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13.ピジョンレーサーの病気とその対策 トリコモナス症 | |
口囲潰瘍といわれるように、口の周囲に黄色のチーズ塊のような付着物が現れる疾病である。 ある調査によると八十パーセントのレース鳩がトリコモナス症に感染しているとされる。 成鳩の場合は症状を呈さない保菌鳩も多く、若鳩の場合は重症となって死に至ることも多い。 ・病原体・・・トリコモナスは原生動物に分類され、微細な単一細胞からなる鞭毛虫である。 この原生動物は、液体中、例えばクチバシや喉の奥の組織の中で、螺旋状に鞭毛を動かして泳動する。 ・感染経路・・・病鳩の多くには小さな針頭大の病巣が見られ、そこにはトリコモナスの病原体が 集積している。 これは他の鳩、とりわけヒナ鳩には容易な感染源となる。 成鳩では病原体は健康を著しく阻害する様な重篤なダメージを加える事はないが、トリコモナス菌は ソノウ中のピジョン・ミルクに含まれてヒナに移される。 病気の多くは生後二〜五週間に発生し、病原体は口腔内の傷や、ヒナ鳩の開いた状態にある臍帯から 進入する。 ヒナ鳩は病気に対するいかなる抵抗力(抗体)も持っていないので、感染は極めて容易な事である。 またヒナ鳩は給餌法の不適、最初の換羽などでストレスを受けているので、感染しやすい状態に あると認識すべきである。 ・症状・・・感染後、約一週間後、目に見えて生気を失い、羽毛を逆立てて、下痢または消化不良を 起こし衰弱する。 過飲水になり、エサの摂取量が減じ、症状がボーっとしてくる。 @喉に発生するタイプ・・・チーズ状の付着物が口の中にみられ、これらは広範囲に広がる場合がある。 Aヘソ(臍帯)部分に発生するタイプ・・・まだ閉鎖されていない臍帯から感染したものは、 ヘソの 周囲に黄色の結節を形成する。 この場合は腹部の器官、とりわけ肝臓に拡大する危険性が高い。 B内臓に発生するタイプ・・・喉やヘソ、肛門においても、その病原体は内臓を犯す可能性が高い。 チーズ塊のような病巣が肝臓の深部に形成され、その組織がメクローゼ(壊死)を起こし生活力を 断ってしまう。 このタイプは難治性(治癒が難しい)でダメージが大きい。内蔵に発生した場合の症状は、元気がなく、 羽毛を逆立て、エサの食らいが落ち、過飲水となる。 粘液便をして衰弱が進行する。トリコモナスの 病原体が呼吸器系に羅患した場合は、首を伸ばし、首と体がペンギンのような形になって、喘ぎながら 呼吸する様になる。 ・病気の進行・・・病気は感染後、四〜十四日で発現する。鳩のコンディションは総ての病気に関連し 、 進行の速度に影響する。すなわち良好なコンディションの鳩には抵抗力があり発現までの日数が遅れる。 ふつう若鳩はトリコモナスが咽喉にかかるタイプに羅患し、急速に拡大して、気管がふさがれ、 短時間で死亡する。 内臓に発生したものは進行速度が遅く、普通の場合、ニ〜三週間病気に苦しんで死亡する。 成鳩にはしばしば、喉の奥に黄色がかった白色の斑点が見られる。 それらはトリコモナス病原体の集積したものであり、病気の症状を呈さなくとも常に病原体を鳩舎内に 拡散(汚染)している事になり、トリコモナス病原体が常在する鳩舎環境となる。 従って保菌鳩が鳩舎内に存在する限り(汚染鳩舎である限り)その鳩舎のすべての鳩とりわけ若鳩は ストレスと相乗して、症状発現が容易である。 ・検 査・・・エサを与える前に採取した唾液または喉の粘液をスライドに塗り、顕微鏡検査する。 しかし、総ての成鳩は病気でなくとも潜在的保菌鳩であるので、喉の変化を見る必要がある。 ・治 療・・・ @重傷の鳩に対しては・・・一リットルの水に五グラムまたは二十五ミリリットルの 水に一カプセルのガブロコールを溶かし与える。さらに激しく感染しているものに対してはスポイトで この水溶液を三〜五ミリリットル直接飲ませる。 A鳩舎内の全鳩について・・・各鳩に毎日、ガブロコール一カプセルまたは二リットルの水にガブロ コール一袋を溶かし、 六〜八日間与える。 Bフォロー・アップ・・・三〜五ミリリットルの水にマイコサンテ一袋を溶いて与える。(四週間に わたって週一日) ・予 防・・・予防措置は特に重要である。なぜならばトリコモナス症は最も重要な器官である肝臓に 、 永続的なダメージを与えるからである。 肝臓はすでに周知のごとく、生体の解毒作用に関係し、さらに胆汁を生成して消化促進をし、筋肉の 燃料であるグリコーゲンを貯蔵する場所であるからである。 このような重要な機能を有する器官に故障を有するレース鳩は、いかに優秀な飛び筋であり、いかに 優秀な頭脳、骨格その他を有していても、レースで活躍する事などは夢のまた夢である。 このような事から、ガブロコール一袋を水二リットルに溶いたものを六日間以上飲ませる予防措置を 産卵後またはレース・シーズン終了後に必ず実施する事である。 しかし、規則的に予防措置を実施する事で総てのトリコモナス病原体は死滅するが再度感染することは 容易である。 したがって規則的に予防し病原体の数を一時的にせよ鳩体から減じせしめ、鳩自身の防護メカニズムを ゆっくりと作ることが、若鳩の発病を避ける最良の方法である事を付記する。 −67− |
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