嘘つきメランコリー 12.5











後ろからぎゅうと抱き締め私の髪に顔を埋め、安らかな寝息を立てる刑部
痛む体や汗ばんだ肌、情事の匂いに、これが夢ではないと分かる

回された赤黒く変色した腕

刑部の素肌を見たのはどれくらいぶりだろう
最後に見たのはまだ紀ノ介と呼んでいた頃だった筈だ
それならばもう十数年は昔のことになる
そう思い至ってため息を一つ吐いた

「…よしつぐ」

そっと名を呼べば先程まで続いていた情事が思い起こされ羞恥に頬が染まるのが分かる
たくさん私に触れてくれた
たくさん私の名前を呼んでくれた
たくさん口付けられ、体内を掻き混ぜられ、頭がおかしくなるかと思った

幸せの何たるかを全身で感じた

豊臣の繁栄と同じほどに、この身が震えることがあるのだと教えられた

幸せすぎて怖くなる、とはよく言ったものだと思った
一度手に入れてしまえばそれは手放しがたく、
脳髄を麻痺させ溺れていくような中毒性がある

ずっとこんな時間を過ごしてみたかった
刑部と二人で、幸せだと言える時間を

ああ、早く刑部の敵を討ち滅ぼしたい
刑部を嘲笑う全てを屠ってやりたい
そうしたら、この時間がずっとずっと続くはずだろう?

回された腕の重さに安堵しながら目を閉じる

こんな日々が日常になればいいとぼんやりと思った






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