察部隊)が改編された。
以降は、水陸機動準備隊と西普連、海自掃海群司令部、ヘリ空母、輸送艦、LCACが参加する本格的な水陸両用訓練が実施された。また西普連の教育隊を廃止して、ボートの操舟や水陸両用強襲車両の操縦など水陸両用作戦に必要な知識と技術を修得させる水陸機動教育隊が設置された。
○崎辺地区が戦闘車両部隊/輸送部隊の拠点に
(1)崎辺西側地区に陸自崎辺分屯地
ここは佐世保重工業社有地(13.4ha)だったが、これを買収して崎辺分屯地とした。地上だけでなく、水上を浮上航行する能力を持つAAV7を運用する戦闘上陸部隊が置かれ、本部庁舎、隊舎、整備工場、厚生施設などが設置される。陸上にAAV7の訓練区域、海上に訓練海域が設けられる。訓練海域の範囲がまだ決まらず、船舶の往来への影響や周辺住民の騒音に対する心配の声が高まっている。
工事は地元との調整がこじれて当初計画より大幅に遅れ、完成は18年末となる予定。そのためAAV7(6両)と運用部隊(約160人)を相浦駐屯地に暫定配備することになった。またAAV7は昨年11月までに30両が納入される予定だったが、米国での部品調達の遅れから、今年4月までに納入されたのは6両にすぎず、全52両が揃う時期は不明である。なおAAV7などを整備する工場が昨年9月に佐賀県の陸自目達原駐屯地に完成している。
※AAVはAssault Amphibious Vehicleの略で、水陸両用強襲車両のこと。
防衛省は「強襲」を意図的に外して「水陸両用車」と呼称している。
(2)崎辺東側地区に輸送部隊の岸壁整備
ここは現在米海軍の崎辺海軍補助施設(12.9ha)だが、返還後に埋め立てを行ってL字型の大規模岸壁(およそ600m)を建設する計画となっている。ここには海自輸送艦、ひゅうが型/いずも型護衛艦(ヘリ空母)などが接岸し、水陸機動連隊の隊員、戦闘上陸部隊の隊員とAAV7を載せ、海外展開されることになる。
○佐賀空港へのオスプレイ配備計画は不透明に
水陸機動団の航空輸送を担うため、オスプレイ17機が導入される。防衛省は水陸機動団の拠点が佐世保であることを念頭に、佐賀空港に隣接する民有地30haを買い上げて格納庫や誘導路等を整備し、全機を配備する方針だった。しかしオスプレイの事故が相次ぐ中、地元漁民や市民のたたかいの前進によって計画はほとんど進まず、整備予算の計上も大幅減額となっている。さらに目達原駐屯地の攻撃ヘリが住宅地に墜落したことで見通しが立たない状況となっている。そのため、18年度に納入される5機については米軍オスプレイの整備拠点である木更津駐屯地に暫定配備するとみられている。また熊本県の陸自分屯地や長崎空港/海自大村航空基地などへの暫定配備も取りざたされている。
○自衛隊版「強襲揚陸艦部隊」の編成
16年7月、海上自衛隊は「掃海隊群」の再編を行い、これまで護衛艦隊に所属していた「第1輸送隊」(輸送艦3隻)を掃海隊群の指揮下においた。これまで掃海隊群は機雷の除去を主任務としてきたが、米軍の掃海艦と同じように、新たに「水陸両用作戦の支援」が加わったのである。海自輸送艦は医療設備も備え、米軍のドック型揚陸艦に相当するものとなる。輸送艦はAAV7の運用ができるように艦内および艦尾ハッチが改造される。また西海市の米軍LCAC整備場ではこの間、海自のLCACが整備訓練や航行訓練を行うなど、共同利用に向けた動きも加速している。
昨年3月に佐世保に配備された「護衛艦いせ」は「ひゅうが型」2番艦で、艦首から艦尾まで全通飛行甲板のヘリ空母であり、オスプレイの離発着・収納が可能である。通常の護衛艦と同様のミサイル、魚雷も装備されている。すでに「ひゅうが」は米軍との水陸両用作戦と熊本震災支援で米軍のオスプレイを離発着させている。司令部機能のあるヘリ空母は米軍の強襲揚陸艦に相当するものとなる。水陸機動団の統合運用の態勢は米軍の強襲揚陸艦部隊の態勢と瓜二つである。
さらに防衛省では離島防衛に必要だとして、F-35Bの導入と同機を離発着させるために「いずも型ヘリ空母」の甲板改修案が検討されている。その検討には日米共同運用を想定していることも報道されている。「いずも型ヘリ空母」はワスプとほぼ同じサイズであり、まさに日米の強襲揚陸艦部隊の出撃拠点として一体強化が図られることになる。すでに昨年6月には水陸両用作戦に係る運用や訓練の検討の方向性を日米間で案出することを目的とした初の「日米水陸両用将官級会議」が開催されている。
※18年度までの予算措置は以下のとおり
相浦駐屯地:庁舎の改修や隊舎建設費、訓練施設の整備費等88億円
崎辺西側地区:用地取得費等23億円/庁舎や整備工場などの整備費126億円/AAV7の購入費52両で366億円
崎辺東側地区:岸壁整備調査費3.7億円/輸送艦3隻の改修費42億円(いずも型護衛艦への司令部機能付与含む)