ある日の午後、私はクタのとあるカフェへ出掛け、そこでたっぷりと砂糖の入った熱いコピ(インドネシア式コ−ヒ−)をすすりながら現地の新聞を読んでいた。すると、『外国人がアグン山の登山中に転落死』という見出しが目に止まった。記事によるとその外国人一行は、ブサキ寺院から“聖なる山”アグン山へ登山を試みたものの、途中で足場が崩れ落ち転落、そのうちの一人が亡くなったという事であった。カフェの従業員達は全員真顔で「神様が怒ったんだ」と言った。何しろその頃ブサキ寺院では、バリ全土を挙げて行われる10年に1度の儀式、パンチャ・バリ・クラマが行われている最中だったからだ。
私がブサキ寺院に到着した時、儀式の準備は粗整いつつあったが、欲望渦巻くあのクタの街とは対照的に、あくまでも神聖な場所としての威厳に満ちていた。寺院の先にそびえ立つバリの最高峰アグン山が時折その黒く荒々しい岩肌を覗かせ、そこから発生した分厚い雲は、大気中の湿気を大量に吸い込みながらゆっくりと下界へ流れて行く。私は今にも雨が落ちて来そうな、雲り空を見上げながら、明日は晴れるだろうなと思った。そして、バリの人々も当然そう信じているに違いなかった。 |
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