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今月の一言 |
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昨年の秋に産卵し、その後、残念ながら出産には至らなかったピパピパ(コモリガエル)。
実は今年も10月に産卵していたのである。
どうやら夏の終わりごろから食欲を爆発させ、秋になって気温がぐっと下がると、それに触発されるのか、産卵スイッチが入るっていうパターンらしい。
前回はどうやら無精卵だったようで、その後、仔ガエルたちの姿を見ることができなかった。背中に乗らずに落ちてしまった卵をせっせと回収して、別管理していたのだが、そちらも次々とダメになっていった。
で、今回はどうかなと、背中から落ちてしまった卵を観察していると、明らかに次々と潰れていく。どうやらまたしても諦めねばならぬらしい。
無精卵の原因は圧倒的に雄の未成熟にある。これは長年、カブトムシのブリーディングをやってきて分かっているのだが、雌の機能障害で卵がダメになるケースは実に少ないのだ。
前年の秋から一年かけて、雄は一回り以上も成長を遂げ、実に立派な巨体となった。
昨年は雌に食われてしまうじゃないかと思うくらい体格に差があったのだが、今ではそれが大差ない程になっている。
それでも雄が未成熟だったのだろうか? いや、さすがにそれは違うだろう。となると、やはり環境か。
産卵には最低でも1メートルくらいの深さが必要と聞いている。このカエルは、雄が雌の背中から両腕を回して強く包接し、雌が卵を産むと、クルン、クルンと回転して水底に落ちていきながら、雄が卵をうまい具合に雌の背中に押し付ける、というのが一般的な産卵形態という。そして、この卵を背中にくっつける際に、射精しているらしいのである。これがゆえに、一般家庭の水槽事情では、本種の産卵が困難と考えられているわけだ。
実を言うと、そろそろ産卵しそうだなという前兆はあった。
雌のお尻の出っ張り部分が、異様に膨らんできたのである。
そのときにポリのでっかいゴミ箱に水を張り、さっさとピパピパたちを移してやればよかったのかもしれない。
まだ数日は余裕があるんじゃないかなぁ、なんて暢気に構えているうちに、あっさり産卵されてしまったのである。
まぁ、毎年、秋に産むってことは分かった。
どれくらいの寿命なのか、それは分からないけれど、見ている限りではまだまだ生きそうだし、少なくとも来年、もう一回くらいはチャンスがあるだろう。
そう思い定めて、産卵して間もないというのに、全く意に介せず、せっせといつも通りの世話を行い続けた。
それから暫くして、雌の身体に異変が生じた。
背中を中心に、黒いフサフサした髭状の藻が生えだしたのである。
それはあっという間に広がって、手足から頭、更には背中からお尻辺りまでの広い範囲を覆うようになっていった。
おいおい、大丈夫なのか? 餌のメダカをぱくつく姿は元気そのものだが、さすがにこのまま放置して死なれでもしたらコトである。なにせここまで大きく育った雌はそう手に入るもんじゃない。今じゃサンシャイン水族館のピパピパより巨大なのだから。
そんなことを考えながら水替えしていると、サイフォンの先が偶然、雌の背中に当たり、そのまま皮膚を吸着する形になってしまった。
驚いて、大暴れする雌。だが、待てよ、こりゃ、うまくすると藻が少しは取れるかもしれんぞ。
つい、そのまま続けてしまったのだが、よほどしっかり根を下ろしているのか、藻が剥がれる様子はない。
どうも失敗だったか、と雌の背中からサイフォンの先をどかしてみると、何か奇態なものが背中から生えている。ピンク色の2センチほどのヒラヒラした、細長い三角形が2つ。
こ、こりゃ、もしかして?
そう、それはオタマジャクシの尻尾だったのである!
おお、なんてこった、成功じゃないか!
思わず漏れた歓声に集まってきた家族たちも、背中から飛び出した2匹のオタマの尻尾に、目を丸くしていたのは言うまでもない。
それから更に数日が経過し、オタマたちの尻尾はいつの間にか見えなくなった。
きっとまた雌の体内に戻っていったのであろう。
そして更に2週間ほどが経過した朝のこと。
何の前触れも無く、身体全体を覆っていた黒い藻が綺麗に剥がれ落ち、シワシワっとした元の皮膚に戻っていたのである。
どうやら脱皮と共に、藻も取れてしまったのだろう。心配するまでも無かったようである。それにしても、本来、何かの刺激ですぐに脱皮するのがカエルの生態だというのに、藻が生えるような身体の状態でもそのままだったというのは、一体、どういうことなのだろうか?
これも産卵に伴う、本種の特色? いかんせん、産卵以降、どうなるのかの情報がなさすぎるので、よく分からない。しかし、雌がこうなったのには、何か深いワケがあるような気がしてならない。
さて、無事に綺麗な皮膚に戻った雌であるが、背中を見てみると、ボツボツとクレーターが開いている。
そして、一瞬、目の錯覚か?と思ったけど、いや確かに、今、何かが動いた!
30秒に一度程度なので、ずっと見続けていると目が痛くなるのだが、新しい命が雌の背中の下で、小さな産声を上げているのが、はっきり分かったのである。
もうここまでくれば確実だろう。
きっと、あと少しで、仔カエルに変態し、親と同じ姿で、ピョーンと背中から飛び出してくるに違いない!
その日がいつ来るのか、今はまだ読めないけれど、生まれた途端に食われる運命だけは避けさせてやりたいと、雄2匹には別の水槽に移ってもらうことにした。
この背中のモゾモゾが激しくなり、その動きが頂点に達したとき、我が家に再び感動の瞬間が訪れることになると私は強く確信している。
この数週間は、毎日、ピパピパの水槽から目が離せそうにない。
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