拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
太い孟宗竹の節をそのまま使って菓子などの盛り器を作りました。和洋を問わず、干菓子でもキャンディでも入れて食卓に出せばよい座興になることでしょう。
先日、熱海のMOA美術館に入ったときに陶製の菓子の盛り器を見て、これを孟宗竹の節で作ろうと思いました。
たまたま一番太い竹で和菓子皿を作る計画をしていた素材があり、まだ切っていなかったので、菓子皿に使った素材の残りの節部を使うこととしました。しかし、ただ真っ直ぐに切ったのでは竹節の「皿」になってしまうので、美術館で見たように取っ手をつけて盛り器らしくしようと思います。取っ手を付けるのにも土瓶のように針金などに蔓を巻いた既製品では面白くありません。ここは黒竹の穂先を曲げて持ち手(弦)にしたいと考えました。
工作としては孟宗竹の方に刳り穴を開けて黒竹を立てることにしました。しかし、太い孟宗竹の素材はこれしかないので、盛り器と菓子皿をこれだけの素材から全部取るように考えました。つまり上半分は菓子皿、下端の節部分は盛り器にするので、安易に輪切りにして盛り器の耳を切り出すことは出来ません。
皿と耳の切り込み
そこでドリルで耳の上端の部分に突破口を付けたあと刳り鋸で切りました。
上下に切れ目があるから縦の切り込みは入れなくても「唐竹割り」というようにカッターの刃を叩き込めば簡単に上下に離れると思っていました。そこで薄いカッターの刃を縦方向の割りたい線に当て、ハンマーで叩きました。
しかし孟宗竹の肉は厚くて、すぐに薄いカッターの刃が竹に喰い込んで動かなくなりました。それを手を切りそうになりながら強引に引き抜いては、また叩き込んだので刃を何枚も折ってしまいました。
そこで竹の表面の皮の方だけにカッターで狭く溝を掘ってから、カッターの刃を叩き込んだところ漸く割れ目が出来ました。
4本の割れ目には真ん中程まで罅が入りましたが、竹の肉が綺麗に割れてはいないのでどうにも離れません。
幅広い耳
細長い耳
やっと外れた
僅かな隙間に楔を打ち込んで、やっと皿と盛り器に割ることが出来ました。△TOP△
浅すぎた底裏の高さ
研ぎ終わった水平でない底裏
節の下を切るとき節に近すぎたので、平面研ぎをすると節の裏側が削られてしまいます。
節の真ん中が削られては困るので周囲の削り足りない部分はビニール筒に巻いた砂研紙で抉るようにして研ぎ出しました。
黒竹を挿し込む耳の部分も相当研ぎ出さないと綺麗にならないでしょう。△TOP△
景色として丸穴を開けた
立ち上がりの耳に広狭長短を付けたのはよいのですが、相対する2本の耳が立っているだけでは面白くありません。
そこで幅が広い耳には円孔を開けて景色にしました。孔の内側は朱塗りにします。
菓子器には、土瓶のように、2本の細い黒竹を左右から立てて中央を糸で絡げた弦をつけることにします。弦の合わせは糸巻き漆塗りとするつもりですが、弦の中を潜らせなければならないので糸を締めるのが難しいでしょう。釣り竿用の太い飾り糸を2本使い、1巻き毎に結びながら巻けば良かろうかと考えています。
弦にするため曲げた黒竹
黒竹を蝋燭の火で炙って弓状に曲げるのですが、高さが違う台(耳)に合わせて、曲げ初めの位置も変えなければなりません。
高い方に乗せる黒竹は根に近くなるので強く曲げられませんが、無理して折れては元も子もないので、他日また曲げることにして不十分なままで終わりとしておきました。△TOP△
地塗り
底の地塗り
まだ工作が完了した訳ではありませんが、汚れが付かないようにという思いもあり、下地漆を塗ることにしました。
しかし色が濃くならぬように、木地呂漆を使って十分に拭き紙を使いました。△TOP△
柱の修正
素材を上下に切り離すときに、細長い方の耳は、カッターの刃が届かなかったので、真っ直ぐに割れないで、角がなくなってしまいました。
いっそ円い柱にしようかとも思いましたが、向き合う太い耳に対して円柱では弱いと思い、ウッドエポキシを塗り付けて角を出しました。
菓子を入れる節は拭き漆仕上げのつもりでしたが、セットにする菓子皿に麻布を着せたので、この盛り器にも布を被せることにしました。布着せは節が割れて抜けるのを防ぐにも効果があります。
節の布着せ
余った布を切り落とした盛り器
瀬〆漆を麻布と節の双方に塗って被せましたが、漆が厚いので硬化に時間が掛かります。
まだ濡れている表面が半乾きになったときを見計らって、余っている周囲の布を切り落とします。△TOP△
1本にした弦と盛り器本体
弦には2本の黒竹を使う予定でしたが1本で曲げ込むことにしました。ずっとスマートになります。
本体も水研ぎしてから、弦と共に梨子地漆で拭き漆をしました。よい姿になりそうです。△TOP△
中に敷いた麻布の縁に若干隙間があるので、砥の粉と僅かな地粉を入れた錆漆を作り隙間に充填しました。
少しだぶついている余分なところを小カッターで切り取って、錆漆がよく密着するようにしたので、底面がスムーズになりました。△TOP△
瀬〆漆で貼った麻布の上に朱漆(黄口)を塗りました。一晩経つと朱は正に赤土色になっています。このまま色が落ち着くのを待っても、梨子地漆の周囲と余り目立った対照にはならないと思いました。そこでこの朱の上に更に金泥を塗って研ぎ出し、麻布の織り目を活かした金と朱の格子にしてみようと考え付きました。
金泥は流石に金色が綺麗に出たのでこのままで仕上げたい程でしたが、予定通り研ぎ出してみましょう。底にしている節が大層凹凸があるので、うまく研ぎ出せるかどうか懸念されるところですが、万一まずかった場合は再度金泥を掛けるまでです。△TOP△
砂研紙で研ぎ出してみると、朱漆の膜が薄いので朱色が出なくて直ぐに下地の黒漆が出てしまいました。よく云えば時代が付いたようですが、一見汚れたようでちょっと見苦しい感じです。
いっそ金泥だけにしようかとも考えましたが、朱漆を塗り直し、初心通り朱色の研ぎ出しをやってみようと決めました。△TOP△
塗り直した朱漆
木粉と朱漆(黄口)を五分五分に取り木地呂漆で練りました。今回は擂粉木で練ってみましたが、具合よく出来ました。昨日は朱粉が多すぎたので今日は木地呂漆を十分に使いました。
色漆を使うときは、後始末の筆洗いにテレピン油を何回使ってもなかなか筆が綺麗になりません。△TOP△
弦合わせ
組み色調整
朱塗りの合間をみて菓子器の弦を仮付けしてみました。うまく穴が空き手直し無しで弦が付きました。
グッと見栄えがよくなりました。
ここで菓子皿との色具合を較べてみました。△TOP△
始めて粉筒を使った金蒔き
朱漆を3回掛けたあとで、金粉(ダイヤピース)を少量混ぜた金泥を木地呂漆で溶きました。木地呂漆を塗った後、初めて粉筒を使って金泥を蒔いてみました。矢張り万遍なく均一に蒔くことは難しいですが、高さを維持すれば筆で蒔くよりもずっと巧く蒔くことが出来ました。
しかし蒔いている内に次第に手が低くなり、特に蒔く範囲を限定しようとするとどうしても漆面に近づいてしまってドサッと金泥が落ちてしまいます。
また硬化後、留め漆を塗る時にどの位表面に金泥が残るか気掛かりです。△TOP△
朱の研ぎ出し
金泥が硬化したので、サンドペーパー(#120)で荒研ぎして下地の朱色を出しました。
菓子皿との関係で、朱の発色面積を揃えるようにしましたが、円と直線なので形や程度が難しいです。△TOP△