片恋
2
閑散として静かな大阪城でため息を零す
兵を伴い、太閤たちは戦へ行った
「…静かなことよな」
本来ならば今頃われも戦場におったであろう筈だが、
三成と軍師殿に止められ、今回はと言う形で大阪城の留守を預かることとなった
少々不満に思わなくも無いが、最近は季節の変わり目ということもあってか
体調が芳しくなかったこともあり、有難いと思うのが胸のうちだった
何より三成がわれの為にと心配する顔が嬉しく、
三成の言葉のままに流されてしまったのが現状だ
女中と僅かばかりの兵しか居ない城の中は酷く静かに感じた
常ならば怒鳴る三成の声や、笑う徳川の声がわれの部屋まで響いてくるというのに
今は遠くを歩く女中の足音や、庭に降り立った鳥の声が薄ら寂しく聞こえるばかりだ
すぐに戻ってくる、と真剣な顔で言った三成を思い返して微笑を零す
まるで恋仲の女にでも言うような台詞に笑ってしまったのだ
やれ怪我をしやるなよ、と頭を撫でてやれば、子供扱いするな!、と
苦々しげに歪めた顔を真っ赤にして声を張り上げていた
「やれ、子供に見えていたならいいのだがなァ…」
そっと漏らした本心は、思ったよりも苦しい響きで空気を震わせた
チリチリと胸を焦がす愛しさと切なさ
甘く苦しく、この身を苛む恋心
不治の病が増えたフエタと笑えば、この苦しさは紛れるだろうか
「早に帰ってこよ、三成」
朝方に見送ったばかりだというのに、こんなにも恋しい
待つことがこんなにももどかしく苦しさが募ることだとは知らなかった
皆が帰るまでに終わらせておこうと思った政務に集中しようにも、
戦況はどうなっている、敵方に増援が来たら対応出来るだろうか、などと
戦場におったならば些細なことよと笑ってしまうようなことが気になって仕方ない
思いを巡らすこと、無事を祈ること、それしか出来ない己がもどかしくてたまらない
「…いや、待つことがこれほど難儀なこととはな」
やれやれと首を捻り、深いため息を吐いた
止まっていた筆を持ち直し、政務をこなす為に机に向かった
夕餉を食べている時
”…うるさい、私は最大限食べている”
湯浴みをした後
”湯上りは冷えるから本は後で読めと言っているだろう!”
布団の中に入ってから
”なぜ起きている!闇の中では体を休めろ!”
ちらりちらりと三成がよぎり居たたまれない
己が思うよりも三成に依存していたと気付かされ、気恥ずかしくなる
思い返してみれば、どちらが親気取りかまるで分からなくなる
三成はわれの身を案じ、われは三成の身を案じ
それはくるくると螺旋のように続く連鎖
互いに親子のように、兄弟のように、入れ替わり立ち代り互いの心配ばかりをしている
三成のそれは親を慕う子の様に、弟を思う兄のように、
友としてのわれを心から案じてくれているものだ
だからこそ、三成の純粋な瞳にわれが映ることを心苦しく思ったりもする
よこしまなこの感情が、打算的なこの行動が、
全て見透かされているようで、真っ直ぐに三成を見れなくなることがある
己の想いに気付かぬままに生涯を終えられたなら、
何のやましさも無くあの無垢な瞳を見つめ返せたのだろうか?
背徳的なこの想いに出口など無くてただただ迷走するばかりで、
ひたすらに己の爛れた欲望が三成の純真な心を穢さぬことを願う
布団の中でぐるぐると同じことの繰り返し
頭の中でどれだけ考えてみたところで、何の答えも出ないと分かりきったこと
それでも思考は止まってはくれはせず、またぐるぐると回り巡る
堂々巡りのその先に、何も無いとは知っている
強い三成
優しい三成
無垢な三成
弱い三成
恋焦がれる愛しい三成
どうかどうか、無事に戻って来れるようにと願いながら纏まらない思考は闇に溶けた
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