プロローグ

「ねぇ、『宇治十帖』って知ってる?」
「『源氏物語』の最後の部分の事?」
 わたしのいきなりな問いかけに、れみはきょとんとしながら答える。
 わたしとれみは大学の学食でランチしながら雑談していた。
「うん。あれって、主役の光源氏が死んでからも、続編がちょこっと出たんだよね」

 れみは苦笑いしながら、
「なんとなく、あみの言いたい事、わかった気がする」

 実は、あれだけ大々的にファイナルライブをしたものの、結局わたしはまだこの町にいた。

  ***

 ファイナルライブ3日前、ドリームパレードプリンセスコーデを手に入れた日の晩。

「ただいま。あれ?父さん?今日は早いね。いよいよ引越しの準備?」
「あ、母さんから聞いてないのか。引越しはしないぞ」
「え?」
「ビジネスパートナーの社内でちょっとしたトラブルがあってな。プロジェクトが一年延びてな。転勤は延期だ」
「そうなの?」
「ま、お前も大学に通いやすくて良かろう」

 ・・・うーむ、もう告知しちゃったし、引退するしかないか。あと一年できたかもしれないのに・・・

  ***

「結局、引退して1か月足らずで復帰したくなったわけね」
「ま、そういうこと。ゴールデンウィークの予定考えてたら、つい。でも、あれだけ大々的に引退したしね」
「確かに、女神様まで動員しての卒業ランウェイライブだもんね」
「今更のこのこと出て行きにくいなぁ…」
「あ、でも、時々高校とかでも、OBの先輩が差し入れ持ってふらっと来ることとかあるし、ふらっと行ってもバチは当たらないんじゃない?」
「そうかなぁ…」
「あみ、今日は3限までだっけ?」
「うん」
「私のところ、4限、教授が学会で休講なんだ。一緒に帰って、帰りにちょっと寄ってみる?」
「行きたいけど、ちょっと不安だなぁ」
「よし、じゃ、ゆうきにもメールだけ入れておくね。…一緒にあみの背中、押しませんか、っと。送信!」
「うわ、仕事早っ!」

 放課後、ゆうきからOKのメールが返ってきた。このメールにより、プリパライフ続編が始まるなんて、思ってもいなかった。


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