Dr.遠藤のピジョンセミナー



  5.疲労回復を科学する   飼料についての考え方
  
  疲労の回復に最も関係する重要な部分に、飼料についての考えがある。
 
  全米スポーツ栄養学会会長で医学博士のロバート・ハース<注A>は、その著書『食べて勝つ』に、
 
  きわめて興味深い記述を記している。
 
 
  <注A・・・テニス界のスーパー・スターのマルチナ・ナブラチロワ、ジョン・マッケンロウー、
 
        ジミーコナーズなどの栄養面での指導をした人物>
 
 
  ハース学説の要点は、スポーツで勝つ為には、蛋白質や脂肪の摂取量を減らして、複合炭水化物
 
  (いわゆるデンプン質)を多くとる事が肝心であるという所にある。
 
 『蛋白質も脂肪も炭水化物も、とりすぎれば全て、脂肪に変わる。
 
  また体を汚さない燃料は炭水化物だけである』と述べ、炭水化物は体内で燃焼して二酸化炭素になり、
 
  呼気の時に水と共に体外に放出される。
 
  
  脂肪とタンパク質は燃焼するときに、毒性の副産物を作り出す。
 
  従ってたんぱく質と脂肪タップリの飼料は体の動きが鈍化して、機能が低下する。
 
  この様に蛋白質が分解されると、アンモニアや尿素など、毒性の老廃物ができる。
 
  必要以上に蛋白質を取ると、こうした物質の毒性をなくしたり排泄させる為に、肝臓、腎臓に大きな
 
  負担がかかる。 またアンモニアや尿素が増加すると尿素が増え、尿とともにカリウムカルシウム、
 
  マグネシウムなどの不可欠なミネラルまで放出してしまう。
 
 
  カリウムは筋肉や血液の流れ神経をコントロールし、カルシウムは筋肉の骨を強くし、筋肉の働きを
 
  調整し、マグネシウムは筋肉の収縮と炭水化物のエネルギーへの転換をうながす。
 
  いずれも鳩にとって重要なものであって、蛋白質の過剰摂取によって失われる。
 
  ただ、この様に論ずると、すぐ極端に解釈する人がいるが、何も鳩の体に蛋白や脂肪が全く必要が
 
  無いというのではなく、ロバート・ハースもその著書の中に、蛋白質や脂肪の必要性は述べている。
 
  筆者が言いたいのは、従来の鳩レースのスポーツの概念で考える所の、いわゆる『良いエサ』の概念が、
 
  必然的に、蛋白質家志望の摂取量が多くなり過ぎると指摘したいのである。
 
  すなわち疲労しない為のエサ、スポーツ医学的に筋肉の運動量を持続できるエサ、かつ老廃物蓄積に
 
  よる疲労しにくいエサ、そして更に疲労を回復させる為のいわゆる疲労抜きのエサは従来の考えでは
 
  蛋白質、脂肪偏重のきらいが多い事を筆者は力説したいのである。
 
 
  疲労抜きにも、レースにも、炭水化物を主体としたエサで、従来より考える軽いエサが鳩の体に
 
  『良いエサ』だと確信する。
 
  また、高蛋白、高脂肪のものを多くとると、スポーツの最中に脱水症状が起こりやすいとも指摘される。
 
  それは、蛋白質を消化するのに、炭水化物を消化するより、ずっと多くの水を必要とする為、
 
  筋肉をはじめ体中の水分が使われるからだと説明されている事をつけ加える。

  
  炭水化物主体のエサを与えている時と、蛋白質主体のエサを与えている時とでは、飲水量に差が出る
 
  事を筆者は経験している事からも、これらの学説は肯定的に理解しないと成功から遠のくばかりだと
 
  確信する。
 
 
  疲労の抜き方をおぼえれば、あなたの愛鳩は全速力で鳩舎に帰る体力を与えられた事になる。
 
  放鳩訓練その他は、体調のバイオリズムの調整と、鳩にレース感覚を付与する為に行うものであると
 
  考える。

  
  成功した先達の訓練方法を参考にし、鳩体の機能のメカニズムを熱知すれば『百戦危うからず』である。
           
                      
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