公開パネルディスカッション
「北米における言語的・文化的に
多様な子ども達の学習状況と発達支援活動」

記録

開催案内


資料は、主催者である「海外にルーツがある文化的に多様な子ども達の表現活動を中心とした学習共同体の研究プロジェクト」のページをご覧ください。

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『愛知 外国につながる子どもの母語支援プロジェクト』が共催した公開パネルディスカッションが、2013年12月14日(土)に開催されました。

このパネルディスカッションを通して、改めて言葉の重要性に気づかされるとともに、母語を支援することにより、子どもが変化し、新しい意識を発達させるだけでなく、社会をも変化させていくものだと気づかされました。
また、そのためには、コミュニティや研究者、学生を巻き込んでの取り組みが重要であり、今後の母語支援プロジェクトの活動を考える上で、非常に有益なものとなりました。

【報告1】 Olga Vasquez氏(カリフォルニア大学サンディエゴ校准教授)


『La Classe Magica(魔法の教室)における言葉』と題して、児童学習支援教室La Classe Magica(以下、LCM)における活動を中心とする報告が行われた。

カリフォルニア州には、移民の言語・文化に対して排他的な州法と連邦法があるが、約3割を占めるメキシコ系の子どもたちの落第率の高さをきっかけにOlga氏が始めたLCMの活動は、移民の子どもたちの高校進学や、よりよい仕事を手に入れるために役立ったそうである。

LCMは、大学とコミュニティのパートナーシップで行われているが、その活動を研究者が研究対象として分析している点、また、学部生の実習コースに組み入れている点において、一つの教室での活動の枠組を超えている。

Olga氏は、この教室を「文化的実験室」と位置付け、こうした教室をコミュニティに持っていくことにより変化が起きている、と言い、実践の大切さを説いた。

LCMでは、特に言葉を重視しており、教室の中では、両方の言語(英語/スペイン語)の使用が認められている。また、「言葉は人間の認識の小宇宙である」との考えのもと、自分と世界の新しい意識の発達をうながすために言語を使う(=新しい認識)」のだとしている。そのための仲介をLCMではしているそうである。

LCMの活動紹介動画

【報告2】 竹内身和氏(日本学術振興会特別教員)


カナダ・トロント市の小学校における現状と課題を中心に報告が行われた。
多文化社会であるカナダでは、公用語で教育を受けるとともに、継承語(母語)教育も保障されているそうである。
そうしたカナダにおいて、マルチリンガル児は学校において、どのような現状にあるのか、「ポジショニング」という言葉をキーワードに分析がなされた。

マルチリンガル児は、往々にして、「語彙」が不足している存在、「学校特有の言語」が不足している存在としてポジショニングされるが、スペイン語をグループワークで用いることにより、「英語ができない存在」から「複数言語のできる存在」へとポジショニングを変化させることにより、教室での居場所をつくることに成功した事例の紹介があった。

また、先生が、4分の3を表した図を示して、これはいくつでしょうと質問したのに対して、マルチリンガル児は「8分の6」と答えた。この期待された答え以外のものを提示した子どもに対して、先生は、「とても賢いです」と褒め、多様性の承認を行うことにより、特殊な存在として位置付けられていた子どものポジショニングを変化させた事例の紹介もあった。

この事例において、子どもは8分の6になる理由をジェスチャーを用いたり図を指差すことによって示したが、マルチリンガル児については、こうしたマルチ・モーダルな資源を用いての参加の方法もあることも示された。


【コメント1】 舘岡洋子氏(早稲田大学教授)


2つの報告に対するコメントのほか、多言語主義と複言語主義の違いについて説明があった。

複言語主義とは、「〜そこでは新しいコミュニケーション能力が作り上げられるが、その成立にはすべての言語知識と経験が寄与し、言語同士が相互の関係を築き、相互に作用しあっている」ことが認められており、ある言語を完全に使える能力がなくても、部分的に使える能力があれば、肯定的にとらえるという考え方である。


【コメント2】 宮崎隆志氏(北海道大学教授)


方言は、生活共同体の中で共通体験を共通理解するために独自の表現を創造しているが、こうした言葉を尊重するということは、子どもの生活の全体性を肯定し、子どもを主体として承認することを意味する。

こうした視点から、教室で母語を使うということを考えてみると、生活世界を教室に持ち込むことを意味し、教室と生活世界という二つの実践コミュニティが重なり合うことになる。
この重なり合う実践コミュニティは新たな教室文脈を生成させているのではないか。

また、重なり合うコミュニティは、一種のカーニバル空間であり、そのような空間が発達を保障するために必要であり、文化的実験室とはこのような空間を構成することとして理解したい。


【コメント3】 内田千春(共栄大学准教授)


Olga氏の報告から、常に変化・進化し続けることの重要性を知ったが、これは常に自分の持つ教授観・教育観・子ども観への挑戦が伴う。教室は研究の場・教育の実験室であり、教師は研究主体である。また、子どもは学びの主体であり、探究者である。

竹内氏のマルチ・モーダルの考え方は、学校の学びの目標の捉え方に挑戦している。テキストに書いてあることを理解することだけが目標ではなく、理解の過程でおきる、テキストの目標以外の様々な学びがある。また、言葉を学ぶとき、概念形成やアイデンティティ形成も同時におきている。


【まとめ】 石黒広昭(立教大学教授)


学習概念、学習促進の意味を変更すべきである。
ポイントは、「どう教える場をつくるかからどう学ぶ場を作るのかへ」「参加が第一、成果はその結果」「何かを学ぶことよりも学ぶ力をつける」「多様性を持つ学習活動を作る、維持する」「雑多な道具の使用を保証する」である。