所得150万円増?

2013年6月10日

「安倍晋三首相は5日に打ち出した成長戦略で、新たに『1人あたり国民総所得(GNI)を10年後に150万円増やす』とぶち上げた。まるで国民一人ひとりの年収が10年後に150万円ずつ増えるかのように聞こえるが、実はそうではない。」

朝日新聞の解説(2013年6月6日 「指標の一つ。給料増とは限らない」 末崎毅)はこのように始まっています。そして「GNIは企業と個人の両方の稼ぎを含むので、企業がもうかったとしてもため込んでしまえば、給料は上がらない。」と書かれています。

最後まできちんと読むと、からくり(?)が分かるのですが、『1人あたり国民総所得(GNI)を10年後に150万円増やす』ということだけを聞けば、150万円という具体的な金額だけが強く飛び込んできて、本当に全員の年収が150万円ずつ増えそうに思えてしまいます。

「1人あたり150万円なら4人家族では600万円になると思う人がいるかもしれないが・・・そうではない」という内容の説明もテレビで聞きました。どうも金額だけではなく「1人あたり」という言葉も色々な誤解をさせてくれそうです。

そこで少し考えてみました。ここは素直にGNIと一緒に年収も増えるとします。ただし全員が同額ではなく、年収に応じて一定の割合で増えるものとします。その割合は30%とします。これは安倍首相の言う「年3%超ずつで10年後に150万円」という数字から決めました。

年収別の人数が必要ですので、国税庁の民間給与実態統計調査結果<平成23年>の給与階級別分布のデータを使用します。対象は1年を通じて勤務した給与所得者、4,552万人となっています(その中の平成22年分を使用しています)

そのデータを元に階級別の増加額を表1にまとめました(年収は階級ごとに大雑把に設定)。給与所得者だけのデータで自営業者などは含まれていませんが、単純に計算すると、1人平均 約123万8千円の増加になります。


年収が「400万円超 500万円以下の人は約135万円の増加で平均増加額より多くなっています。年収が多いほど増加額は多くなります。逆に年収が少なければ増加額は少なくなり、平均増加額を下回ります。表中の赤い線がその境です。

表2は給与の階級を平均増加額を下回る400万円以下と、(表1の)階級の分布が5%以上の500万円超から800万円以下、そして残りを1000万円以下と1000万円超の4段階にしたものです。何と約6割の人が平均の増加額を下回るのです。また表1の増加額だけを見ても、年収によって大きな差があります。


冒頭の新聞の解説では「1人あたりのGNIが3%上がったとしても同じように生活品の物価が上がれば生活は楽にならない。」とも書かれています。生活に必要不可欠な費用は、居住地や家族数で多少の違いはあるとしても極端な差はないでしょう。とすれば、GNIと比例して年収が増加したとしても、年収の低い人にとっては年収の増加分より物価の上昇に伴う支出が増加して、生活が楽になるどころかますます苦しくなるのではないでしょうか。

10年後には収入が150万円増えるのではないかと思わされるような甘い話をよく考えていく内に、格差社会の現実と、その格差がますます広がるのではないかという不安のタネが見えてきたように思えます。

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