電池の話
第1章
「くちゅ、ん」
「はむ」
抱き合ったままの男女が粘っこい音を立てながら、抱き合っている。ぎゅっと互いに手を相手の背に回したまま、唇をあわせ、時には舌を入れ、耳を責めた。
男は抱きしめた手をゆるめ、そっと服の下から手を入れて彼女の体を触る。特殊合成ゴム製の人工皮膚はもちろん作り物。だが、その手が彼女の敏感なところに当たると、彼女の体がぴくっと反応した。
「ん、あう」
ブラのカップの中に指を差し込み、彼女の敏感なところを摘んだ。
「あん」
ふと気がつくと、彼女は男の目をじっと見つめている。優しい目つきでめっとつぶやくと、彼女は男を部屋の奥に誘った。
男...彼氏の名前はどうでもいいが、野村昭一君という名前があるので、以下昭一と呼ぶことにする。
「昭くん、ここじゃなくて、ベッドにいこ?」
「あ、ああ」
大西知美は、久しぶりに会う彼氏に穏やかな笑顔を向けながら、その手をそっと引いた。昭一は意外に強い力で、部屋に引っ張られていく。この局面で彼女に主導権を取られては男が立たない。かなり慌てて、知美の前に立ち、お姫様をベットへといざなう。
「知美」
「ん」
昭一は知美をベッドに静かに座らせ、またそっと口づけをした。
「服を脱がせていいかな?」
「ん、どうしよう」
彼女は全身義体者、一般的にはサイボーグという呼び名の方が有名だろうか。彼女の体はほとんどが人工的に作られた機械の固まりであり、本来の肉体は彼女の脳の部分しか残っていない。
知美は少し躊躇した。一見する程度では義体と分からないほどの完成度を持つ体であるが、全裸になってなめ回すように見つめられれば、さすがに義体の継ぎ目やカモフラージュシールの境は分かってしまう。
「ん、脱がせて」
少し考えた後、知美は両手を挙げた。シャツの胸の盛り上がりが、乳房の存在を主張している。昭一の手は知美のシャツをゆっくりと持ち上げると、やがて少し太めのウエストとバランスのいい胸を蓄えたブラがあらわとなる。
そのまま、万歳の格好のままに服を脱がせ、少しぽっこりとしたおなかに手を滑らせた。
(ぷにぷに)
おなかの中、表面の1センチほどの柔らかな人工皮膚の下に、しっかりとした堅さがある。この中には彼女の動かすためのバッテリーや体液などのタンクがぎっしりと詰まっており、彼女の命に関わるところでもある。
「う、だめえ」
ぽっこりとしたおなかを撫でる昭一を制するように、知美は彼の手を握った。少し太めのウエストは、気にしているところなので、あまりさわられたくはない。
「わかった」
昭一はそのまま、下腹部から、ショーツの中に手を滑らせていく。ふんわりとしたごく薄い体毛を辿ると、その先には本来は存在しない湿った温もりがあった。彼女の体は世界的に見ればどうかは知らないが、国内ではまだ20に満たない数しか存在しない性行為の可能な義体である。性感の開発に携わった一人として、優先的に試作品が提供されているのである。
昭一は空いている手で、知美の腰に手を添えながら、そのまま、ベッドへと押し倒した。
「いいかい」
「ん」
知美がおしりを持ち上げる仕草をする。ショーツを大きなお尻からそっとはずし、秘部を明かりの下へさらけ出す。知美は小さく息を吐いた。
「はふ」
「さわるね」
軽く閉じた太ももの隙間に昭一はそっと指を差し込んだ。股の間を愛撫しながら、ゆっくりと秘部へ指を進めていく。少し皮膚の下にある構造材の形を感じながら、やがて秘部にまで到達する。
素っ気ない人工皮膚の感触が変わり、突然熱く湿って、指を飲み込んでいく。ぬるりとした分泌物はすでに準備が出来ていることを示していた。
「ひゃん」
「すこしまって」
「うう」
昭一は手早く服を脱ぐと、知美の足下に立った。膝をゆっくりと開き、胎内への入り口を目にする。
「大丈夫かな」
それは意外と小さなものだった。膝を大きく開くと、ピンク色の胎内が唇の間からのぞく。直径は昭一の物とほぼ同じだが、その中には柔らかい物が中をふさいでいる。強くすれば裂けてしまうかも知れない。
(くちゅ)
そっとふたつの指を差し入れ、軽く広げてみる。指2本は何とか飲み込んだが、それほどの余裕はなさそうである。
「知美」
「んー」
「入れていいのかな」
「いいよお」
甘い声で肯定する知美に、昭一の心配は変わらない。
「なんだか入れたら壊れそうなんだけど...」
「そお、昭くんそんなに大きかったっけ?」
「いや、少し小さ過ぎない?」
昭一は、くにっと差し込んだ指を動かす。知美はぴくっと背中を反らせながら、にこりとする。
「大丈夫だよ、昭くんのに合わせてもらったからちいさいんだよ」
「えー、俺のって小さいの?」
(がーん)
自信を喪失しかける昭一を見ても、知美の笑顔は消えなかった。
「嘘」
「しくしく」
「嘘だよ」
「しくしく」
「嘘だってば」
「...」
暗がりに引きこもってさめざめと泣く昭一の肩を、知美はぽんぽんと叩く。
「本当はね、」
「うん」
「あまり大きい物が入れられなかったの」
「どうして?」
知美は自分のおなかをさすった。少し膨らんだ丸みは、ごく初期の妊婦のようにも見える。しかしそれには理由があった。
「ここに、バッテリーなんかが入ってるんだけどね」
「ああ、そうなんだ」
改めて、知美のおなかを見る。義体化する前から少し幼児体型気味なので、あまり違和感はなかった。もっとも、140kgの体では、以前のような巧みな体位は取れまい。
「ここのバッテリーが大きすぎて、大きい物が入らないんだって」
「なるほど」
昭一の手は、話しながらも知美の秘部や下腹部をなでさすっている。それが気持ちいいのか、知美は目を細めながら話を続けた。
「でも、昭くんのは大丈夫にしてもらったから、ぎりぎり大丈夫のはずだよ」
「わかった、いくよ」
「きて」
昭一は知美の両足の間に体を埋めた。胸に手を置き、下腹部をすりあわせながら、少し強めに胸を揉む。
感じてきたのか、知美の両腕は昭一の体をぎゅっと引き寄せて離さない。
「んんん、んー」
知美の方から腰を突き上げていく。昭一は自分の物の先端をお目当てのところへ当てて、力を込める。
久しぶりの行為による興奮は、昭一の物を通常興奮サイズの1.2倍(当社比)にまで大きくしていた。それが裏目に出たのか、知美の物の外枠に引っかかっているようで、やりづらいことおびただしい。
「うふう、ふう」
なんとか、先端をうまく納めて知美の肩を抱きしめる。ゆっくりと腰を動かし始めると徐々に秘肉の戒めが抜け、奥へと納まっていく。
「あうう、ひゃ、ああん」
知美は自分から腰をを動かして昭一の物を飲み込んでいる。腰の動きと同じ周期で、知美の胎内が昭一の物を握りしめるように締め上げる。
「おおっ、こりゃクるなあ」
「きてえ」
二人の周期はだんだんと早くなる。
(まだかな)
少し強めの締め付けは予断を許さない。いつ、いかされてもおかしくない状況である。知美のいき具合を見ながら、激しくなる行為に何とか抵抗する。
「はっ、はっ、はっ、ふえーん、えええーん」
知美の甘い鳴き声が聞こえたとき、昭一は激しい動きの中で、乳首をぎゅっと握りしめた。その瞬間。
「あ、あーっ」
知美の終焉の声とともに、予想外の力で、ぎゅうううっっと昭一の物が締め上げられる。それに抵抗など出来る物ではなかった。昭一は知美の秘肉の奥に、たっぷりと放出した。
「はふう」
「はあ、はあ」
終わった後の興奮が冷めていくとき、二人は、つながったまま互いの体をもてあそんだ。
脇腹をこしょこしょとまさぐると、知美は体をねじらせて逃げる。改造手術以前はそんな反応はしなかったはずだ。
「あ、感じるんだ」
「くすくす、やあだ、やめて」
体をねじらせるうちに、つながったままの昭一の物が引っ張られる。そろそろしびれてきたような感じがして、知美のあそこをクニクニと広げた。
「そろそろ、はずそうか」
「え?」
「あそこ」
「え?」
笑い顔が凍り付いたように、知美が首をかしげた。昭一が引っ張ってみるが、伸びるだけで、抜ける気配はない。
「さっきからとれないんだけど」
「え?」
笑顔が固まったまま、何か混乱している。
「ち、ちょっと待って」
知美は視線を空中にさまよわせる。なにか操作を行っているらしい。
「エラー出てないね」
「ここで初期化すればいいのかな」
「コマンド反応しないね」
ぶつぶつとつぶやきながら、何かやっている。しばらくして、知美は真剣な顔で昭一に伝える。
「ええっと、非常に言いにくいのですが」
「なんだよ」
「いっていい?」
「想像はつくけどね」
「うふん、じゃ言うね、せーの」
「「人工性器が壊れた」」
「ぴんぽーん、わーい」
「喜んでいる場合じゃなーい」
ぱちぱちと手を叩く知美に、青ざめる昭一君。そのあとは大騒ぎであった。まあ、急行してくれたのが、救急車じゃなくて、汀さんだったのが不幸中の幸いか。それとももっと不幸だったのか。少なくとも、情けないほどに縮こまった物を奮闘して、引っ張り出してくれた汀さんには感謝しなくてはなるまい。
大西知美、昭一とは中学生の時からのつきあいで、初体験は高校生の時。だが、初体験を経験していくらも立たない時期に、交通事故により瀕死の重傷となった。運び込まれた病院が全身義体に詳しい医師が常駐していたことと、義体化に必要ないくらかの条件を満たしたことにより、全身義体者の手術を行うことが出来たのである。まだ、全身義体化の手術は一般的な物ではなく、特殊な人材や金持ちに限られていたものから、一般人への適用が徐々に広がっていたところであった。
人工性器については、初期開発段階で、何度かの協力を行っており、人工性器に加えて、性感帯の追加の手術を受けていた。ただ、その試験過程において、非常にディープな性感開発も行われており、通常の性行為で感じることが出来るかという問題点が会ったことは、昭一君には内緒である。
大西知美は現在、音響研究室に籍を置く大学院生である。また、彼氏、野村昭一は清水電子のパワーエレクトロニクス課でもっぱら研修を受けている新入社員をやっていた。
ある日...
事が済み、全裸のまま、知美と昭一が互いの体をつつきあっているところである。
「あ、そうだ」
「どうしたの」
「もう残りが少ないから、充電しなきゃ」
部屋の隅にあるアタッシュケース大の機器から、太い電線を引っ張り出してくる。普段は見えないように隠してあるカモフラージュシールを剥がし、脇腹の充電コネクタを開ける。
昭一はそのコネクタをのぞき込んだ。
「みせて」
「ええっ、なにかある?」
「一応、パワエレの勉強中なの。勉強のために見せてくれない」
「つなぐだけだよ」
「いい」
専門知識があれば、コネクタの形状や大きさからもいくらかの情報が拾える。開けたコネクタのカバーに電圧や電流、ピン配置が記載されており、それを読めば間違った接続をしないようになっている。
「うわ、定格48V30Aだって」
「ふーん」
「電池容量が15kWhだから、10時間ちょいだな」
知美が充電を始めると、部屋の隅の充電器が振動する。小型のACアダプタの類と違い、容量は100倍程度ある。大電力を変換するために、アタッシュケースサイズの充電器はうなり声を上げていた。
「そんなに、長くないよ、5時間くらいだよ」
「ああ、それは使い切ってないからだと思う。半分くらいで充電するようになっているんじゃないの」
「かもねー、電池切れまで待ってたら死んじゃうからね」
昭一がばふっ、と知美のおなかに頭を乗せた。ぺろんとおへそを嘗めようとして、その頬に熱気を感じる。
「あ、熱くなってる」
「充電中は熱くなるよ」
そういえば、知美の吐息も心持ち熱い。おなかや背中から放熱しきれない熱が冷却機構を通して、吐息となって放熱されている。
「そういえば...」
知美が切り出した。おなかの上の昭一の頭をぎゅっと押さえる。
「んー、ぱふっ、もが、密着したら熱いっ!」
知美のおなかの上を暴れ回って、知美の戒めから逃れた昭一は、頭を上げた。
「どしたの」
「うん、また、改良試験お願いされちゃったんだ、また行ってくるよ」
「いつ」
「来週」
「また、性感?」
「ちがうよ」
知美は昭一頭をおなかの上にのせたまま、昭一の頭をくりくりともてあそんだ。
「今度は電池の開発だって」
「ほーっ、て痛い痛い!」
両手で知美の手を押さえて、昭一は知美の顔を見た。
「そうか、なんか手伝えるといいんだけど」
「大丈夫だよ。今度は楽なテストだから」
「しかし、電池か、興味あるな」
「今までは、松元エナジー製だったんだけど、大日本電気東北メタル製の新型を導入するかも知れないんだって」
「え、?」
昭一が凍り付いた。その態度を見て知美が首をかしげる。
「なんか変なこと言ったかな?」
昭一は少し考えて、知美を諭す。
「あのなあ、」
「うん」
「今の一言」
「うん」
「たぶん、イソジマの最高機密だよ」
「え、!」
昭一は体を起こして、知美に向き直る。
「今清水電子で、パワエレやっているの知ってるだろ」
「うん」
「東北メタルが新型電池開発中なのは業界の常識なんだが、なかなか出てこなくてな。
いま東北メタルが作っているバッテリーは松元とくらべてほとんど差がない。
それで、イソジマでは東北メタルを導入しようとしている。さあ、それから何が導き出せるか」
「東北メタルが新型バッテリーの開発に成功した?」
「ぴんぽーん、ということで、この機密を漏らした君はイソジマからおしかりを受けると言うことだ」
「えええーっ」
「つーことでだな、」
「うん」
昭一はすっと立ち上がった。
「おれはこのビッグニュースを課長に知らせに行く」
ぱぱぱっと着替えて、飛び出そうとする昭一を、これまたとんでもない早さで充電ケーブルを外した知美がタックルする。
「逃がさなーい」
充電が途中とはいえ、全力でいけば常人一人を捕まえることなどたいした問題ではない。
拘束されたまま翌朝を迎えた昭一が、度重なる搾取の果てに、出社できたのかどうかは定かではない。ちなみに、新入社員は試用期間中であり、その間に無断欠席や遅刻があると重大な問題に発展するので注意されたし。