戯れに思うは








『いいかい、楊ゼン。このことは誰にも言ってはいけない』

『悪者から、自分自身を守るために』




自分の出生を隠すことに疑問を覚えたのは、ほんの子供の頃だけだった。


『誰にも気づかせない』

『誰も気づかない』


そのことは、まるで相手よりも自分の方が優位に立っているような気分にさせる。
変化の術を完全にマスターしてからは、真実を悟られないことそのものをある種ゲームのように考え、楽しむようにすらなっていた。



そう。崑崙一の頭脳を持ち、人の心を読むことに長けた、彼に出逢うまでは。



最初のうちは真実を隠し通すゲームにおいて、かつてないハードルかもしれないと思った。
しかしそれは、より強い者と相対したときに奮える歓喜に似た感情であり、彼を欺くことができれば、自分の仮面はほぼ完璧といえるのではないかという思いを刺激するものでもあった。
だから常に彼の右腕として傍に控えているというのに、自分の真実の姿に気付かない太公望に対しても、優越感じみたものすら感じていたのだ。


それなのに。
気付けばちりちりと胸を灼くような違和感が、いつからか心の内を占め始める。
真実を知られてはならないゲームであるにもかかわらず、どこかそのゲームに敗れることを望んでいるかのような自分がいる。


彼になら知られてもいい。
いや違う。
知られたいのかもしれない。


しかしそれと同じくらい、彼にだけは知られたくないと恐れている、相反する自分もいるのだ。



「真実を知ったなら、あなたの僕を見る目は変わるのですか?」



楊ゼンの問いは唇にのせられることもなく、ただ静かに、彼の矛盾を抱えた心の内へと沈んでいった。








― 終 ―










小説部屋へ   トップページへ