片恋 1











三成の白い肌が好きだ
透き通るようなそれは、穢れを知らず、どこまでも眩い

三成の銀の髪が好きだ
光を返して輝くそれは、一振りの刃のように研ぎ澄まされ、美しい

三成の金緑色の瞳が好きだ
様々な色を宿すそれは、逸らされることが無く、真っ直ぐで、嘘が無い

三成の性格が好きだ
苛烈と言われるそれは、気付かれない優しさで溢れている

三成の心が好きだ
偏見にも、嫌悪にも屈しない強さを持ち、誰よりも慈悲深い

「やれ三成、太閤が呼んでおるぞ」

襖を開け文机に向かう三成に声をかければ、険しい目元が僅かに弛むのが見て取れた
そんな些細なことに一喜一憂している自分に苦笑する

まるで子供のような恋心
しかしそれを愉しんでいる自分

「分かった、すぐに行く
…形部、私が戻ったら共に一息入れるぞ」

「…あい分かった
ぬしに茶に誘われるとは、楽しみよなァ
ヒヒッ、われは茶菓子の用意でもしておこ」

部屋を出て行く三成の後姿を見送って、むず痒い感情を堪える

自分から休息を取ることなど無い三成が茶に誘うなど、
うまく隠したつもりが、呆気なくばれていたのかと思うと気恥ずかしい

以前よりも動かなくなった体
些細なことで直ぐに疲れが出る忌々しい体

気付かれまいと気を張って、しかし三成には容易く気付かれる

不器用な優しさは理解され辛く、いつだって一人きりの三成
だが、誰よりも優しく、清廉で、無垢な心を持っている

そんな三成が好きだ
そんな三成を愛しく想えることが嬉しい
われの内の唯一の穢れていない部分
三成をただ純粋に想える心
笑って欲しいと、守りたいと、そう思えることに安堵する

父性のような、しかし確実に違うこの感情

触れたいと、触れて欲しいと思う浅ましい情欲
汚したくないと、穢してしまいたいと思う相反する愛欲

父性ではありえないこの恋情

考え出すと止まらない思考を振り払い、一つため息を吐き、
三成にも食える菓子はあっただろうか、と思いながら厨に向かう為に歩き出した




茶の用意をし、三成の部屋へ戻れば三成の鋭い視線に射抜かれた

「…遅い」

「やれ無茶を言う
今しばし時間がかかるかと思っておったが…」

「書簡の確認の為に呼ばれただけだ」

「さようか
では茶でも飲みやれ
今朝から何も口にしておらぬであろ?」

意地悪く笑ってやれば、必要無い、と言い切り顔をしかめる
普段からわれや軍師殿に口喧しく食え食えと言われ続ければ苦い顔もしたくなるというものだろう
だがそれでも頑なに食わぬ三成も頑固が過ぎる

「今日の茶菓子は味噌饅頭よ
これならばぬしも食えよう?」

「…ああ」

まだ眉をしかめたままの三成は躊躇いながらも饅頭に口をつける

その薄い唇に触れられ、三成の血肉になる食物を羨む己は大概におかしいと思うが、
三成に取り込まれ、三成と共に朽ちていけたならこれ以上に幸福なことは無いと思うのだ

「形部、貴様も食え」

片頬に饅頭を詰め込みこちらを睨む三成は警戒心の強い小動物のようで
全身から愛らしさがあふれ出ている
それを見ているだけで笑みが零れてくる

「あいあい、そう急かさずとも食いよるわ」

笑いながら饅頭を口にすれば、満足したように三成が薄く笑んだ
あまりにも美しい笑顔に目を奪われながらも、誤魔化すように茶を飲み下した

三成の一挙手一投足に、表情の些細な変化に、この心臓が掻き乱される

「政務はもう終わったのか?」

「いや、一息入れたらまた戻ろ
ナニそのような顔をせずともじきに終わりよるわ」

不服そうな顔をして、三成がため息を吐いた

「…貴様は最近働きすぎだ」

「寝食も疎かにして政務をこなすぬしに言われるとはなァ」

率直に嫌味を言ってやれば苦い顔をしてそっぽを向いてしまう

その整った横顔を眺めながら目を閉じる

「…私のことはいい
だから、政務を終えたらきちんと体を休めろ」

柔らかな三成の声が耳に、心に絡みつく
一体何度その優しさでわれを溺れさせるのだろう

気付けばもう抜け出せぬほどに三成に絡み取られている

「あい分かった
約束しよ、きちと休むとな」

「裏切りは許さない」

フン、と鼻を鳴らす三成に笑みを向けてやれば、弛んだ目元がわれを見据える

嬉しさにざわめくこの胸の鼓動が、どうか三成に聞こえなければいいと思った

「…われがぬしを裏切るなど、あるわけがなかろうに」






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