Ida Bhatara Memargi (Gods journey to the Ocean)

神々の旅路

写真・文 大木信哉

image3ブサキ寺院はアグン山の麓にあるせいか、特に雲が発生しやすく、特に雨期であるこの時期に青空を見る機会は滅多にない。いよいよ神々が海へ旅立つ時が来た。この日は朝から晴れ渡り、太陽が高さを増すにつれ一段と暑くなっていった。神々は神輿に乗り、長い行列となって海へ向かう。そして再びブサキへ戻って来る。この行程だけで約70Hもの距離となるが、それを3日間かけて歩くのだった。

一方、最初の目的地であるクロトックの海岸では、ムラスティと呼ばれる儀式の準備がすすめられていた。バリ・ヒンドゥ−では海は浄めの場所とされていて、ムラスティは神々を浄化する事が目的である。通常はサカ暦が新年を迎える前に各村ごとに行われるものだが、さすがに今回は大掛かりなものとなっていた。

image4西の空もほんのりと赤味を帯びてくると、海岸は多くの人々と供物で埋め尽くされていった。やがて、神々が到着した頃はすでに辺りは薄暗く、予定の時刻を大幅に過ぎていた。神々の一行はここで儀式を終えた後、折り返し地点でもあるクルンクン(現スマラプラ)の寺院で一夜を明かし、翌早朝にはブサキ寺院を目ざして出発する。

一行が立ち寄る村の寺院では、様々な芸能が行われる。バリでは儀式のための芸能が、それぞれの意味あいにより2つのカテゴリーに分類されていて、例えば"ワリ"では、ルジャンやバリス・グデなどが挙げられるが、これらは純粋に神々へ対しての奉納の儀礼として行われるものである。一方"ブバリ"は娯楽的要素を持ち合わせており、中でもトペン(仮面劇)は踊り手の感性と高度な表現力が要求され、独特な間の取り方などは、日本の伝統芸能である「能」にも通じるものがある。寺院では延々とトペンが演じられていく中、聖なる山グヌン・アグンが夕日に照らされ、隆々しい峰を覗かせていた。

image5翌日、神々の行列はバリの原風景の中をゆっくりと進みながら、昼ごろになってようやくブサキ寺院へ到着した。寺院の入口となる割れ門の前には、ブタ・カラ(悪霊)への供物"チャル"が置かれ、野良犬に姿を変えたブタ・カラが、ごちそうを前に様子を伺っていた。
一方寺院の中では、各地から集まった村の代表達が儀式用のティルタ(聖水)を貰う為、順番を待っていた。このティルタは、はるばるジャワ島のスメル山や、ロンボク島のリンジャニ山から運ばれて来たものだ。瓶から取り出されたティルタは、ブン・ブン・ティルタという三つに束ねられた竹の筒に入れられると、それぞれの村に運ばれていった。
いよいよ明日はエカ・ブワナの日だ。今のところ雨の降る気配は全く感じられない。

>>>つづく>>>


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