第2話 桜の花が咲く 15才の青い季節

俺は 新高校生になつた春

見知らぬクラスメイトと教師が 仰々しく並ぶ体育館で 緊張して立っていた。

広い体育館の前方の舞台には校長が・・祝辞の挨拶の真っ最中でだった。

後方には合唱部員が横に広がって並んで校長の挨拶の終わりを待ちかねて、新一年生に校歌を聞かせる準備をしていた。

俺達、新一年生は校歌を壇上の部員と一緒に歌う目的で歌詞カードを持ってた。

新一年生の視線がそろって校長に向けらている中・・・

ふと、顔を横に向けると2組の女子高校生の列で一人俯いて自分の足元をじっと見つめてい少女を偶然発見した。

 

その少女は。

この晴れ晴れし祝賀の席で、少女だけが異質な孤独感を漂わせていた。

気になりだすと視線は校長より真横のその子の横顔に注がれた。

 

目立ちすぎて可愛そうに思えるくらい肌が白くて綺麗だ。

太陽の光りから遠ざかるような生活をしているのかもしれない。

肩まで伸びた艶やかな黒髪に、引き込まれるように透きとおった大きな目

緋寒桜(ひかんざくら)色したそして形の整った潤んだ唇が印象的で どこか日本人らしからぬ容貌だ。

俺の視線に気がついたのか?

ちらりと俺の方へ視線を向けた。

次の瞬間には..

エジフプトの美人壁画が突然の地震で、ひび割れ足元に崩れ落ちるように

少女は足をくの字に曲げ・・

俺の膝もとまで倒れ込んできた。


頭を床に危うくぶつけそうになったので、反射的に少女を抱きかかえた。

あの鮮やかな唇が紫色になっている。

天使か悪魔か

そのどちらが成せるわざなのか ?

少女は目をつぶりながら、

うあごとのように「私を守って・・・・」と唇を動かした気がした。

不確実のメッセージは 

少女のいったい何を守ればいいのか悩ませたけれど

体なんだろうか?

それとも さっきの表情からしてもっと違うことのような気もする

直感で 人生とか夢とのような内面的なものかなとも思った。

 

結論が出せず、もやもやとした割り切れない感情を残したまま

俺は、ありえないことに

少女の手を握り締めていた。


「おおーい 吉田先生っ 来てくれ、大変だ」


「おー、君どうした。

・・早川君だったけ」

一時間前に自己紹介をしたばかりの担任教師は 倒れた女子高校生に 触れて、まず脈拍を確認した。

「よし、こまのの医務室に抱きかかえていく

早川は 足の方を持てくれないか 」

「先生 足ですか・・・

俺っ」

「人の命が かかっているかもしれない

こんな緊急の場に

どうした 早川

何を 動揺しているんだ」

「いいぇ 動揺などしてません

ただ・・・」

「お前・・・後悔するなょ

人生は一度きりだ」

訳のわからない事をいってから

もう一度少女の足を持つように

指を少女の足先に指した

俺は無言で小さく頷くと

二人で、肩と足を持って医務室へそのまま駆け込んだ

それから二日たって担任教師を通じて、少女からお礼のハンカチと手紙が届けられた。


「前略

早川武さん、先日はご迷惑を掛けました。

私は 飯田瞳と言います。

祝辞会の時に 見っとも無く倒れた原因は緊張によるただの貧血みたいです。

翌日からすっかり体力も回復して元気でやっています。

隣りクラスなのに直接お礼に伺えなくてごめんなさい。

実は少し込み入った訳ありなので手紙にて失礼します。


                        草々」


それから瞳からのこれ以上のアプローチは無かった。

休憩時間の教室移動の時に、廊下で擦れ違うことは何度かあったが

お互い視線は瞬間合わせても言葉を掛けることはしなかった。

俺も入学したばかりで自分のクラスのこと方が、気になっていたし...

それになにより俺は まだお袋のことで異性に対して必要以上に臆病になっていたのかもしれない?

相当な無理をして出来るだけ忘れるように勤める決心をしたのだが.....

 

 

半年が過ぎると学校生活にもすっかり慣れ

驚く事に、引き籠もりの俺が

クラスメイトとは昼休み少しづつでわあるが 話せるようになった

青く広がる青空に低く垂れ込めてい天辺まで高く伸び上がった入道雲は 恒例の学園祭が始まる頃には

いつの間にか、上空高くその高度を上げ季節の変わり目を俺たちに告げていた。


 
偶然なのか

それとも運命なのか

瞳と俺は学園祭の同じ飾りつけ係なることになった。

初めての学園祭も無事に終わると、係り全員が出席して学園祭の反省会をした。

気が付いたことや来年への懸案事項などを一人一人発表して

その中で学園祭の開催時期が 問題となり

結局 来年度は我が校は大学受験高校であり年々受験者が増加する一方なので

三年生への配慮からその開催を 余裕のある夏休み直前に変更する事として総括して流れ解散となった。

腕時計を見るともう8時過ぎになっている。

部室にはもう誰も残っていない。

急いで廊下を走って帰ろうしていた時出口の近くの暗がりで

またもや運命の女神は、そこに未来の全ての優しさと刹那さを封じ込めて女を立たせていた。

いったい誰だろう・・・と思い緊張で生唾を飲み込んだ。

女は伏せ目がちに顔を隠しながら近寄って来た。

商店街の看板の明かりが、窓から差込み女の顔を浮き上がらせた。

「早川君、お疲れ様」

そこには、隣りの二組の学級委員長で祝賀会で運命の出逢いをした瞳が待っていた。

暗闇で あの飯田に出くわしたので

生まれてから同級生の女との二人きりのシュチュエイションがまるで無かった俺は

一瞬 どう反応していいが判らす

気が動転して 

「えっ

 

ああっ 飯田っ

い いっ今 お 俺のことよんだ? ?」

 

「これ...早川君のじゃない」

瞳が薄暗い廊下の照明の中

後ろで背中に隠し持っていたものを

緊張する距離まで近寄って

差し出したものは、俺が高校の入学祝いで兄から貰った万年筆だ。

「万年筆?

ど どうして

持ってるの

「いやーだ

そんなに驚くことないじゃない

あんまり武君

一生懸命に 飾りつけしていて

自分で落としたの気が付かなかったのよ

すぐ返せばよかったけど

私も

たぶん武君と 同じで恥ずかしがりやの人見知りなのかも

始業式で 武君に私の恥ずかしい姿見せてしまったので

気が付いても 話しずらくて

今日は 武君と会える最後の日た゜から

勇気を振り絞って

この万年筆返そうと想って・・・・

そういう訳なの

ごめんなさい驚かせちゃって」

「あ あそうっ

 

あ、あ・・・・有難う

マジで

助かったよ

これ凄く気にっていて大事にしていたんだ。」

「早川君の日ごろの行いがいいから、神様にかわって私が無事に返してあげれたのかもよ」

「どういう意味?」

「だって毎日遅くまで残って一人で学園祭の飾りつけ準備していたじゃない」

「あ・・・なるほどね・・・

君には、そんなふうに見えていたかもしれないね本当は、

・・・・訳ありなんだ。」

「へー、」

俺は いったんまた息を呑んで、目の前の瞳を見つめた。

『瞳に 俺の惨めな家の実情を どこまで話していいのだろうか?』


俺は夜中の校舎で今二人きりでいる

こんな綺麗な女に話せるチャンスなんて おれの場合もう二度とないかもしれない。

嫌われてもともとじゃないか そんなふうに俺は その時居直った考えに浸った。

俺は手の振るえ背中に隠し

わざと大声で

「お 俺さぁ 両親がいないだ」

「えー」

「生活費は東京にいる兄から毎月仕送りしてもらっているんだ。

だから、この万年筆仕送りいっしょに入学の記念もったんだ。

俺 俺さぁ

勉強なんか 全然しないし

今時 万年筆なんか 使わないけど・・・

いつも机の横に 置いて兄に感謝してんだぁ。

だからさぁ

とても、とても大事にしていたんだ。

家に帰ってもずーと一人だし

何ていうか

寂しくてっ

あっ 

いけねっ

余計な事

いっちゃった」

 

「・・・そうなの・・・」

なんか ヤバイ雰囲気で瞳によけいに根暗のイメージを与えたみてに思えたので

強がって

女の子と二人きりでも 平気ふりして

また俺は大声で自分のことを話し始めた

「兄とは俺が高校卒業するまで生活費面倒見るて、

親父が死んだ時、約束したんだ。

だから

その・・・つまり・・・その俺的には

そういうのあんまり好きじゃないんだ

生活費全部兄に負担して貰うの心苦しいしコンビニでバイトしていんだ。

学園祭の準備が終わって家に帰るとバイト間に合わなくなるわけ、

そんなんで・・・・俺時間調整してた訳」

瞳は少しだけ気落ちしたような顔して

頭を二三回軽く振ってから、わざとらしく明るい声で

「そーそうなの 

武君

偉いのね

やっと理由がわかったわ」

「えっえっ

そんなの

全然偉くないさぁ・・・

でも とにかく

万年筆

有難う」

「・・・そんなに有り難がられると

そんな生活してないから

・・・恥ずかしいわ

私なんか 自立できなくて

でも・・・・・・」 

その時二人の会話を途切れさすような突然の稲光が、窓から差し込んで、

校舎の窓ガラスが震えだすような重圧の雷音が校舎の中を駆け巡った。

そのうち、校庭の周りに密生している松の木の小枝が小刻みに微かに揺れて連打音を発している。

「にわか雨だ」

「いやーっ、私傘持ってきてない」

「ええっー 君たしか電車通学だろ」

「うーん? なんで〜 そんなことよく分かったね」

実は飯田瞳のことが、新高校一年生の歓迎会の出来事以来

忘れようとしたが決心してから一週間も経たないうちに やはりそれは男の生理上、無理なことだと悟った。

俺の男本能は無意識に飯田瞳の情報を人づてに聞き集めていたかもしれない。

俺の日記には いつのまにか瞳のことが・・・

この前の期末試験も学年上位10名の張り出しで、一番に名前が載っていたことやなどが細かく丁寧に書かれていた。

それに、お嬢様ぽい話し方と他の女とツルんで行動しない瞳は、

特別な雰囲気を持った女性だから周囲の学生に聞けば直ぐこの様子は知る事ができた。

『けれど、この雰囲気でずーと瞳のこと関心を持って追いかけていたとバラスのはヤバイ

ここは一つ ウィットに効いたジョークで切り抜けるしかないかも』

 

 

 

「とろいなー・・・君が電車通学してるのは、本校の常識だよ 瞳ちゃんは、噂に意外と鈍行列車しているね!!」

 

俺は冗談が言いたかったのだが・・・瞳は不機嫌に眉を吊り上げた。

「?? 何ょ〜それって、噂の中心っていう意味??

もうー 何なの ばか

 

・・ああ・・・たけし

だけは・・」

瞳は 首を振って 自分の頭の中の思いを吐き出そうとする

行き成り瞳は 

人が変わったように荒々しく俺の肩と突付いて後ずさりさせた。

 

「どうしただよ

急に

誰・・・たけし って

ふざけんなよ 俺は たける だぜ..

からかってのか

わかった

俺が いつも皆と馴染めないで

一人でぼーとしているから

わざわざ からかいに来たのか?.」

 

頭に血が昇ってカーとなった俺は

瞳が突付いた力の倍の力で 瞳の肩を叩き転げさせてしまった。

操り人形の糸が切れたように ぐにゃぐにゃになって受身もせずに倒れた姿は

どこか不自然で 哀れなくらいもろ過ぎた。

後悔した俺は手を差し伸べて起こしてやったか゛

 

「今 私武君のこと 何て呼んだの??

ごめんなさい どうかしちゃったのかな私....」

 

瞳は再び立ち眩みがしたように、へなへなと座り込んで頭を抱えて倒れた。

突然 俺の仕舞い込んだ記憶の中からアルコール中毒になって俺に絡んできた時のお袋の目つきを思い出した。

『しまった 祝賀会の時の様子と 同じだ。

何かよっぽと゛の事情があるに違いない』

俺は とっさの機転で 座り込んだ瞳を またそっと起こして

大胆にも子供をなだめるように頭を撫でて

笑って誤魔化した。

なぜか

不思議と異性に対する臆病さが

消えて

普通に 話はじめた。

 

「大丈夫か 飯田

怪我ないか?

悪りー 俺の聞き違いかもなー

それに からかったのは俺だから

それにしても 大人しそうな瞳ちゃんが まいったよ ははー」

 

「武君 ごめんなさい 聞き間違いじゃないの・・・

私ね 二度も武君の前で 気絶したのは絶えられないくらい恥ずかしいの」

「そっか・・・女の子だから気になるだろう」

「ね 信じられない言い訳に聞こえるかもしれないけど..

私の過去を聞いて欲しいの...

私 中三の時の記憶が 全然ないの

信じられる武君??」

「記憶がない・・・

それって今 君が気絶しそうになったことと関係あるんじゃないのか?」

「そうなの

思い出そうとしても中二のことしか思い出せないの

中三時代の思い出をブラックホールみたいに吸い込んでしまって

父に聞いても、友達の道子に聞いても

『私の体を守るため 知らない方がいい』と言って

仕方ないから、

中三の時の 写真とかアルバムとか見ても 記憶が蘇らないの

でも たった一つ同じクラスの「雨道 たけし」という人の写真を見てい時

立ち眩みがして、気絶してしまったの

で その人のことが気になって調べたんだけど

名簿には転校と書いてあるだけで、連絡先もわからなくなってのる

だから・・たぶん祝賀会の時、貰った名簿をみて早川武君の名前をたけしと読んで

同じように立ち眩みがしたんじゃないかと思う

「 それで さっき俺の事 たけしと呼んだのか

でも ちっと 不思議だね 

普通さぁ

転校したって連絡先くらい載せると思うけど...」

「そうでしょ おかしいでしょ

ああー よかった わかってくれて

 

それに 誰にも言わないでね

私 最近中三の時の記憶が断片的に戻ってきたの。

でも 父や道子の話しと 食い違うので

全然記憶が無い振りしているの

私を 噂の渦に巻き込んだ真意を暴きたいの

こんな変な話しして

たける君 私のこといやになつたで゜しょ・・・・??」

 

 

「・・・いや

全然

俺の方も 君がいやになる話し あるし・・・

けど・・今日止めておく」

「・・・?」

会話に夢中になって気がつくと雨脚は だんだん酷くなり

校庭の木々は耳障りなほど雨音を立てていたが、そんなことより俺は

瞳の過去を告白してくれた気持ちが心配でしかたなかった。

 

瞳       俺さぁ ・・・・携帯の傘持っているから駅まで送りたいんだけど?」

「・・・   うん  いいよ」

小さな携帯傘に瞳を入れて、肩をそっと抱いて雨に濡れない様に、引き寄せた。

禁断の青春領域に無断侵入した雨粒が、瞳のブラウスを濡らし薄紅色の肌を半透明に浮き上がらせた。

初めての馨しい香りと、指先から触れた肌の柔らかさが、俺の心拍数を上昇させていく


第3話 瞳の想い

戻る