朝日山岳会     〜東北のアルプス朝日連峰へようこそ〜
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陽春の大朝日岳



 のどかな春の日ざしを浴びながら、片栗の花咲く道を歩む。雪解けの水は白く飛び跳ね、勢いよく下流へと駆け下りていく。里の桜はもう終わろうとしているのに、山の春はまだ始まったばかりである。

 一歩また一歩と、高さを増していくごとに残雪は多くなり、ブナ林へ入ろうとするころ、登山道は雪の中に没した。ツツピーツツピーと、ヤマガラの澄んだ声が、林の中へとしみ込んでいく。対岸には雪崩の跡が残り、押し倒された木々や動かされた大岩が、そのすさまじさを物語っている。

 昨日、山々はすっぼりと雲に覆われ、新雪が降り積もった。春とはいえ、少し気温が下がれば、雪は天から下りてくる。新雪が、薄汚れた残雪の山々に、純白の衣を着せていった。

 寒気が抜け、再び移動性高気庄がやってきた。陽春の青空の中、白いべールを纏い、大朝日岳が恥じらうようにんで佇んでいる。光はおどり、風はやわらかく、視界は遠い。こんな素晴らしい一日を、独り占めするのは申し訳ないと思いながらも、ゆっくりと流れゆく時間の中に、のんぴりと腰をおろし続けていた。

               (5月中旬、鳥原山より)