二十億光年の孤独
              谷川俊太郎
 人類は小さな球の上で
 眠り起き そして働き
 ときどき火星に仲間を欲しがったりする

 火星人は小さな球の上で
 何をしているか 僕は知らない
 (或いはネリリし キルルし ハララしているか)

 しかし ときどき地球に仲間を欲しがったりする
 それは まったくたしかなことだ

 万有引力とは
 ひきあう孤独の力である

 宇宙はひずんでいる
 それ故みんなはもとめ合う

 宇宙はどんどん膨らんでゆく
 それ故みんなは不安である

 二十億光年の孤独に
 僕は思わずくしゃみをした


 「詩集」トップへ