Puncak Upacara Eka Bhuwana (The great day)

エカ・ブワナの日

写真・文 大木信哉

image6東の空が次第に明るくなり始めると、聖なる山グヌン・アグンが巨大なシルエットを浮かび上がらせている。やがて朝日はグヌン・アグンを包み込むように放射状に広がり、オレンジ色から赤紫、そして青へと美しいグラデーションをつくりだしていった。それはあまりに神々しい光景であり、まさにエカ・ブワナにふさわしい一日の幕開けであった。

前日から多くの人々がブサキ寺院に集まり始めていたため、当日は大勢の参拝客や観光客でごったがえすのではないかと懸念されたが、招待客制を採用した事と事前に作成されたパンフレットが功を奏し、特に混乱もなく儀式は執り行われていった。

太陽が高さを増した頃、寺院内にはルジャンの踊り子たちが待機していた。通常行われるルジャンは、黄色い布を前に垂らしているルジャン・レンテンと呼ばれるものだが、踊り子の中には白い布をつけた者も居る。これはルジャン・デワと呼ばれ、神々を迎えるために行われるが、今では滅多にお目にかかることはない。

image7一方、目の前では素晴らしいガムラン演奏が行われていた。良く見ると、各地の定期公演でもお馴染みの楽団ばかりだ。しかも曲が変わる度に楽団も次々と入れ代わって行く。何れも非常に気合いの入った素晴らしい演奏で、それは「神々の為に演奏する事こそ本来の姿である。」ということを十分理解できるものであった。
太陽が真上に位置すると、いよいよ暑さはピ−クを迎え、待機していた踊り子たちの額からは汗が流れ落ち始めた。

ブサキ寺院には、行われる舞踊によっては専用の場所が設けられている。そのうちの一つであるバレ・パガンブアンという舞台では、古典舞踊のガンブ−が行われていた。ガンブ−はジャワに伝わるパンジ物語を題材とした宮廷舞踊劇で、台詞も古代ジャワのカウィ語が使われている。楽器はスリン・ガンブ−と呼ばれる大きな竹製の笛やルバブという弦楽器が中心となり、非常に重厚で繊細な音を奏でていた。
この時点では様々な芸能が同時にあちこちで行われており、もはや状況を把握することは不可能であった。ここには観客というものは存在しない。すべては神々のために演じられているのだ。

image8ストリスノ副大統領(当時)の挨拶が終了すると、続いてルジャンとバリスが行われた。そして寺院内を埋め尽くしていた人々も一斉にブサキ寺院から去って行く。この時点で儀式はすべて終了したかに思えた。ところが、そんな閑散とした雰囲気の中で、儀式は静かにフィナ−レを迎えようとしていた。プダンダ(高僧)がマントラを唱えながら鳴らす「チリ、チリリリリリ〜ン」という鐘の音とともに一斉にお祈りが行われると、ルジャンとバリスの間を神々が白い布をつたい進んで行く。優雅なルジャンの舞いに包まれた神々は、ゆっくりと白い布で装飾された寝台へと移されて行った。

儀式に関わった人々は一様に安堵の笑みを浮かべていた。ふと空を見上げると、青空はもうどこにも見当たらない。儀式が終了した時から急に雲が厚くなり始め、ブサキ特有のどんよりとした空に戻っていたのだ。参道を歩いていると、時折雲の境目から雷光が見える。降るかも知れないと思った次の瞬間、ポツリと雨が落ちてきた。そして目の前の道路はあっと言う間に川のようになっていった。

「重要な儀式が行われている間は、特別な力で雨を降らせないようにしているんだ。」
以前バリの友人が話してくれたその言葉の意味を、私はこの時初めて理解出来たのだった。

>>>その後>>>


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