「ねぇ。ツォンさんのホクロって、一体なんだと思う?」
お嬢は上流階級の出だけあって、紅茶を淹れるのがやたらと上手かった。
なんでも『乙女の嗜み』とか言うらしいが、正直お前のどこが乙女だと思わないわけでもない。
しかしそんなことを口に出せば、もう二度と茶なんぞ淹れてくれなさそうな事もわかりきっていたので、俺はあえてそれを口にしないことにしていた。
そんな彼女がある日、ティーカップを差し出しながらポツリと呟いた台詞に、俺はどう答えていいのかわからず、指を顎に当て眉間にしわを寄せて考えるポーズをとった彼女をただ見つめた。
「は?」
「なによ、聞いてなかったの?」
いや、聞いていたから故の疑問だったんだが。
「ツォンさんのホクロよ、ホ・ク・ロ」
だからそれがどうした。
「何が出ると思う?」
「……………………………………は?」
俺はたっぷり十秒ほどの間を置いて、もう一度先程と同じ声を発した。
しかし時間を置き過ぎたからか、もしくはわざとなのか、今度は彼女はその疑問を聞いていなかったらしく、胸の前で指を組みどこか遠くを見つめるような眼差しで呟く。
「やっぱりビーム辺りが一般的なんでしょうけど、個人的にはこう、パカッと開いてミサイルなんて出てくれたら嬉しいんだけど」
どこが開くって?
「でもツォンさん地味だから、以外とただのサーチライトかもしれないわね」
待て待て。ただのってなんだ。
そんな所が光った時点でただ事ではないだろうが。
この場にツォンさんが居たらさぞかし憤慨するんだろうなと思ったが、…まぁ居ないからいいか。
頬杖をついた姿勢でチラリと彼女を見れば、まだ何か呟いている。
忙しいツォンさんのことだからあれはもしかしてコピーロボット…いえコピーロボットならスイッチは鼻のはず。とかなんとか。
一体何の話だ。
「ね、あなたはどう思う?」
面白いから放っておいた小悪魔はクルリと振り返り小首を傾げて、どうにも答えようのない問いかけを発した。
どうもこうも、ツォンさんは神羅の秘密兵器って訳でもないと思うし、ホクロはただのホクロだろう。
しかし彼女の期待を込めた眼差しに、通り一遍の返答をするのは、なんとなく、憚られた。
彼女がちょっとオカシイのは今に始まったことではないし。───やはり上流は違うということか。
「…後ろ髪引っ張ったらスイッチが切れたりしてな」
彼女の淹れてくれた茶を一口飲み、なんとなく思いついたそれを言ってみる。
「採用!」
眩しいほどの笑顔でそう言う。
…採用の意味がわからないが。まぁ、喜んでるみたいなのでよしとしよう。
― 終 ―
|