平成29年 「万葉集カレンダー」
(2,017) (すべて作者未詳)
1月 物皆は新たしきよし ただしくも人は古りにしよろしかるべし
(物はみな、新しいのが良い。ただし、人は何と言っても歳を重ね古さびた味わいのある様が好ましい)
2月 春されば散らまく惜しき梅の花 しましは咲かずふふみてもがも
(春になると、いつも散ってしまうのが惜しまれる梅の花。このまま咲かずにしばらく蕾のままでいてくれたらなあ)
3月 ひさかたの天の香久山この夕 霞たなびく春立つらしも
(天の香久山に、この夕べはじめて霞がたなびいている。ああ、春になったようだなあ。いよいよ春だ)
4月 桜花時は過ぎねど見る人の 恋ふる盛りと今は散るらむ
(花の時節が過ぎ去ったわけでもないのに、桜の花は今が見る人が惜しんでくれる盛りだと思って散るのでしょう)
5月 夏草の露別け衣着けなくに 我が衣手の干る時もなき
(夏草を踏み分けて露に濡れる衣、そんな着物を着た覚えはないのに、どうして私の着物の袖は濡れたままなのか)
6月 このころの恋の繁けく 夏草の刈り掃へども生ひしくごとし
(私があの人を恋しく思う今日この頃の激しさは夏草が刈っても刈ってもあとからあとから生えてくるようなものだ)
7月 石上布留の神杉神びしに 我れやさらさら恋にあひにける
(石上の布留の社の年古りた神杉ではないが、このように古び老いさらばえてしまった私が恋の奴にとっつかれたよ)
8月 旅にして妻恋すらし ほととぎす神なび山にさ夜更けて鳴く
(旅先にあって妻を恋い求めているらしい。ほととぎすが神なび山でこの夜更けにしきりに鳴いている)
9月 誰そかれと我れをな問ひそ 九月の露に濡れつつ君待つ我れを
(「誰なのあの人は」と私のことを人に尋ねたりしないでください。九月の露に濡れながら恋しい人を待っているのです)
10月 朝顔は朝露負ひて咲くといへど 夕影にこそ咲きまさりけれ 朝顔;キキョウかムクゲ
(朝顔は、朝露を浴びて美しく咲くというけれど、夕方の淡い光の中でこそ、ひときわ映えて咲き匂う。実に美しい)
11月 さを鹿の妻呼ぶ山の岡部にある 早稲田は刈らじ霜は降るとも
(雄鹿が妻を呼び求めて鳴く山の麓の、岡の辺にあるこの早稲の田は刈取りをせずにそっとしておこう。たとえ霜が降っても)
12月 降る雪の空に消ぬべく 恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経にける
(降る雪が大空に消えてしまうように私は、はかない恋に身も消え入るばかりに想いこがれている。時ばかり過ぎてしまった)