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 聖夜の残念会

後編

 無理矢理、与えられる感覚に、身体が自分のものじゃないみたいに震え、翻弄されていた。
 洗面台に寄りかかるようにして立つ私の前に、馨介が膝立ちで屈み込んでいる。彼は私の足を広げさせ、間に身体を入れて右足を肩に乗せていた。
「う、ぁ……馨介、もう……許して」
 片足を上げ、秘部をすっかり晒しているという、あられもない格好であえぐ。既に馨介の指と舌で立て続けに二度達していた。
 それでも解放するつもりのないらしい彼は、自分でもどうなっているのかわからないくらい濡れてほぐれた足の付け根に指を挿し入れ、間近にある芽に口付けていた。
 膨らんだそこを舌で撫でられる度に、指の出入りする場所が、ビリビリと痺れる。どこにも逃がしようのない快感が、内側に溜まっていくのを感じた。
「あ、や……ダメ、またっ……!」
 はちきれそうに膨張した感覚に身体を反らすと、馨介は私の秘部に顔を埋めたまま、くくっと笑った。
「また、イッちゃう? でも、そろそろ指じゃ物足りないでしょ」
「あぁっ、そんなこと、な……も、止めて」
 絶え間なく続く愛撫に反応しながらも、必死で首を横に振る。身体が馨介を欲しているのは気づいていたけど、恥ずかしすぎて認めることができなかった。
「……へえ、そう。それなら、ここで止めるよ」
「えっ……」
 まさかとは思ったけど、言葉どおりに馨介は顔を離して指を取り去った。突然、刺激を失い、身体がぶるりと震える。
 驚いて見下ろすと、屈んだままの馨介は足の間から私に向かって無邪気な笑顔を見せた。その光景に息を呑んだ私へ見せつけるように、濡れた自分の指をゆっくりと舐めた。
「でもさ、この後どうするの。こんなに濡らしておいて、いきなり止められる? それとも自分で慰めるところを、見せてくれんの?」
 さらりと言われた卑猥な言葉に、カッと顔が熱を持つ。
「ぜ、絶対いやっ!!」
「それじゃ、選択の余地ないよね」
 立ち上がった馨介は、唇を噛んでうつむいた私を、一度ギュッと抱き締めた。それから胸ポケットに潜ませていた避妊具を取り出し、着ていたパジャマを手早く脱ぎ捨てた。
 もちろん、ないよりはいいんだけど、それが用意されていることに引っかかりを覚える。最初から……それこそ「残念会」の前から、こうするつもりだったんだろう。対象外と決めつけ、馨介の想いに気づけなかったのは悪い気もするけど、なんだか釈然としなかった。
 複雑な気持ちを持てあましてうちに、準備の終わったらしい馨介にまた抱き締められた。
 この先どうするのかはさておき、今さら馨介の想いを疑ってはいないし、散々苛まれてしまったあとでは、止められないのもわかっている。下火になったとはいえ、中途半端に焚きつけられた身体は続きを期待していた。
「でも、ここでこのままは、ちょっと……部屋に行くとか……」
 脱衣所だし、電気もつけっぱなしだし……
「だーめ」
 恥ずかしさを堪えて言った私の意見は、あっさりと却下された。
 抱き締められたまま身体を引かれ、洗面台の向かい側の壁に背中を押しつけられる。馨介はいつもの穏やかな表情をしているのに、瞳だけが熱く濡れていた。
「ここでしたら、しばらくは忘れられないでしょ? 朝に顔を洗う時とか、風呂に入る時とか、歯を磨く時とか、思い出すかなって」
「や、やだ。そんなの」
 脱衣所にくる度にこの状況を思い出している自分を想像して、頬がほてる。
 ただの羞恥から拒否しただけなのに、馨介は私の態度をどう受け取ったのか、ふと寂しそうに笑った。
「……何度でも思い出して、忘れないで。ここで麻乃を抱いたのが俺だってこと」
「馨介……あっ」
 話は終わりだとでも言うように、馨介の手が胸に伸びる。さっきまでの行為で知られてしまった弱い箇所を攻められ、甲高い声が漏れた。
「腕、首にまわして」
 促されるまま、馨介の首に腕を絡め、しがみつく。背中に触れる壁と馨介に挟まれた私は、膨らみの先端を刺激されて仰け反った。
 激しい鼓動のせいで、また呼吸があがる。酸欠でぼんやりとした私は、いつの間にか馨介の手で片足を持ち上げられていた。
「あ、ん……馨介? 恥ずかしい……」
「麻乃、綺麗。好き」
 言葉を覚えたての子供が言うみたいに、ぽつぽつと零れる単語。馨介の想いの強さがじわりと心に沁みた。
 彼を見上げたのに合わせて、唇が触れ合う。絡んでくる舌を受け止め、瞳を閉じると、胸から離れた指が身体の中心に移動した。場所を確認するように全体を撫でられたあと、指ではない、熱く脈打つものが触れたのに気づいた。
 それが彼自身であることは、見えなくてもわかる。一瞬、理由のわからない恐怖を感じたものの、それが何か考える間もなく身体を割られた。
「んんっ、くぅ……っ!」
 指とは比較にならない圧倒的な存在が、中に入り、奥へと進んでくる。もう何年もこういうことをしていなかったせいか、初めてでもないのに入り口がじくじく痛んだ。
 ぐっと突き入れられた拍子に、重ねていた唇が離れた。
 苦しそうに息を吐いた馨介は、私の足を支えている腕とは反対の手を腰にまわし、強く引き寄せる。必然的に身体が密着し、繋がりが深くなった。
 痛みとないまぜになった快感の中で、私はたまらず呻いた。
「う……ぁ……けい、すけ……」
「ああ、体勢つらいよね。でも、ごめん。ちょっと……我慢できない……」
 私の肩口に顔を埋めた馨介は、もう一度深く息を吐き、確かな意思を持って動き出した。
 壁と馨介に支えられているとはいえ、立ったまま彼を受け入れるのは結構苦しい。でも、そのつらさが逆に背徳的な快感を呼び、私はしっかりと感じてしまっていた。
 痛いと思ったのは最初だけで、後はただ熱くて甘い感覚だけが響いている。自分の口から出ているとは思いたくない恥ずかしい声と、繋がった場所から聞こえる水音に眩暈がした。
 馨介に押さえつけられ翻弄されていた私は、快楽に身を震わせながら、あるはずのない視線を感じて目を向けた。そこにあったのは、洗面台に備えつけられた鏡。比較的大きな三面鏡は、向かい側で重なる私たちの姿をしっかりと映していた。
 ぎくりと身を強張らせたのに気づいた馨介が、動くのを止めて振り返る。私が何を見ていたのかを確認し、にやりと口の端を上げた。
「へえ。麻乃、やらしいね。こっそり見てたの?」
「ち、違うっ! 偶然……あ、ちょっ……や、ぁっ!」
 話の途中で、馨介がまた腰を揺らす。さっきまでの探るような動きとは違う、激しい抽送に涙がこぼれた。
 涙を舐め取るように、目尻にキスをされる。薄く目を開いた私に見えるように、馨介が洗面台に向かって顎をしゃくった。
「見て。ほら……全部じゃない、けど……入ってるとこ、見える……」
 いつの間にか立つ位置がずらされ、洗面台に対して斜めに向かい合っていた。触れ合う身体のせいで陰っているけど、繋がる場所が僅かに見えた。
「いやぁっ、見ないで! やっ、馨介……あ、あぁっ、ああ……!」
 目にしてしまった光景に、固く目をつぶる。これ以上ないほどの羞恥に晒された私は、声を上げながらブルブル震えた。
 内側を彼のものでこすられる度に、瞼の裏に鋭い光が明滅する。最後の時を悟った私は、首にまわした腕で力の限り馨介を抱き締めた。
「あ! だめ、だめっ……イッちゃう……馨介ぇっ!」
「っは……、俺も……」
 勝手にギュッと身体が強張り、溜まりきった快感が爆発する。ただただ真っ白な世界に呑まれた私は、散り散りになっていく意識のなかで、馨介が苦しそうに息を詰める音を遠くに聞いた。

 12月27日、月曜日。
 今年もあと数日なんだし、景気が悪くて大した仕事だってないんだから休みにすればいいものを、うちの会社はしつこく三十日まで稼動するらしい。
 連休明けとは思えない体調で出社した私は、更衣室で会った蕗子に声をかけた。
「……おはよ」
「おはよう……ていうか、何その顔色。蒼通り越して血の気が失せてるわよ?」
 疲労困憊な私とは逆に、お肌つやつやの蕗子が妬ましい。この週末は彼氏と程よくラブラブで、程よく甘い時間を過ごしたのだろう。
 完全に寝不足な私は、疲れから重い溜息ををついてロッカーを開けた。
 それなりに歴史のある会社とはいえ、いまどき制服指定なんて時代錯誤もいいところだ。しかもデザインが野暮ったくてダサいこと、この上ない。
 通勤用のスーツとブラウスを脱ぐと、馨介に無理な姿勢を強要されまくったせいで、関節がギシギシと軋み痛んだ。
「うぐっ……!」
 ハンガーにかけた制服を外そうとして固まった肩に、思わず呻く。ロッカーの内側についている鏡でメイクを直していた蕗子が、怪訝な顔をして振り向いたのが見えた。
「愛されすぎるのも、大変ねえ」
 ちろりと私に目を向けた蕗子は短く溜息をつき、訳知り顔で意味ありげに呟く。
「え?」
 私の身に起きた、金曜からの怒涛の展開を知らないはずの蕗子が、何故そんなことを言うのかと混乱した。
「背中にいーっぱいついてるわよ。キスマーク」
「う、嘘っ!?」
 とっさに背中を見ようとしたものの、筋肉痛と関節痛を併発した不自由な身体では、肩さえ視界に入らない。首の痛みに耐えきれず、前に向き直った私は、近づいた蕗子に背中を突かれた。
「ここと、ここは、薄くなってる。で、こっちはまだ少し赤い。あと、これはつけられたばっかりね。夕べっていうより、今朝?」
「!」
 蕗子の指摘に、ビクッと震える。イブの夜、あんなことになってしまってから、馨介は一度も家に帰らず私の傍を離れなかった……今朝、出社するまで。
 痕を隠すように制服を羽織り、恥ずかしさからおそるおそる蕗子を見ると、彼女は気にする様子もなくまたファンデを塗り始めた。
「まあ、良かったじゃない。従弟クンはめいっぱいご奉仕してくれたんでしょ?」
「ご、ご奉仕って……」
 ここ数日のあれやこれやが思い浮かびそうになり、言い淀んだ。
 パタンとコンパクトを閉じた蕗子は、また鏡を覗き込んで髪のほつれを直している。
「あれだけ溺愛しちゃってるんだもの、一生、大事にしてくれるわよ。それに、どうせ逃げられないだろうし……」
 ……それって、どういう……
 馨介をさも知っているかのような蕗子の口ぶりに、首をかしげる。
「あれだけって……蕗子、馨介のことを知ってるの?」
 特に何かを意図したわけじゃなく、ただ口がすべっただけなんだろう。私の指摘に蕗子はぎくりと身体を強張らせて、あからさまに焦りの表情を浮かべた。
「えーっと、その……え、へへ……」
 薄ら笑いでごまかそうとしている蕗子を、半眼で睨む。なんなのかはわからないけど、追及しなければならないと本能的に悟った。
「蕗子」
 凄みをきかせるように、できるだけ低い声で名前を呼ぶ。私の本気に気づいたらしい蕗子が、盛大な溜息をついてうなだれた。
「あー、もう。言うわよ。どうせ今さらだし。……従弟クンのことは知ってる。会ったこともある。これでいいでしょ」
「それだけじゃわからないよ。どういうこと? なんで、蕗子と馨介が……」
 私の知る限り、二人に接点はない。私と蕗子は就職して初めて会ったんだし、この街が地元の私や馨介とは違い、蕗子は県内でも端の町の出身だ。学校や地域が被ることもないのに、どうやって知り合ったのか……
 驚きを隠せない私に、蕗子はどことなく同情を滲ませた視線をよこした。
「就職して少しした頃だけど、向こうが会いにきたのよ。麻乃、従弟クンに私のことをベラベラしゃべったでしょ。一緒に合コン行くとか、そういうのも」
「う……」
 ぐっと言葉に詰まる。これまですっかり家族同然に思っていたことと、大らかな性格に甘えて、馨介には相談から愚痴までなんでも話してしまっていた。
 就職してすぐの頃は、まだ彼氏のいなかった蕗子と共に、合コンを計画していたこともある。ただ、そのすぐあとに彼女に恋人ができたので、実行はされなかったけど。
「仕事上がりを待ち伏せされてね。本気で付き合える超イイ男を紹介するから、麻乃を合コンに連れ出さないでほしいって言われたの」
「えぇっ!? じゃあ、蕗子の彼氏って……」
 その時の……?
 驚愕の事実に蒼褪める私とは対照的に、蕗子は幸せオーラ全開でにっこり笑った。
「そうなのよ。彼、従弟クンの大学の先輩にあたるらしいんだけど、本当にいい人でねー。結果的に合コンしなくても良くなったわけ」
 ……嘘、でしょ。
 信じられない話によろけた私は、ロッカーに縋りつく。
 馨介が私の持っていたイメージと違い、穏やかなだけの人間じゃないことは、この週末で嫌というほど思い知らされた。でも、私の出逢いの邪魔までしているとは思っていなかった。さっき蕗子が言った「逃げられない」という言葉が真実味を帯びて迫ってくる。
「そ、それじゃあ、会社関係で出逢いが全然なかったのも、馨介が……?」
「ああ、違うわ。それは私が皆に口添えしてたの」
「はぁっ!?」
 あっけらかんと白状した蕗子に目を剥く。
「だって、今、私と彼が幸せなのは従弟クンのおかげだもの。恩返しくらいするわ。それに……麻乃が悪いのよ」
「な、なんでよ。私、思いっきり被害者じゃないっ」
 食ってかかった私に、蕗子はつんとそっぽを向いて、ふんと鼻を鳴らした。
「従弟クンのことを、ちゃんと見てあげないからよ。子供の頃から何度も告白したって言ってたわよ? 全部、本気にしないで聞き流したんでしょ。正攻法で相手にされないなら卑屈にもなるわ」
「……」
 悔しいけど、何も言い返せずに押し黙る。
 蕗子の言うとおり、馨介に「好きだよ」と言われるのは、数年前まで日常的なことだった。実際は聞き流していたのではなくて、従姉弟同士の親愛のつもりなんだと思っていたのだけど、本気にしなかったことには変わりない。
 知らなかったとはいえ、馨介に恋愛の相談をしたり、クリスマスに誰かの代理として付き合わせたりしたことを悔いた。
 私と話をしながらも先に準備を終えたらしい蕗子は、手早く化粧品をポーチにしまい、ロッカーをバタンと閉める。無言で颯爽と歩き出す後姿に、そのまま部署へ行くのだろうと思っていると、彼女は更衣室の入り口でさっとこちらを振り返った。
「……それでも、面白くはないだろうけどね。私なら」
「え?」
 言われた意味がわからずに彼女をじっと見つめる。蕗子は口の端を上げ、にやりと笑った。
「だって、多分、麻乃のまわり全員グルだもの。今年に限って、ご両親が旅行なんて、おかしいでしょう?」
 呆然とする私にかまわず、蕗子はそれだけを言うと更衣室を出て行く。ゆっくりと閉まるドアを見つめた私は、今度こそ力が抜けて、その場にへなへなと座り込んだ。
「嘘、でしょ……?」
 もう何度目かわからない自問を口にしながら、空中を見つめる。
 蕗子の言うとおり、馨介によって外堀を完全に埋められた私が、帰宅した両親に結納の話を切り出され倒れそうになるのは、年明けのことだった。

                                             END

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