攻撃を受けた石柱が動きを止めた。
浩二
「ふぅ、とりあえず止まったね」
浩二は大きく息をついた。
正男
「ったく、なんなんだこれは・・・」
ムーン
「でもこのあとどうするんです?下に降りますか?」
ムーンが困ったように言う。
正男
「おいおい、またあんな面倒な道を通るのか・・・。さすがにちょっと」
正男がため息をついたときだった。
突然どこからか声がした。
正男
「んっ?誰か何か言ったか、浩二?」
浩二
「いや、僕じゃないよ。ムーンは?」
ムーン
「・・・僕らじゃないですよね。他に誰か居るんでしょうか?」
3人はあたりを見渡す。
???
「ここだよ、ここ」
今度は部屋の奥から声がした。
3人はそちらに振り返る。
そこには太陽のように明るい色の服を着た男が立っていた。
正男
「うおっ、誰だあんた!いつの間にそんなとこに!?」
さらに聞こうとする3人を男は手で制した。
???
「まぁまぁ、とりあえず自己紹介でもさせてくれ」
男はこほんと咳払いすると言った。
ソル
「私はソル。この『太陽界』の神さ」
正男
「・・・神?・・・えーと何言ってんだ?」
正男が頭をかき、浩二の方を見る。
浩二
「えーと・・・つまり神様ってことじゃないのかな?」
浩二は首をひねりながら答える。
ソル
「・・・じゃあ、色々と話そうか」
ソルは3人を見渡してから話し始めた。
ソル
「まず私はさっき『太陽界』と言ったが・・・この世に世界は1つだけ、というわけじゃないんだ」
浩二
「世界は1つじゃないって・・・どういう意味?」
浩二は首をかしげる。
ソル
「例えば・・・ここでは常に太陽が地上を照らしている。この話は聞いたかい?」
正男と浩二はうなずく。
ソル
「だが、君たちの前までいた世界は違うだろ?」
正男
「まぁ・・・夜もあるしな。太陽は見えねぇよ」
ソル
「その通り。太陽がずっと照っているのはこの世界位なのさ」
そこでムーンが言った。
ムーン
「あの・・・僕のいた場所、じゃなくて世界?・・・はずっと暗かったんですけど?」
それを聞いてソルは答えた。
ソル
「なら君の来た世界は『太陽界』とは逆に、夜しかない世界『月夜界』だろう」
そして正男が割り込んできた。
正男
「ちょっと待てよ・・・じゃあここは俺たちのいた世界とは別の世界なんだよな?なんで俺たちやムーンはこの世界に来ちまったんだ?」
ソルはうなずく。
ソル
「そこが問題なんだが・・・『白霧界』という世界がある。常に霧に覆われている世界らしい」
浩二
「えっ、霧?じゃあ今までの霧ってその世界の霧なの?」
ソルは一旦考える。
ソル
「すまないが一旦話を変えさせてもらうよ。さっき言った通りこの世には世界がいくつもあるわけだが、
それぞれの世界は『界壁』という壁で仕切られているんだ」
ムーン
「壁って・・・ずっと歩いて行ったらそのうち壁が見えてくるってことですか?」
ムーンの質問にソルは苦笑し答えた。
ソル
「もちろん物の例えさ。壁はそれぞれ世界のどこにでもある。まぁ普通は見えないがね。
それによってそれぞれの世界は別の世界に影響を与えないようにしているのさ」
するとソルがため息をついた。
ソル
「だがどういうわけか最近『白霧界』から霧が流れてきているんだ」
浩二
「・・・それがヘイズの言ってた『霧化の霧』?」
ソルはうなずいた。
ソル
「触れたものを霧に換えるあの霧だが・・・どうやら『界壁』も霧に変えてしまうみたいでね。
つまり『界壁』に穴が開いたような状態になってしまうんだ。そしてそこから別の世界に霧が流れ込んだ」
ムーン
「えっ・・・じゃあ僕たちがこの世界に来たのは・・・」
ソル
「そうさ。君たちは霧の中を歩くうち、気づかずにその穴を通ってしまったんだよ」
そこで正男がソルに聞いた。
正男
「ならその穴を通れば元の世界に帰れるんだな?」
しかしソルは首を振った。
ソル
「確かにそうだが・・・かなり難しいと思うね、現状では」
浩二
「どういうこと?」
浩二も聞いた。
ソル
「一応この世界の『界壁』に穴があけば私は穴のある場所に気づける。だがそれがどの世界に通じてるかはわからないんだ。」
浩二
「通ってみるまでわからないってこと?」
ソル
「そうさ。それに・・・もし運よく元の世界に帰れても『霧化の霧』がある。
霧を何とかしないと全ての世界が消えてしまうのさ」
ムーン
「じゃあ・・・霧の世界に行って霧を何とかしなきゃいけないってことですか?」
ソルはうなずいた。
ソル
「『白霧界』に行くだけでも苦労するかもしれないけどね。まぁその通りだ。
霧を何とかしなければどの世界に行っても安全はない」
正男
「・・・ならその霧の世界に行く手がかりとかないのか?」
正男の質問にソルは考えた。
ソル
「世界の中には互いに近い・・・言ってみれば隣同士のような世界がある。
例えば正男たち2人の世界『万象界』と『太陽界』『月夜界』は世界が近い。
この世界に来たのが君たちのように『万象界』『月夜界』の人間だったのはそのせいだろうね」
浩二
「えーと・・・まず『白霧界』と隣同士の世界に行けばいいってこと?」
ソル
「・・・実は『万象界』はその名の通り、ほぼすべての世界と近いんだけどね。
だから『万象界』に戻ると、そのぶん『白霧界』に行ける可能性は低くなっちゃうんだ」
そこでソルは思いついたように言った。
ソル
「ああ、そうだ。これは聞いたかもしれないけど・・・太陽と言うのは邪悪なものに対する抵抗力があるんだ。
そしてその力が一番強いのはもちろんこの『太陽界』だ。だからこの世界では霧の影響が弱まるんだよ。
逆に太陽の力の弱い世界は霧の影響が大きいと思うよ。これは最悪の場合だけど・・・」
ソルは一旦言葉を切って言った。
ソル
「もし世界の間の『界壁』が完全に消えてしまったら、世界は『白霧界』に呑まれてしまうだろうね。」
そしてソルはムーンの方を向く。
ソル
「ここからは私の推測だが・・・その一番危ない世界は君の『月夜界』かもしれないよ」
ムーン
「えっ!?どっ、どういうことですか!?」
ムーンは驚き聞き返した。
ソル
「『月夜界』では太陽の働きがほとんど無い。霧に包まれれば他の世界より早く侵食が進むだろうね。だが・・・」
そしてさらに言った。
ソル
「侵食が進んでいれば、その世界は『白霧界』に近くなっていくということだ。
それだけ『白霧界』に行きやすくなるということさ」
ムーン
「でっ、でもそれじゃ僕や僕の世界の人が困るんですけど・・・」
ソル
「もちろんそれを肯定してるわけじゃないさ。要するにだ、『月夜界』に行ってみるのも1つの手ってことさ」
そこで正男が言う。
正男
「まぁ、結局は『白霧界』に行けばいいんだろ?どうやって行くんだよ?」
その質問にソルは腕を組む。
ソル
「まぁ・・・さっき言ったけど『界壁』に開いた穴を通ればいい。でもまずは穴ができないといけないし・・・
それにその穴がどの世界に通じているかは通るまでわからないんだ。つまり運任せなんだよね」
今度は浩二が手を挙げた。
浩二
「そういえば僕やムーンは一回『月夜界』通ったんだよね?それでふもとに有った神殿から出てきたんだから・・・
あそこからまた『月夜界』に行けるのかな?」
しかしソルは首を振る。
ソル
「でもその穴は君たちが太陽片を使って閉じたんだろう?それに『界壁』ってのはあいまいでね
穴の出来る位置が少しでも違うと別の世界に行ってしまうかもしれないんだ。
他に穴のある場所を探すか・・・新しい穴ができるのを待つしか・・・んっ?」
ソルは急に話を止めて別の方向を向いた。
ムーン
「?・・・どうしたんですか?」
ソル
「・・・噂をすればなんとやら、てことだね。この近くに『界壁』の穴が発生したみたいだ」
ソル
「さて話が長くなってしまったが・・・私は別の世界の人間が来るのを待っていたんだ。世界を元に戻すためにね。」
正男
「・・・なんで俺たちなんだ?ブライトとかフレアとか・・・この世界の奴じゃだめなのか?」
ソルはうなずいた。
ソル
「神って言ったって、全ての人間が神様を信じているわけじゃないだろ?神頼みって言う言葉もあるように困った時に頼る程度さ。
難しい話になるから説明は省くけど、人々にとって神という存在が確実なものであってはいけないのさ。」
すると浩二が言った。
浩二
「えっ、じゃあブライトたちがこの塔を見れなかったり、僕たちだけ中には入れたのは・・・」
ソル
「そうさ。この世界の人間はこの塔や僕を見ることも声を聞くこともできない。
別の世界の人間は例外、っていうのは最近知ったけどね」
正男
「・・・ならお前が何とかしに行けばいいんじゃないのか?」
ソルは今度は首を振る。
ソル
「神がいなくなったらこの世界に何が起こるか分からないんだろ?」
浩二
「だから僕たちみたいな人じゃないとダメだったってこと?」
ソル
「・・・ここまでに道を阻む太陽兵を置いたのも・・・さっきのベリスクを使ったのも・・・
それなりに力のある人間に来てほしいと思ってのことだったんだ。悪かったね」
正男
「まぁ、俺やムーンはともかく、運動苦手な浩二がよくここまでこれたもんだな」
それに対してソルが答えた。
ソル
「全ての人間は神のもとでは平等ということさ。この塔の中では身体能力はみんな調整されている」
しばらくして正男はソルに言った。
正男
「で俺たちに霧を何とかしてくれって話だが・・・まぁ俺たちも元の世界に帰りたいわけだしな。」
浩二
「そうだね。このまま何もしないでいても仕方ないし・・・」
ムーン
「僕も自分の世界に帰って元に戻したいです」
そんな3人を見てソルは満足げにうなずいた。
ソル
「ありがとう。君たちの働きに期待しているよ」
浩二が言った。
浩二
「じゃあ・・・さっき穴ができたっていう場所に行けばいいの?」
正男
「おいおい、さっそく不満言うけどこの塔下まで降りなきゃいけねぇのかよ・・・」
正男はため息をつく。しかし、
ソル
「ああ、それは大丈夫さ。ちゃんと下まで戻してあげるよ。それと・・・これを持って行ってくれ」
ソルは正男に何かを投げ渡した。
正男
「んっ?なんだこれ・・・ペンダント?」
ソルが投げたのは太陽の形をした石がついたペンダントだった。
ソル
「それは私の一部をこめた『太陽宝』さ。太陽片を数十個集めたのと同じ力を持っている。」
浩二
「えっ?じゃあ太陽片を集めなくても霧が晴らせるってこと?」
ソル
「そうさ。それにそのペンダントが近くにあれば、霧の影響は受けないと思うよ」
ペンダントは良く見ると少し輝きを放っていた。
ソル
「他の世界の太陽の力を借りれば、霧を消すこともできるかもしれない。困ったら使ってくれ」
正男はペンダントを首にかけた。
ソル
「穴のあいた場所は近くの谷だ。じゃあ・・・頼んだよ、君たち」
そう言うとソルは手を正男たちに向けた。
するとソルの手のひらから強い光が放たれた。
正男
「うおっ!?」
浩二
「うわっ!?」
ムーン
「うわぁ!」
3人は思わず目をつむった。