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SINRA November 1997

ミック・ジャガーもお忍びで訪れる
「伝説の画家」の館

インドネシア篇2 バリ島2 - Bali 2

写真・文 大木信哉

ホーチミン市のタンソンニャット空港を飛び立つと、すぐに大河メコンがその存在を誇示するように茶色の巨大な帯となってうねっているのが眼下に見える。
それから、北東へほぼ1時間。山並が連なるダラット上空を過ぎると、もうすぐニャチャンだ。機が右に左に大きく傾いたと思った次の瞬間には、5キロはありそうな長いビーチが眼下に広がる。
ニャチャン空港は、のんびりとした空気に包まれている。すぐ近くの町や村がベトナム戦争で破壊されたのが嘘のような静かなたたずまいだ。
市内のどこからでも眼に入るのは、小高い丘の上にあるロンソン寺の白い大仏。駅近くの高台にはゴシック様式のニャチャン大聖堂があるし、ニャチャン川を渡ったところには、ヒンズー教の遺跡ポーナガールがある。ここには8世紀から17世紀にかけての建造物が残っていて、チャムタワーと呼ばれる塔には、女神ポーナガールの像があり、いまも信仰の対象としてたくさんの参拝客が訪れる。つまり、ニャチャンはカトリック、仏教、ヒンズーと、なんでもありのミックス文化の街だ。
フランス植民地時代の雰囲気が色濃く残るこの町を一望するのに、いちばんいいのは大仏のあるロンソン寺。150段もある階段を上がっていくと、街の中心部はもちろん、北には椰子の林に覆われたニャチャン川、南には延々と広がる田園風景が一望できる。
ニャチャンはリゾート地としての歴史も古く、フランス植民地時代のホテルやヴィラがいまも残り、宿泊施設として利用されている。なかでもおすすめはビーチの南端カウダ岬にある「バオダイズ・ヴィラ」だ。
1925年にバオダイ皇帝の別荘として建てられたもので、外国の要人たちが招かれたことも多かったという。独立後はゴ・ディン・ジエム大統領や政府首脳たちが利用したが、ニャチャンの町はベトナム戦争当時も特に大きな被害がなく、バオダイズ・ヴィラも昔の名残りを止めたままになっている。
いまは国営となり、広く一般に開放されているが、カウダ岬全体がまるごとヴィラの私有地で、広大な敷地の中に5棟のヴィラが点在している。外壁が白か黄色に統一された5つのヴィラのまわりにはプルメリアとサボテンが咲き、海岸に降りると、そこはもちろんプライベート・ビーチ。砂浜だけでなく、岩場もあれば、ブーゲンビリアの咲き乱れる小道もあり、散歩するだけでも十分楽しめる。
ヴィラの内部も、天井はあくまで高く、窓やドアは重厚で落ち着いた感じだ。それでいて料金は格安、かつてバオダイ皇帝が居室にしていたという部屋でも80米ドル。お妃の部屋で60米ドル。ただ改装されたばかりのバスタブは清潔だがプラスチックで、まわりの重厚な雰囲気とはややミスマッチ。これもドイモイ政策からにわかに始まったベトナムの観光事業の歴史を考えればやむをえないところかもしれない。
同じく国営の「グランド・ホテル」も、やはりフランス植民地時代に建てられたコロニアル様式の建物だ。ロビーや階段も落ち着いていて、なかなかシックな味わいがある。ビーチは道路をはさんですぐのところで、大きなホテルの窓からは海が見下ろせる。ただし、ここで泊まるなら、やはり本館。料金の安いバンガローふうの部屋では、せっかくのコロニアルふうの味わいを楽しむことができないからだ。
新しいホテルでおすすめは、まだオープンして半年の「アナ・マンダラ・リゾート」だろう。プールはもちろん、テニスコート、ジム、レセプションルーム付き。ベトナムとしては130〜170米ドルの料金は、かなり高めだが、チーク材とテラコッタがマッチした家具もセンスが感じられ、インテリアもシック。
こうしたリゾートを一歩出ると、ニャチャンの町は活気にあふれている。バイクや自転車が夜遅くまで走り回っていて、カフェやビヤホールも賑わっている。

アナ・マンダラ・リゾートに近い「カーサ・イタリア」というイタリアン・レストランの隣にはディスコもあって、若者たちでにぎわっている。決して垢抜けた店ではないが、それがまたベトナムふうで楽しい。地元の人たちが行く軽い食事と酒を楽しめる店もたくさんあって、ニャチャンの町の人たちと触れあうにはそんな一軒に足を運んでみるのもいいだろう。

注意: この記事は1997年に取材したもので、現在とは状況が異なります。

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Last update: March 28, 2002


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