騒動に身も心も疲れ果てた指導者とくされ縁の三人。
ウィンの部屋はマイクロトフらに譲られ、ともあれ一息つこうということになった。
向った先はビクトールの部屋である。思い思いの場所に座り込んだ彼らは、はからずも同時に深い溜め息をついた。
「まったく……何だってこんな面倒なことになるんだ」
「そう言うなよ、あいつらだって望んでこうなったわけじゃないだろ」
ぼやくビクトールをフリックが窘める。一方でウィンはしきりに首を傾げていた。
「どうしたよ、ウィン」
「ええ……いえ、その」
少年はくすっと笑みを浮かべると、両肩を竦めた。
「前々から疑わしいとは思ってはいたんですけど……やっぱりあの二人、そうだったんだなーって……」
「そ、そうだったって……おまえ」
ごく良心的な常識人であるフリックは、自身も薄々勘付いていながら結局口に出せなかったことを、あっさり述べた少年に恐怖とも崇拝ともつかぬ視線を送っている。
「出来てるんだなあ……マイクロトフさんたち」
「…………………………」
ここは同意すべきか、あるいは否定しておくべきなのか。くされ縁は顔を見合わせ思案したが、答えの出難い問題であった。
「何か……いいですよね。あんなに必死になっちゃって。微笑ましいって言うか、面白いって言うか」
────面白い、には取り敢えず賛同出来そうだ。二人はうんうんと頷いた。
「世間に認められない、秘密の間柄……思わず応援してあげたくなっちゃいますよね」
「そ、そうか……?」
「だってあの二人、女の子にも人気あるんですよ? それなのに敢えてつらい恋を選んだ……。ね? 味方してあげたくなるじゃないですか」
「そういうもんか……?」
ビクトールが真面目に考えながら首を捻った。彼らが果たして『自分たちはつらい恋愛をしている』と認識しているかどうか、今ひとつ疑問があるのだが。
「マイクロトフさんの心痛は痛いほど分かります。好きな人がむささびになっちゃったんですからねー。あれじゃ、幾らなんでも……その……」
ウィンはふと頬を染め、もじもじとした。
「……やれないでしょうからねえ……」
何をだ、と突っ込みたい気持ちを必死に堪える成人男性が二人。
年若くして一軍を率いることを強いられた、天魁星を持つ少年。けれど彼もお年頃、所謂思春期という年代にあることを今更のように思い知る。
性に目覚め始める少年の置かれた環境にしては、とてもよろしくないのではないかと思いつつ、彼も人並みな男の子なんだなーなどと感心してしまう彼らの心理は、実に複雑な保護者のそれであった。
「それにしても、軍隊にそういうのが多いっていうのは本当なんですねー」
「…………ふ、ふうん」
「僕の居たユニコーン少年兵部隊でもね、ラウド隊長がルカ・ブライトの絵なんて飾っちゃってたんですよ。あれもそうだったのかなあ……ちょっと気持ち悪いけど」
淡々と語り続けるウィンに、次第にビクトールたちは腰が引け始めていた。
「あ、でも誤解しないでくださいね! マイクロトフさんたちのことは、そんなふうに思ってませんから。あの人たちはもう……くっつくべくくっついた、って感じですよね。カミューさんが女の子に優しいのも、二人の関係に目を向けられないような配慮なのかな……だとしたら大変ですよね、苦労してるんだなあ」
「……………………」
「あの二人なら、この際堂々と交際宣言しちゃってもいいと思いませんか? 誰も反対しませんよね」
「そ、そうかもな…………」
「デュナンじゃ、同性同士は結婚出来ないんだよなあ……可哀想だよな、戦争が終わったら法を変えてもいいんじゃないかな。そうだ、それがいい。シュウに相談してみようっと」
「……………………」
「そのためにも戦いに勝たないといけませんよね! 僕、頑張ります。早く平和を掴まなきゃ」
────まあ、決意を新たにすることはいい……かもしれない。
そう心の中で考えて、男たちは口を噤むのだった。
自分たちが出会った宿命の指導者は、かなり思い込みの強い熱血漢であるかもしれない。その熱血の向う先が妙な道に進まぬよう、見守ってやることが彼らの役割なのだろう。
仲間思いのリーダー以下、面倒見の良い男たちは、このように穏やかな夜を過ごしていた。