Dr.遠藤のピジョンセミナー



 10.秋レースに向けての放鳩トレーニング   放鳩訓練
  
 
  放鳩訓練には単羽訓練と集団訓練とがあるが、若鳩時の単羽訓練は至近距離(十キロ以内)であれば
 
  幾分かのメリットがあると考えるが、鳩は集団性を好む本能を有し訓練は放されたら帰巣するという
 
  鳩本来の本能の訓練である事から、集団の放鳩訓練で十分である。
 
  しかし、この集団放鳩訓練は帰還コースの地形を記憶せしむるが為に実施するのではなく、さらに帰巣
 
  感覚を磨くためのものでもない。
 
  放されたら帰る、放されたら帰るのいわゆる"芸"を鳩に教えるのである。
 
  その際に注意すべき事は、この芸を仕込むには効果的な方法を採らなければならないという事である。
 
  すなわち、若鳩時代においては配偶鳩もある訳ではなく、さらにほとんどの鳩舎では巣房も占有する
 
  ものがない。
 
  従って、鳩が帰る目的は生きるための飼料をとる場所が鳩舎であると認識させなければならない。
 
  そんな事から訓練に持っていく鳩群には訓練予定日の二、三日前からエサを減じ、前日より鳩を籠に
 
  つめて鳩舎から離れた所に移しておく。 若鳩は空腹と籠につめられたストレスから一刻も早く、
 
  鳩舎に舞い戻りたい意識にかられるであろう。 この意識を利用するのである。
 
 
  籠の中は鳩の接近によって温度も高く口渇もする。
 
  そんな鳩を放鳩地に着いたら十分に時間をおいて、帰りたい、餌を食いたい、安住の地で休息したい
 
  気持ちを一層募らせて放つのである。
 
 
  また集団放鳩訓練の初期に注意したい事は、帰還方向の異なる鳩舎の鳩を混入しない事があげられる。
 
  その理由は、帰還方向の異なる鳩を混入する事によって、直接的に帰還する事を教える放鳩訓練の
 
  大意を失ってしまう事になるからである。
 
  放たれたら直接的に鳩舎に向かって、到着地に降り立ってから入舎までの動作がスムーズに進む様に
 
  なるまで、集団放鳩訓練は続けなければなるまい。
 
  むろん帰還して入舎すれば、新鮮な水、エサが用意されてなければならない。
 
 
  @二、三日前からエサを減じる。
 
  A放鳩予定日の前日にカゴ詰めをして他所に置く。
 
  B放鳩地に着いたら十分に時間をとって放鳩する。
 
  C帰還した鳩舎には新鮮な水とエサを用意しておく。
 
 
 これを繰り返して鳩に鳩舎に速く帰還する法を教え込むのが若鳩の放鳩訓練であって成績のそれとは
 
  本質的に異なるものである。

  また放鳩訓練の距離の問題であるが、視界のきく平坦地であれば二十キロから五十キロと
 
  比較的大きく距離を伸ばしていって差し支えないが、山岳部にあっては、慎重に距離を伸ばして
 
  いかないと失踪の憂き目にあうので注意が肝要である。
 
 
  良く二十キロ程度の訓練の後、一気に百七十キロないし百八十キロを放鳩訓練する人があるが、
 
  これは若鳩の性能検定の為に実施するのが目的であって、放たれたら帰る、放たれたら帰るの反復
 
  訓練によって帰巣する本能を開発する目的とは目的を異にする。
 
  しかし、基礎放鳩訓練を十分に積んだ若鳩の鳩群であれば三十キロから五十キロ程度のジャンプ訓練に
 
  は十分に耐えうるだけのものはある。
 
  また、同じ百五十キロ程度を飛翔して帰還した鳩が個体差によって、ストレス、および肉体的疲労が
 
  どの程度のものかを識別するためにもジャンプ訓練は効果のあるものである。
 
 
  筋肉の質の劣悪なもの、上空での体のバランスの悪いもの、風の抑えの悪い非能率的な推進力を
 
  有する鳩、さらに体内に何らかの虚弱のあるものなど、疲労度の高いものはやはり長じて活躍する
 
  可能性の低い選手鳩にしかなり得ない様である。
 
 
  帰って来て体をふくらませている鳩は体力消耗の大きい鳩、目をつむって疲れた表情をしている鳩は
 
  ストレスによる精神的疲労の大きい鳩と考えて良いようである。
 
  どちらかといえば精神的に疲労の大きい鳩の方が比較的短距離レースで失踪する事の方が多い様でも
 
  ある。
 
  やはり精神力、意志力の大きい鳩の方が体力的優勢さに勝ると思えるのであるが・・・・・・。
 
 
  体力的にはほぼ完全で、目で見ていてもいわゆる良い鳩が、理由さえも不明のままに短距離で消え
 
  ゆくさまは、頭脳の乏しさ、精神力の乏しさが、外見で判断できないが為に起る現象だと理解すべき
 
  である。
 
 
  単羽訓練は、若鳩の訓練に適当でないと記したが、帰還コースを単独で帰るためにかかるストレスが
 
  精神的疲労を招き、鳩舎内の鳩群の体調の揃いが悪くなったりする結果、集団の訓練、舎外運動の
 
  飛びにも大きく影響をおよぼす事から若鳩には良くないと論じるのであって、成鳩および中間訓練等の
 
  体調の一時的下降を主目的とする訓練には有効なものであることを付記する。

                                            
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