Dr.遠藤のピジョンセミナー



  9.若鳩のトレーニングとそのセオリー   鉄は熱いうちにうて
   
  飛翔力の原点は筋肉にある事はいうまでもない。
 
  連続して長時間の飛翔に耐えるか否かは、意志力の作用も大きいが意志力は十分でも筋肉に乏しいと
 
  当然飛翔し続ける事は困難となる。
 
  そこで、この飛翔に最も重要な筋肉を付与するのが舎外運動であると定義しよう。
 
  この筋肉は当然全身運動であるから、すべての筋肉が重要なことはいうまでもないが、翼を上下する
 
  大胸筋、小胸筋、さらに運動を上下でサポートする腹筋、背筋が説くに重要となる。
 
  とりわけ大胸筋はエネルギーの蓄積の場所として、もっとも大きな量を有するだけに、その発育は
 
  極めて重要であろう。 さらに翼を上に引き上げる作用を有する小胸筋(いわゆる『ささみ』)は、
 
  大胸筋の量を見るのが難しいだけに、その発育には慎重な観察が必要である。
 
  腹筋と背筋は強化されると靭帯様になるので極めて強固なものとなる。
 
 
  これらの筋肉を発育せしむる為の舎外は必要不可欠である。
 
  いわゆる"鉄は熱いうちに打て"である。鍛える時期に鍛えないで切れのよい丈夫な鋼は作り得ない
 
  のである。
 
 
  前段はこの程度にして、現段階で筆者の考える舎外のトレーニングの具体的方法と考察に論を進める。
 
  まず、梅雨明け頃までに若鳩が鳩舎を完全に憶え、約1時間前後の舎外運動が任意できる様になった
 
  事を前提として話を進める。
 
  まず、前日夕方に餌をたっぷり食べさせて、猫害等の危険がない場合は夜に出舎口を開いておく。
 
  すると翌朝早くに鳩は自由意志で出舎して、自由に運動をする。
 
  飛翔したり、鳩舎に降り立ったり、他の鳥類におどろいて飛び立ったり、格好のインターバル・
 
  トレーニングとなる。
 
  筋肉を瞬発力のあるものにする為にはインターバル・トレーニングがベストである。
 
  そして、鳩舎内に若鳩を呼び込んで腹八分目に給餌して、約二十分後に再び舎外に出し、ビッシリと
 
  三十分〜四十分鳩舎に降ろさないで飛ばすのである。
 
  給餌後の舎外はソノウに飼料と水があるので鳩体にかかる負荷重量が増加するから、推進力の
 
  トレーニングには最適である。
 
  朝のインターバルの自由舎外と給餌後の強制舎外の併用で、筋力トレーニングは十分である。
 
  後はこのトレーニング法をそれだけ持続させるかが問題であるが、これは鳩のバイオリズムをうまく
 
  利用する事である。
 
  すなわち普通に管理していると鳩のバイオリズムは一週間を周期に上下するのが普通であるが、自由
 
  舎外を数日間続けると食欲が下降する。これは鳩舎の外にいる時間が長いため、種々のストレスに
 
  敏感になるあまり、野性的になって精神的に疲労するためである。
 
  この様に食欲が減じたら、舎外を定時舎外のみに切り換えるか、あるいは飼料の量を思い切って
 
  減ずるかの対策を講じなければならない。
 
  これをしないと鳩は舎外に出なくなるか、逆に飛び立って舎外失踪する等の状態を呈する。
 
  その為にも、調子の調整は舎外運動期間中は必要不可欠な問題である。
 
  逆に定時舎外を続けていると鳩は情性に流され、ただ、ダラダラと舎外するようになる。

  こうなったなら野生化を進めなければ俊敏さが回復しないので自由舎外に戻すなど、あくまでも
 
  ワンパターンの舎外をしないで変化を与えながら、食欲を落とさない様に細心の注意を払って舎外
 
  する事である。
 
 
  断っておくが、あくまでも舎外トレーニングの基本は自由舎外→給餌→強制舎外の方法で、一時的に
 
  自由舎外のみ、あるいは強制舎外のみになっても可能な限り早期に原則パターンに復帰させる事である。
 
  このトレーニングを約一ヶ月半続ければ秋の五百キロ程度までの飛翔は十分に耐えうる筋力を獲得する
 
  事ができる。 調子の下降を極力抑えることが成功の唯一の方策である。
 
 
  次に真昼の舎外の効果について述べよう。
 
  炎天下の昼の舎外は熱さが酷しく飛翔しにくいものだとの先入観があるが、これが全く逆なものである。
 
  真昼に舎外に出し、一週間程追うと高度を非常に高くとって、スピードを乗せて舎外するものである。
 
  最初は鳩舎に降り立った時、口呼吸をして苦しそうな感じがするが、これも二、三日すると平気な顔に
 
  なる。
 
  高度をとってスピードに乗ると涼しく、気持ちが良いのかとにかく飛ぶものである。
 
  この舎外を経験していると、口渇に対する順応性が開発され、体内での水の消費も経済的に行う方法を
 
  鳩体自体が会得するのか、以後レース鳩として活躍する素地ができるように思えるのだが・・・・・・
 
 
  さきに述べた苦しい条件下でも飛翔し続けるという強い意志力を獲得する上でも効果的な方法である。
 
  早朝の気持ちの良い時間に三時間飛ぶならば、日中の熱い時間に一時間耐えて飛ぶ舎外をした方が、
 
  レースでの成績も良いようである・・・・・。
 
  しかし日中の舎外は前に述べた過飲水に結びつき易く胃腸を悪くしやすいので整腸剤を飲水添加
 
  しながら実施する事が肝要である。
 
  岩塩を水で固めたものを容器に入れて自由に食べさせる事も重要である。
 
  岩塩は人口塩と異なり、ミネラルを十分に含むので、それらの補給にもなる良い方法である。
 
 
  またレースの間隔が一週に一回バイオリズムが一週間で上下する事から一週間に一回、日曜日などを
 
  利用して昼に三時間程度連続飛翔させる方法を採る鳩舎もある。
 
  勤務、仕事の都合で一週に一日程度しか休日をとれない鳩舎には良い方法だと思う。
 
  梅雨期間をすぎたら、舎外は天候に左右されず、できれば連日実施することである。
 
  こう述べるといかなる日でもと、拡大解釈する人もあろうが、鳩が飛翔するのに困難な暴風雨や、
 
  豪雨の日、あるいはガスのため視界が全くとれない日などは勇気を持って休止することである。
 
  舎外を実施するのも勇気だが、舎外を止めるのも勇気である事を知ってほしいものである。
 
  夕方の舎外は、若鳩の場合はあまり効果がないようだ。特に調子が上昇している時は、ちょっとした
 
  物音や、自然現象の変化に驚いて飛び立ち、降り立つことができないままに夜間飛行となって、貴重な
 
  若鳩を失ってしまう事も多いようである。
 
  筆者も二度ほど、夜間飛行で若鳩を大量に失踪させ、以後、夕方の舎外は実施していない。
 
  舎外トレーニング・パターンと、日中、あるいは一週一度の飛ばしこみを併用すれば十分である。

                                            
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