猫かぶり御曹司とニセモノ令嬢 何もしない特別な日 後編 びっくりして抵抗できないでいる啓也の唇を舌先で撫で、わずかに開いた隙間から中に挿し入れる。彼の舌を捕まえた瞬間、寒気にも似た痺れが背中に走った。 いつも啓也がするみたいに、舌を絡め頬の内側を舐める。私と同じように感じてくれているのか、彼の肩がひくっと震えた。 「ん……」 自分からキスしているのに声が漏れてしまう。恥ずかしいけど止められない。ゾクゾクして気持ちよくて、自然に息が上がり、身体の奥が熱を持ち始めた。 角度を変えて何度も唇を合わせる。無意識に啓也の浴衣のあわせへ手を滑り込ませると、彼は低く呻いて顔をそらした。 「……汐里、いいの?」 熱っぽい吐息に乗せたささやき。欲に呑まれたかすれ声にドキドキする。私はゆっくりとうなずいて、啓也の首に吸いついた。 舌で彼の肌が粟立っていることを確かめる。浴衣の内側に入れた手で襟を少し広げ、露わになった鎖骨を舐めた。 啓也の手が私の肩をぐっとつかむ。 「あのさ、俺がしたいんだけど、ダメ?」 いつもなら私が積極的になると喜ぶのに、今日は逆らしい。多分、私の誕生日だということを気にしてくれているんだろう。彼の思いやりに、また心がふわりと温かくなる。 キスを続けながら、小さく首を振った。 「だめ。私の誕生日なんだから、言うことを聞いて」 諦めたように啓也の口から溜息がこぼれる。 まさか誕生日の切り札をこんな風に使うとは、自分でも思っていなかった。彼に気づかれないようにこっそりと苦笑いする。 啓也の浴衣の帯をほどき、はだけた襟をさらに大きく開く。上半身を剥き出しにして肩に口付けた。 すうっと吹き抜けた風が私の髪をゆらす。今さらここが外だと思い出して、顔がほてった。 「寒くない?」 気づいてしまった状況にドキドキが加速する。羞恥をごまかすように問いかけると、啓也はふっと笑った。 「平気」 ほんの少しだけこのまま続けることを躊躇したけれど、今日、彼が私にしてくれた色々を思い出して、恥ずかしさを振りきった。私だって啓也の喜ぶことをしてあげたい。過去の彼の言動から考えれば……外でしてみたいと思ってるんだろうし…… 手を開いて彼の胸をそうっと撫でる。ぎりぎり触れるくらいの位置で何度かくり返すと、胸の真ん中が硬くなった。 気を良くした私は手を下へと滑らせる。引き締まったお腹をたどり、下着の上から彼の中心を撫でた。そこはもう熱を持って、立ち上がりかけていた。 「ちょっとだけ腰上げて」 お願いすると、啓也は縁台に手をつき腰を浮かせてくれた。すかさず下着を下げ、中のものに手を這わせる。触れた瞬間、彼が鋭く息を詰めたのが私にもわかった。 少し後ろに下がって身をかがめる。手を動かしながら、彼の胸にキスをした。 「あ、汐里……っ」 啓也が少しだけ上ずった声をあげる。 感じてくれているのが嬉しくて、もっと感じてほしくて、彼の胸の尖りに舌を当てた。舌先で突き、平たいところで全体を撫でる。唇を押しつけて少し強めに吸うと、手の中のものがビクッと跳ねた。 鼓動に合わせて震えるそれは、凄く熱くなっている。ただ彼を良くしているだけで私は何もされていないのに、秘部の入り口がじんじんと痺れ出した。 胸の中心を吸い、握った手を上下させると、啓也の呼吸が急に荒くなった。 手はそのままで顔を上げる。目元をほんのりと染め、濡れた瞳をさまよわせている彼はひどく色っぽくて、胸が詰まった。 「啓也、今の好き?」 「ん……いい、かも」 饒舌じゃない啓也はちょっと可愛い。ますます嬉しくなった私が続きをしようとすると、彼の手に止められた。 「俺も、汐里のこと触りたい」 熱っぽい目をまっすぐに向けられたら、嫌とは言えない。恥ずかしさをこらえて小さくうなずくと、手早く帯を外され、彼と同じように浴衣をはだけられた。 「あっ」 外で裸になるのは、やっぱり抵抗がある。とっさに身を硬くした私を、啓也はかかえ上げるようにして抱き寄せた。 自然に重なる唇。今度は啓也の舌に私のが絡め取られる。彼の腕の中でキスを受けているうちに、ブラがずらされていた。 少し冷たい啓也の指が、私の膨らみに触れる。最初は形を確かめるようにそっと、次に全体をゆらして、指先が胸の先端をこすり始めた。 硬く敏感になったそこを、指の腹で少し乱暴に転がされる。むずがゆいようなピリピリした痺れが湧き上がり、お腹の奥へと流れこむ。溜まっていく快感が下半身を震わせた。 「んっ、ん……」 絡まる舌の感触と、胸からの甘い痺れが混ざり合って凄く気持ちいい。我慢しきれない声が漏れてしまう。快感に流されかけた私は、啓也を良くしてあげたかったのを唐突に思い出した。 一旦離してしまっていた手を、また彼の足の付け根へと伸ばす。さっきと同じようにそこを刺激しながら、もう一方の手で胸をさすった。 互いを慰め合っている状況に呼吸が乱れて、頭が痺れてくる。夜であたりに人がいないとはいえ、外でこんなことをしていると意識するたびに興奮が増していく。背徳感に押され、早くも限界を感じた私は思わず仰け反った。 「ん、あっ、啓也、だめ……もう、私……」 「イッていいよ」 首を横に振って、与えられた許しの言葉を拒否する。 「一緒が、いい」 「え、でも……」 一瞬、目を瞠った啓也は、視線をさっと庭の方へ向ける。彼が何を言おうとしているのかはわかっていたけど、指摘される前にギュッとしがみついた。 「い、いいからして」 顔を見られないよう啓也の胸元に押しつけ言いきる。耳のすぐ傍で彼が息を呑む音を聞いた。 啓也は無言のまま私のブラを外し、はだけていた浴衣を引き上げ肩にかけた。それから自分の浴衣も脱いで同じように私に羽織らせる。なんのためにこんなことをするのかわからず、ぼんやり見上げていると、そっと肩を押され縁台に横たえられた。 「下が固いから、ちょっと背中痛いかも……」 気遣わしげな彼の視線にハッとする。私が痛くないように考えてくれたらしい。その優しさが嬉しくて思わず手を伸ばすと、苦笑いを返された。 「ちょっとだけ待って」 彼は手早く私のショーツを抜き取って、自分も下着を脱いだ。 私は浴衣を肩にかけただけで、彼は裸。ほとんど生まれたままの姿で見つめ合う。注がれる視線の熱さにぶるっと震えた。 もう一度、啓也に向かって手を伸ばすと、倒れ込むようにして抱き締められた。触れ合う人肌が気持ちいい。何故か、なくしていたものを見つけた時みたいな安堵を覚えて、ほうっと息を吐いた。 おもむろに重なった唇に吐息を吸い取られる。同時に私の膨らみに触れた手が、脇腹からおへそをたどり足の付け根に行きついた。 隠しようがないほど濡れているそこは、難なく彼の指を受け入れる。いつもなら焦らすように入り口をくすぐられたりするのに、今日は始めから深く入り込み、私の一番いい場所をこすった。 「ふっ……ん、んっ」 口を舌で、秘部を指で苛まれ、声を出すこともできずに仰け反る。さっきイキかけた身体はまたすぐに燃え上がってしまう。気持ちいい場所を容赦なく刺激されて、お腹の奥がぐうっと強張った。 気づくと彼の指の動きに合わせて、腰をゆらしていた。恥ずかしいのに、良すぎて止められない。 露天風呂から響く音とは違う、いやらしい水音が絶え間なく鳴っている。抜き挿しされるたびに掻き出された雫が、腰の方まで濡らしていた。 唇を離した啓也が、私の耳たぶを舐めた。 「汐里、いつもより感じやすくなってるよね。外だから?」 「あ、いやっ……」 恥ずかしい指摘にぶるぶると首を振る。羞恥に煽られ、快感がさらに膨れ上がった。 身体が燃えているように熱い。下半身は大きく脈打ち、ガクガク震えてる。彼の指を呑み込んでいる場所は、もっと欲しいとばかりにひくついていた。 指が行き来するたびに強い快感が突き抜ける。ほんの少しの痛みと、甘い痺れ、じっとしていられないほど切ない感覚。最後を悟った私は全身を強張らせ、眉間にギュッと力を込めた。 「だ、めっ、イッちゃうっ」 「いいよ」 「やあっ、入れて。啓也ので、イキた……の」 彼の腕を強くつかんで、涙の浮いた瞳を向ける。呼吸が激しすぎて声がかすれてしまったけど、言いたいことは伝わったらしく、啓也は苦しげな表情で目を伏せた。 「あー、もうっ。そういうことを言わない」 少し乱暴にそう吐き捨て、彼は私の片足をかかえ上げる。埋められていた指を一気に引き抜かれ、身体が跳ねた。 間を置かずに秘部へ触れる熱い塊。指より遥かに大きなそれが、ひだを割り開き進んでくる。 「あ、あっ!」 すっかり潤んでいるから痛くはないけど、開かれ挿し込まれる感触が堪らない。内側の気持ちいいところを、あますことなくこすられて首を反らした。 ゆっくりと進んできた啓也の身体が、奥まで行きついて止まる。ぴったりと重なると、彼の唇がこめかみに触れた。 「全部入ったよ。汐里の中、凄く熱い」 「う……」 言われなくてもわかってる。奥まで全部塞がれて、下半身が心臓になったみたいに脈打っていた。勝手に内側が張り詰め、彼のものを締めつけてしまう。 恥ずかしくて目を開けていられない。閉じた瞼に押し出され、涙がこぼれ落ちた。気づいた啓也が目尻にキスしてくれる。 「汐里、少しだけ声我慢して。大丈夫だと思うけど、聞こえるとまずいから」 反射的に身体が震えた。気持ちよさに流されて少しの間、忘れかけていたけど、ここが外だと気づかされる。 ああ、やだ。私こんなところで…… 自分から望んだこととはいえ、あまりの羞恥に打ちのめされる。いけないと思うほどに快感が高まっていく。 啓也が腰を引き、また戻ってくる。ゆっくりした動きなのに、内側があふれるほど濡れているせいで、くちゅくちゅと音が立った。 甘い感覚がじわじわ広がる、けど足りない。もっといっぱい感じたい。気持ち良いところをこすって、強く突いてほしい…… もどかしくて堪えきれなくなった私は、啓也の動きに合わせて腰をくねらせた。 閉じた瞼の向こうで、彼がくすっと笑う声が聞こえた。 「もっと? 外でそんなに激しくしちゃっていいの?」 「あ、あぁ……」 私を煽るために啓也がわざと言っていることはわかってるけど、抵抗できない。ここで今以上にいやらしい姿をさらす自分を想像して、さらに身体が熱くなった。 「どうする?」 相変わらずゆったりとした抽送をしながら問われる。中途半端に与えられる快感がつらくて、何度も首を振った。 「いや、それ、やぁっ。もっと……もっとして……っ」 額にキスを落とした彼が、唇をあてたまま口角を上げた。 「じゃ、声抑えてね。あと目も開けて。汐里の顔を見ていたいから」 乞われて、そろりと瞼を上げる。見つめ合った刹那、熱い楔が私の一番奥に突き刺さった。 「ひうぅっ!」 始まる激しい律動に引き摺られ、身体が大きく跳ねた。湧き上がる快感に呑まれ、何がなんだかわからなくなる。甘いのに苦しくて、ビリビリしてるのに気持ちいい。涙をこぼしながら、夢中で彼の動きに合わせた。 「あっ、いい……啓也、気持ちい……はぁ、ああっ!」 背中をしならせてあえぐと、片手を取られ口もとへ運ばれた。 「だから、声やばいって。自分の指咥えてて」 言われたとおりに指を口に含む。普段しない行為に少しだけ抵抗を覚えたけれど、拒否して続けてもらえなくなることが怖かった。 抜き挿しされるたびに、ぐちゅぐちゅと音がして、痛いくらいの快感が突き抜ける。限界を感じた私は、かかえ上げられていない方の足を縁台に突っ張り、大きく仰け反った。 もう、イッちゃう……! 「ふっ、う、んっ、ん、んんんーっ!!」 ぎゅうっとつぶった瞼の裏に白い閃光が走る。力みすぎた身体がブルブル震え、昇りきった途端、一気に弛緩した。 脱力し、少しの間、呆然とする。うるさいくらい速い鼓動と息苦しさのなか、啓也がそっと身を起こしたのに気づいた。イッたせいで何も考えられないまま目を向けると、彼は眉間に皺を刻み、苦しそうに息を吐いた。 「ごめん、汐里。合わせられなかった」 え? なんのことかわからずに眉を寄せる。と、割れ目の上にある蕾がピリッと痺れた。 達したあとの過敏な身体はわずかな刺激も拾い、またお腹の奥を強張らせる。驚いて見れば、啓也が指先でそこを刺激していた。 「ん、ん!?」 私は指を咥えたまま呻いた。 「あと少しだから、次は一緒にイケると思う」 次、という言葉に衝撃を受ける。そういえば埋められた彼のものはまだ熱くて、硬くて…… 一層大きさを増したそれが、また中を行き来し出す。すぎる快感に身を震わせた私は何度も何度も首を振った。 す、すぐは無理だってばーっ! 混乱しすぎて口から指を外すことさえ思い至らない私は、結局、啓也が満足するまで声を殺し続けた。 「あ、膝すりむけてる」 離れの庭にしつらえられた露天風呂に浸かりながら、啓也は自分の膝頭を見つめる。隣から私が覗き込むと、彼は見やすいように膝をお湯から出してくれた。 血は出ていないけど薄く皮膚が剥がれて、少し赤くなっている。縁台にこすれたせいだというのは、聞かなくてもわかった。 「大丈夫?」 「ああ、平気。汐里はどこか、すったりしてない?」 言われて肩と肘に目を向ける。見える範囲に傷はないし、痛いところもない。 「うん、してない。ありがと」 心配してくれたことにお礼を言って微笑むと、急に抱き寄せられた。思いきり。お湯がざぶんと波立ったことに驚いて目を瞠る。 「ちょ、なに!?」 「はー……しあわせー……」 私の抗議を無視して、啓也は溜息と共に感極まったような声を出した。 「さっきの汐里、凄く可愛かった。あんなに乱れて……でも、どういう心境変化? 外では絶対嫌だって言っていたのに」 訊かれたくない問いを突き付けられた私は、ぐっと言葉に詰まる。さっきの恥ずかしさが思い出されて、顔を背けた。 「し、知らないっ」 自然に彼の方を向いてしまった耳に、彼の唇がそっと触れた。 「まあ、なんとなくわかるけど。汐里、もらったものは返さないと気になるタイプだし。恥ずかしくて嫌だけど俺が喜ぶと思った、とかでしょ?」 耳元にある啓也の顔を強引にのけ、向き直る。目を合わせてギリッと睨みつけた。わかっているなら訊かないでほしいし、わざわざ言わなくていい。 彼は憮然としている私におかまいなしで、唇に触れるだけのキスをした。 「お返しは期待してなかったんだけど、俺のためにしてくれてるんだと思うと嬉しくて。汐里の可愛いところを見られるのは俺だけなんだって考えて、凄く興奮した」 「なっ、当たり前でしょ!? あ、あんなこと……啓也だけだよ」 またギュッと抱き締められる。今度は抗議しないで素直に身を任せた。 彼の肩に頬をつけ、温もりを肌で感じる。お湯の流れ落ちる音のなか、静かに目を閉じた。 しばらくそのままぼんやりしていると、啓也が長く息を吐くのが聞こえた。 「ねえ、汐里。来月で付き合い始めてから一年になるって、気づいてた?」 「ん……うん、覚えてるけど」 ちょっとおかしな出逢い方をした私たちだけど、啓也が告白してくれたのを交際の始まりとするなら来月で一年になる。私から離れようとした彼を追いかけ、守崎家まで行ったことが懐かしく思い出された。 「まあ今も記念日には変わりないんだけど、もっと特別な日にしたいって言ったら、どうする?」 「え?」 何を言われているのかわからずに、内心で首をひねる。顔を上げ彼を見つめると、笑った啓也がお互いのおでこをこつんとぶつけてきた。 「一緒の名字になる記念日、とか」 ハッとして目を見開く。入籍しようと言われていることに、やっと思い至った。 結婚式や披露宴は準備に時間がかかるし、真奈さんが妊娠していることもあって、啓也のご両親から待ってほしいと言われている。でも籍をどうするかは二人で決めていいことになっていた。 少しだけ顔を離して、そうっと見上げる。ドキドキして頬が熱いのは、きっと温泉で温まっているせいじゃない。 「……いいの?」 「いいよ、って、俺がそう訊く方じゃない?」 苦笑いする啓也にしがみつく。凄く凄く幸せで、何よりも素敵なバースデープレゼントだ。 「嬉しい」 「俺も、凄く嬉しい」 私のこめかみにキスを落とした彼が、空を見上げた。つられて上を向いた目に映る、まんまるのお月さま。 「こういう時に、月が綺麗ですねって言えばいいのかな?」 啓也がおどけて、文豪の口説き文句を声に出す。思わず笑ってしまった私は、きっぱりと首を振った。 「そんな遠まわしじゃ、わからないよ。ちゃんと愛してるって言ってくれなきゃ」 彼の視線がまっすぐ私に向けられる。 「汐里を愛してる。俺の奥さんになってください」 「……はい」 うなずく私の瞳から、ぽろっと一粒、涙が落ちた。また泣き虫だって言われるかもしれないけど、こんなに幸せな気持ちになれるなら、泣き虫でかまわないと思った。 END 前編 ← |
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