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 猫かぶり御曹司とニセモノ令嬢  心と身体と想いの丈

後編

 腋へ挿し込まれた手に促され、浴槽の中でひざ立ちする。身体を支えるために、ふちへ手をついたところで、また口付けられた。
 バスルームの床にしゃがんだ啓也よりも顔の位置が高いから、必然的に見下ろす形でキスを受ける。
 腋から胸へ移動してきた彼の手が、膨らみを持ち上げるように揉んだ。
 彼の指の間に挟まれた尖りも一緒にゆらされた。
「んっ、う……」
 熱いのに寒気を感じて、鳥肌が立つ。
 啓也は唇を離すと、空いている方の手で私の腕をそっと撫でた。
「汐里、危ないから俺の肩に手を置いて。すべりそう」
「……うん」
 自分でも気づかないうちに、腕が震えていたらしい。
 言われたとおり彼の肩をつかむと、満足そうに微笑んだ啓也が私の胸元へ顔を埋めた。
 膨らみの片方を手で、もう一方を唇で刺激される。久しぶりの強い快感に、ぶるっと震えた。
「あ、あ、啓也……っ」
 まだ胸をいじられているだけなのに、気持ちよすぎて涙が浮く。全身に響く快感が、足の付け根を痺れさせた。
 勝手に腰がゆれる。恥ずかしいから止めたいのに、止まらない。
 腕に触れていた啓也の手が離れ、脇腹をたどり腰を撫でた。
「俺が欲しい? ここに……」
 ゆっくりと下りた指が後ろから秘部へ触れる。お湯の中でも、そこが内側から溢れたもので濡れているのは明白だった。
 ぐっと言葉につまる。湧き上がる羞恥心が、胸の奥の本音を縛りつけていた。
「教えて、汐里」
 優しく促す声。さっきの啓也の言葉が、心の中に蘇った。
 好きだから、愛してるから、もっとくっつきたい。深く繋がりたい。啓也も……私も。
「好き。啓也が好きなの。欲しい、よ」
「……汐里」
 押し込まれた指先が、わずかにひだを割り開く。
 私は思いきり首を振った。
「や……指じゃなくて……」
 想いが強すぎて、指なんかじゃ足りない。直接、彼を感じたかった。
 一瞬、つらそうに眉を寄せた啓也は、私を抱きかかえるようにしながら立ち上がった。
 身体にまとわりついたお湯が、派手な音を立てて流れ落ちる。キャンドルの淡い明かりだけのバスルームが、さらに暗くなった。振り向いて確認する余裕はないけど、いくつか消えてしまったらしい。飛沫がかかったのかもしれない。
 立ち上がった私は浴槽のふちを越え、彼に抱きついた。しっかりと触れ合う肌にほっとする。
 啓也も同じように、深く息を吐いた。
「……入りたい。今、すぐ」
 お願いとかじゃなく、独り言みたいなものなんだろう。目線を向けた彼の表情に、少しだけ焦りが見えた。
「あ、あの、啓也。座って」
 啓也の首にまわしていた両手を肩に戻して、軽く下へ押す。
 私の意図が読めないらしい彼は、わずかに不思議そうな顔をしたものの、従ってくれた。
 肩に手を置いたまま私も一緒にかがみ、彼の身体を跨ぐように大きく足を開く。そのまま座り込むかたちで、腰を落とした。
 床に膝をついて身体を支えながら、彼のものに手を伸ばす。位置を確かめるために、お互いの敏感な部分をすり合わせた。
 ハッと目を開いた啓也が、私を見上げた。
「汐里」
「う……見ないで……」
 とっさに顔を背けた。
 前に一度したことがあるといっても、自分から受け入れるのは慣れないし、ひどく羞恥を煽る。それでも彼の希望を叶えてあげたくて、一気に腰を下ろした。
「あ、汐里っ」
「あぁっ!」
 苦しそうな彼の声と、私の嬌声が重なる。
 久しぶりだからか、しっかりと濡れていたはずなのに抵抗を感じた。痛いまではいかないけれど、中がびりびり痺れている。その違和感さえも気持ちよくて、背中を反らせた。
「は、あ、啓也、好き……」
 想いを口にするたびに、言うことを聞かない身体が勝手に彼を締めつける。
 私の肩に顔を埋めた啓也が、ぐうっと唸った。
「ああ、もう……すぐ出そう」
 嘘じゃないと証明するみたいに、彼の背中が小さく痙攣した。
 愛しさが、恥ずかしさを凌駕し、塗り替えていく。私のすることで啓也がこんな風になっていると思うと嬉しくて、胸の奥が熱くなった。
 床についた膝を使って腰を上げ、下ろす。離れかけた彼のものが、私の内側をこすり、甘い感覚を呼び起こした。
「んん……っ」
「あっ、汐里。ダメだって!」
 切羽詰ったような声に、首を振ってみせる。
「いい、から。イッて、啓也」
 私から積極的に動くなんてしたことがないから、たどたどしいだろうけど、少しでも彼を良くしたくて一生懸命くり返した。
 いつの間にか脇腹に添えられた啓也の手が、動きを助けてくれている。
 耳にかかる荒い吐息と、時々漏れる小さな呻き声に、彼が感じてくれているのを知った。
「あぁ、汐里、汐里……好きだ……あ、イク……!」
 啓也が、くっと息をつめる。
 瞬間、骨が軋むほど強く抱き寄せられた。
 苦しいと思う間もなく、中に埋まっている楔がビクッとはねた。そのまま、小刻みに痙攣しているのがわかる。いつもは私の方が先にイッてしまうから知らなかったけど、なんだかちょっと可愛い。
 彼の肩に頭をもたれさせて、落ち着くのをじっと待つ。満足したように吐き出された溜息に気づいて顔を上げると、あからさまに目をそらされた。
「啓也?」
「……ごめん。汐里」
「え?」
 いきなりの謝罪に、ぱちぱちとまばたきをする。
 何のことかわからずに見つめた先の啓也は、耳まで真っ赤だった。
「いくら溜まってたからって、一人で先にイクとか……俺、スゲー格好悪い……」
 小声で告げられた言い訳っぽい言葉に、思いきり眉を寄せた。
 一体、何の話だろう。というか……
「もしかして、啓也、恥ずかしいの?」
「うっ」
 ギクッと肩を震わせた啓也は、そわそわと視線をさまよわせる。
 変なところでうろたえる彼が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
「可愛い」
「な、笑うなよ」
 少し荒っぽい言葉を返される。機嫌が悪い時の彼の癖。拗ねているのさえも、なんだか微笑ましくて、頬にキスを落とした。
 まだ中にある彼のものが、また大きさを増す。さっき達したばかりとは思えない反応に、背中を震わせた。
「あ……啓也?」
「二週間もしてなかったんだから、一度で済むはずないでしょ」
 当然だと言わんばかりの言葉に、目を剥く。
 唖然として見合ったところで、啓也が邪悪な笑みを見せた。

 浴槽へ手を伸ばした啓也が、お湯を弾いた途端、バスルームが真っ暗になった。お湯をかけてキャンドルを消したんだろう。
 突然の暗闇に身動きできないでいると、ほとんど無理矢理、下から突き上げられた。
「ん、あっ。啓也!」
 イクほどじゃなかったけど事前に触れ合っていたせいで、ちょっと動かされただけでも快感が広がる。
 声と内側が震えていることで、私の状態に気づいたらしい啓也は、ふふっと笑った。
「今度は汐里が良くなるように動いてよ。自分のイイところ、わかるよね?」
「え……や、あぁっ」
 拒否の言葉が出る前に脇腹をつかまれ、持ち上げて落とされた。私と彼が交じり合う音が、湿気の満ちたバスルームに響く。
 同じように何度かゆらされるうち、湧き上がる感覚に耐えきれなくなった私は自分から動き出していた。
 多分、わざとなんだろうけど、啓也が明かりを消してくれたおかげであまり恥ずかしさを感じない。気持ちよさに身を任せて、夢中で腰を動かした。
「あぁ、あ、啓也ぁ。いやだ、いい、よぅ」
「嫌なの? 止める?」
 どこか楽しそうな、からかいを含んだ声に首を振った。
「ち、違う、の。止めない、で」
 ここでおしまいなんて、考えただけで気が狂いそう。どんどん膨らむ快感が、お腹の奥をぎゅうっと強張らせた。
 身体のあちこちがビクビクと震え出した。張りつめた感覚が爆発する前触れだってことは、わかってる。最後に向けて動きを速めようとした私は、啓也の腕に背中と腰を押さえ込まれた。
「ちょっとだけ、待って」
「え? や、やだ。うそ……!」
 がっちり押さえられて、自分の力ではぴくりとも動かせない。続きをせがむように、繋がる場所が収縮した。
 熱の篭もったそこは、じっとしていても痺れ続けている。でも、それだけじゃ足りない。中途半端な状態に、思考がじりじりと焼かれた。
「あ、いやぁ。イかせて」
「うん。でも汐里、膝痛いでしょ。だから場所変えようと思って」
 バスルームの硬い床に足をついているから、確かに痛い……ような気もする。けど、今はそんなこと、どうでもよかった。
「平気、だから……」
 離してほしいと言いかけた声が、無情にもさえぎられる。
「だーめ」
 イキたくて、つらくて、涙がこぼれそうになったところで、足が宙に浮いた。そのままかかえ上げられる。
 不安定な体勢に慌て、啓也の身体にしがみつく。重力に従い、中にあるままの彼が更に深く入り込んだ。
「えっ! あ、啓也……っ」
「ん?」
 いつもとは違うところに、彼の先端がぶつかる。気持ちよさに混じった鈍い痛みが、逆に倒錯的な快感を呼んだ。
 彼が一歩進むたびに奥を小突かれ、身体が震える。さっきまでとは別の、精神的な興奮で軽く達してしまった。
「う、あぁっ」
 洗面所へ運ばれ、マットの上に仰向けに下ろされた。もちろん繋がったまま。
 イッた反動でぐったりしているうちに、両足を持ち上げられて、腰の下に何かをつめ込まれる。洗面所も暗いから見て確認することはできないけど、肌に当たる感触で、バスタオルを丸めたものだとわかった。
 ぐっと上半身を倒した啓也が、耳に口付ける。
「汐里さっき、ちょっとイッたでしょ。抱っこされながら。凄い締めつけてたし」
「あ、や……」
 言わないでほしくて首を振る。ギュッと目をつぶると、瞳に留まっていた雫がこぼれ落ちた。
「でも、まだ足りないよね? 俺も足りない。だからもっと良くなろう」
 全部を聞き終わらないうちに、抽送が再開される。
 動きに合わせて彼の手が、胸の膨らみをつかんでゆらした。
 一度、昇りかけた身体は、少しの刺激ですぐにまた燃え上がってしまう。迫りくる波に身体を強張らせた。
「は、あぁ。啓也、ダメ……また……っ」
「いいよ、我慢しないで」
 啓也は中のいいところを的確に責めながら、膨らみの先を指でなぶる。
 ピリピリする刺激がお腹の奥へ流れこんでいくのを感じた。気持ちいいのに苦しくて、勝手に腰がゆれる。
 思わず秘部を押し付けるように動かすと、小さく笑った彼が身体を起こした。抜き挿しは止めないまま、繋がっているところの少し前に指先を当てる。
 私が息をのむのと同時に、敏感な蕾を撫でられた。表面を何度か優しく往復したあと、強めに押しこまれ、円を描くように転がされた。
 痛みと紙一重の激しい感覚に仰け反り、あえぐ。暗闇の中にいるのにも関わらず、目の前が白くまたたいた。
「うあ……あ、くっ、ん……あぁっ」
 呼吸もままならないほど、全身が張りつめ、力の入りすぎた四肢がガクガクと痙攣する。
 良すぎておかしくなりそうな私は、涙をこぼしながら首を振った。
「やぁっ、ああ、イッちゃう! あ、啓也っ、うぅ、んあぁっ!」
 溜まりきった快感が一気に爆発する。自分のものとは思えない叫び声が耳を覆った。
 次の瞬間、がくんと脱力した私は、投げ出した腕が床に当たる感覚に、瞼を震わせた。

 少しの休憩のあと、啓也がもう一回イクまで付き合わされた私は、当然、疲れ果てて動けなくなった。
 二週間ぶりのえっちに満足したらしい彼は、朦朧とする私の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれた。
 後始末から水分補給まで、至れり尽くせりでベッドへ運ばれた私は、ぼうっとしながら啓也を見つめる。本当は凄く眠いけど、髪を梳いてくれている彼の指が気持ちよくて、眠るのが勿体なかった。
 身体は疲労困憊でこの上なくつらいのに、幸せを感じる。心が満たされているんだってことを実感した。
「啓也、好き……」
 彼の瞳がすうっと細くなる。私だけに向けられる優しい微笑み。
「俺も。汐里が好きだよ」
 胸の奥の温かさが、ふわりと広がった。
 いよいよ眠気に耐えられなくなってきた私は、瞳を閉じる。彼が近づいてくる気配。唇が触れる直前、もう一度、想いを声にのせた。

                                             END

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