プロローグ

 ゆうきはその日、予定より早く家を出た。
 公園の桜は、もう葉が混じって葉桜になっている。
「それにしても…不思議な話だったなぁ」
 ゆうきは昨日の体験を思い出していた。

 蕎麦屋で、シーズンにはやや早いざる蕎麦を食べていたら、親友のあみとれみが店に入ってきた。
 二人は異世界に飛ばされて向こうの時間で一年ほど生活し、プリ☆チャンでライブ配信をしていたという。そして、そこで知り合ったチームメイトのコたちとライブしようと異世界にいきなり連れて行かれ、いきなりライブをして、いきなり帰ってきた。世界がつながるのは50分ほどの間だという。

 今日は二人に会って、もっと詳しい話を聞かせてもらうことになっている。

「ゆうき!」
 突然後ろから声がかかった。あみでもれみでもない。
「さなえ?」
 ゆうきやあみたちとプリパラでチームを組んでいたメンバーの一人、さなえだった。
「お久しぶり」
「どうしたの?実家に用事とか?」
 さなえは遠くの大学に行くため下宿することになっていた。
「実はね…下宿しないんだ」
「え?なんで?」
「へへ。アタシの通う学部、この近くのサテライトキャンパスだったから」
 まぁ、さなえは待ち合わせ場所に一番乗りしながら、柱の陰の死角でいつまでも待っているようなコなので、通うキャンパスを確認せず下宿と思い込んでいても不思議はないかもしれない。

「で、今日はどうしたの?」
「これから、あみ、れみと会うんだけど、一緒に行く?」
「うん。暇つぶしに散歩してただけだし」
「あの二人、この前、異世界に飛ばされて、一年間、いろんなライブ配信をしてたって言うんだ」
「うんうん」
「初めは何のことか判らなかったけど、あたしも一瞬だけその世界にあみに連行されて、一度ライブしたんだ」
「そういえば、スペインに留学している後輩が似たようなこと言ってたな」
「そうなの?」
「うん。このコなんだけど」
 さなえが写真を出す。気の強そうなコが筋肉質だけど、映画俳優のようなかっこいい人と写っている。胸板に蛇のタトゥーを施し、鈎爪のようなアクセを手首につけた姿には見覚えがある。
「あっ、ヘビの人じゃないよ」
「そりゃそうだ。この人は金網デスマッチのチャンピオンの有名な格闘家の…何とかって人でしょ」
「うん。バルログさん。このコ、ダンス留学のはずが、手違いでこの人の道場に入門したらしいの」
 さすがはさなえの後輩だ。
「なんでも、ダンスを配信しようとしたら、目の前にいた人が、急に消えたらしいよ」
「あみたちと同じだね」

 二人がそんな話をしていたら、ちょうど、あみたちが異世界に飛んだ配信スタジオの前に来ていた。
「あっ、ちょうどここだよ」
 二人は中をのぞいた。
「あ、コーデのカード4枚入りのパック売ってるよ」
「わぁ、可愛いコーデがけっこうあるね」
「待ち合わせまで時間あるし、これ買ってライブしちゃう?」
「いいねいいね」
 二人は小遣いの範囲でパックをいくつか買った。
「おっ、さすがにSR以上は無理だけど、4コーデ揃ったね」
「まぁまぁの引きだね」
「じゃ、あたし、会員証作ってるから」

 ゆうきが会員証をスキャンした。
 画面に赤い四角形が表示される。
「何これ?システムエラー?」
「…まさか?」

 その場から、二人の姿が消えた。


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