Dr.遠藤のピジョンセミナー



 13.ピジョンレーサーの病気とその対策    サルモレラ症
  
  アメリカの獣医で外科医のサルモンが、この病気の病原菌を発見した事によりサルモネラと呼称
 
  される。
 
  サルモネラ症は若鳩において非常に高い死亡率を示す。また高い率で脚部および翼部に関節の変化、
 
  下痢、さらに神経症をも起こし、これらの病原体は人間にも病気を引き起こす要因ともなる。
 
  サルモネラ症は十〜二十五パーセントの鳩が感染しているとされ、成鳩はこの病気単独では死に至る
 
  頻度は低い。
 
  しかし感染した鳩は保菌鳩となり、病原体を排泄しつづけ、他の鳩を感染の危険にさらす事になる。

 
 
  ・病 原 体・・・サルモネラ菌は棒状の自由に動くバクテリアである。
 
  グラム染色法により染色すると、グラム陰性である。自由に動くため鞭毛を有する。
 
 
  ・病気の移入経路・・・フン、ピジョン・ミルク、唾液の中に混じり感染した卵について排泄される。
 
             そして病原体は、次の経路で体内に侵入する。
 
  
@経口感染・・・・汚染されたエサまたは水、さらにヒナとクチバシを接触してエサを与える事に
 
           よって伝染する。
 
  
A空気感染・・・・病原体を含むホコリの中で感染する。
 
  
B卵巣内感染・・・感染している雌鳩は卵巣を通じて卵に病原体を転移させる。
 
     (注)・・・ここで卵の感染について述べておくが、卵が感染するのは輸卵管の中で感染した
 
           排泄物と接触して移入するし、産卵後の卵もサルモネラ菌で汚染されたホコリと
 
           エサによって感染する。
 
  また感染は体内の抵抗力が落ちている時であって、しかも多数の病原菌が侵入した時に限定されるが、
 
  感染鳩を購入した際にも感染が考えられ、迷い鳩あるいは野生の鳩、あるいは野鳥によっても感染する。
 
  レース途中、品評会などにおいてもホコリ、エサ、水および排泄物によって感染する。
 
 
  ・症 状・・・ 
@腸に発生するサルモネラ
 
  サルモネラ菌が腸壁から進入し、腸は激しい炎症を起こし、機能が減退する。
 
  下痢症状が続きフンは抹消化のエサが、粘液状の泡沫(あわ)状の悪臭のする液体に混っている。
 
  以前に緑色便について記したがフンの緑色変化は必ずしもサルモネラに罹患した場合と考えるのは
 
  早計である。 緑色便は胆汁の為であって、これは別の原因、例えばレースや不規則な給餌、
 
  ストレス等によっても起るからである。
 
  エサの摂取量を減ずる様な病気(トリコモナスなど)は腸内のエサを実質的に減少せしむる。
 
  その結果、胆汁は消化目的に消費される事なく排泄される。
 
  サルモネラ症によって緑色便を呈した場合は、消化管からの栄養吸収が不可能になり体内に蓄積
 
  した栄養を消費して生命をつなぐのみとなる。
 
  この体の蓄積物はたちどころに消化されグングンと体重を減じ、死に至る。

  
A関節に起きるサルモネラ症
 
  体の総ての関節が病気に冒されるが、ことに肘(翼)あるいは膝関節(脚)の様に、負担のかかる
 
  関節症状が多くである。
 
  関節ノウの中の分泌液の過剰な分泌によって関節ノウが腫れ、激しい痛みを伴い、鳩は目をつむり
 
  痛みに耐える表情をする。
 
  
B内部器官に発生するサルモネラ症
 
  もしもバクテリアが血液中に進入した場合、血流を介して、全器官に至り、そこで繁殖する。
 
  ことに肝、腎、膵、心臓の各臓器に黄色の節(せつ)を作る。この様になると鳩は活気を失い、
 
  呼吸が困難となって衰弱が進行して死に至る。
 
  
C神経を冒す病気
 
  サルモネラ菌によって脳および骨髄が冒されると、炎症が起り、神経繊維を圧迫し、平衡感覚を
 
  失って首がねじれたり、足がしびれたりする。
 
 
  ・病気の発見の注意・・・特に十分発育していないヒナ鳩が多く死亡する場合はサルモネラ症が多い。
 
  ことに翼および胸部のマヒと腫れ、下痢の症状の場合は、まずサルモネラ症を疑って検査をする
 
  必要がある。 しかし、コクシジウム症や毛様虫、回虫によっても下痢はおこるが、同じ下痢でも
 
  これらの下痢は単なる水溶便であるのに対し、サルモネラ症の場合の下痢は粘液性の泡立ったもの
 
  である事で区別がつく。
 
 
  ・治 療・・・ @重症の鳩

  オキシテトラサイクリン〇・五ミリリットルの注射を二十四時間おきに繰り返す。
 
  A注射と同時に
 
  フラゾリンドンプラスまたはクロールテトラサイクリンプラスを一〜二カプセル経口投与する。
 
  または二リットルの水にフラゾリドンプラス一袋(七・五グラム)か、一〜二リットルの水に
 
  クロールテトラサイクリン一袋を溶かして与える。

  B鳩舎の薬液消毒をする事
 
  (注)・・・特にクロールテトラサイクリンを治療に用いる場合は、砂やカルシウムのような
 
       鉱物飼料を与えない事である。
 
       理由は腸内でカルシウムを含む物質が効果を抑制するからである。
 
 
  ・予 防・・・ @サルモネラ症検査の実施
 
  Aもし感染が発見されたら徹底的な治療。
 
  B新たに導入した鳩については、鳩舎に入れる前にクロールテトラサイクリンを与えてから
 
   鳩舎にいれる慎重さ(六日間程度)を持つ事。
 
  Cレースシーズンの感染から守るためにビタミン剤の投与は有効である。
 
  D鳩舎で動きの変な鳩がいる場合はレースを休止するのが賢明である。
 
  E鳩舎を湿った状態にしないこと。湿った状態下ではサルモネラ菌は一年以上も生きつづける。

                                              
                       −68−