菓子皿の完成
変成竹の素材
拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
2005年に採取しておいた変形した孟宗竹がありました。変成して桿が稍平らになっている部分を使って和菓子用の菓子皿を作ろうと思い立ちました。最初は皿だけ作るつもりでしたが、皿とセットで菓子器も作った方が面白いと欲張りました。しかし素材の制限から、同じ1節から皿と菓子器を一緒に取る必要があります。それで材料取りがとても難しくなってしまいました。
2007年2月初め頃、一昨年伐採した孟宗変成竹の上部が大きくて稍3角形なので、これを節無しに切って二つ割りとし、2枚組の和菓子の取り皿を作ろうという構想が浮かんだ。
今日になって漸く鋸を使った。但し単に菓子皿を切り出したのではなく、その下の節で和菓子器を作ることにしたので、和菓子器の取っ手を付ける耳を同時に切り出す必要があった。
入れ子にして材の効率を良くするために、ドリルで取っ手の耳の部分に切り取り口をつけたあと鋸で切った。
上下に切れ目があるからカッターの刃を叩き込めば縦には容易に離れると思ったが、刃が竹に喰い込んで進まず何回も折ってしまった。
そこで竹の皮の方からカッターで細く切り込んで少しずつ溝を掘った。それからカッターの刃を叩き込んだところ漸く割れ目が出来た。
4本の割れ目で中まで罅を入れたが、竹の肉が綺麗に割れてはいないので離れない。僅かな隙間に楔を打ち込んでやっと皿と盛り器に割ることが出来た。
切り込み
やっと外れた
皿部の引き抜き
やっと2枚の皿の素材になる部分と菓子器になる部分を外すことが出来た。
皿になる部分が外れた
二つに割った
外れた竹筒を、2枚の皿にするために二つに割った。△TOP△
刃物が効かない枯れた孟宗竹の肉質
孟宗竹の内側の肉質はなかなか固い上に、縦に刃が通らないで途中で裂けてしまう。カッターの刃で簡単に割れると思っていたが大違いだった。
結局鑿まで持ち出して菓子を盛る平滑部を削ってみたが、凹凸が激しくてこれでは磨き込むのが大変だろう。
周囲の鋸面は出来る限り水研ぎをしたが、これはいつも経験している作業だった△TOP△
丸く残ってしまった中央部
角は平らになった
菓子を盛る平面を板貼りのサンドペーパーで研いだが、両側だけ深く削れて中央部が丸く浮いてしまった。
これでは綺麗に見えないので板貼りサンドペーパーを固定して、その上を竹を動かして研ぐことにした。
これには新しく適当なジグを作って対処しなければなるまい。△TOP△
細長い平板を作りサンドペーパーを縦4切で貼り付け、皿の盛りつけ部を平らにするように研いだ。しかしジグの上に皿が食いついてしまってうまく研げない。
このジグではサンドペーパーの幅一杯しか研げないので、水にふやけたジグの台木と竹が食いつくためだから、もう少し研ぎ出しする幅を拡げればうまく研げるだろう。△TOP△
皿の底を平らにする
皿部の奥側を丸鋸で切り込み幅を拡げた。しかし鋸をうまく使えなくて切り口が汚くなってしまった。ジグに貼ったサンドペーパーでうまく研げればよいのだが、今度は角になった部分の竹の肉が薄くなって菓子皿が割れてしまう心配が出て来た。
皿の裏側を平らにする
皿の裏側になる丸い皮竹を鑿を叩いて割った。左右の不揃いはよいとしても粗面は今後の研ぎ出しに俟たねばならない。△TOP△
半割り
皿としては、竹の立ち上がりが大きすぎて鬱陶しい。
そこで安定感を持たせるためにも立ち上がりを半分にすることとした。
鑿を当て金槌で叩いて割った。
大体真っ直ぐに割れたので、この粗面のままで呂色漆を塗ってみようと思う。△TOP△
着せた布の裁断
麻布の表面が半乾きの状態でミニカッターで凹んでいる長辺の余り布を切り落とした。短辺は切り落とすべき台がないので後日完全に乾いてから処理法を考えることにする。
この麻布は朱を塗って仕上げるつもりでいる。
立ち上がりが軽くなったので置いた時に平らになると好都合だったが、依然倒れるので矢張り腰に竹を当てなければならないようだ。△TOP△
梨子地漆で拭き漆する
全面水研ぎのあと梨子地漆の拭き漆をした。
竹の立ち上がりを半分にしたがまだ傾いてしまう。この対策としてはローリング防止の竹を裏に貼るのが一番よさそうだ。△TOP△
ローリング防止の竹を付ける
裏に寒竹を貼って平にするより他の方法が思い浮かばない。
やってみると案の定、貼る位置が決まらず苦労した。
小さい方の皿は1回でうまくいったが、大きい方は初めの位置が近すぎたので、菓子皿本体の方の溝グリを大きく拡げてしまった。
寒竹に串を立て菓子皿にほぞ穴を開けた。大きい皿は穴位置がずれたので、穴を拡げて修正した。
寒竹の張り出しをそのままにしておくかウッドエポキシで埋めて平底にするか考慮中である。△TOP△
中に敷いた麻布の縁に若干隙間があるので、砥の粉と僅かな地粉を入れた錆漆を作り隙間に充填した。それでも地粉は粒子が粗すぎるようだ。大きな充填の時にしか使えないものらしい。
小カッターで余分なところを切り取るようにしたので大分スムーズになった。△TOP△
ローリング防止の竹を貼り付ける
ローリング防止の竹を貼り付ける
よい考えが浮かばないので矢張り寒竹をウッドエポキシで貼り付けた。
固めてみると結構よく安定したので成功したこととする。△TOP△
繋ぎ合わせ
菓子皿のアオリが大き過ぎたので、切り取った部分2枚を繋ぎ合わせて1枚の皿にすることにした。
他の2枚と同じように内側に麻布を貼り、外側はそのままで削り込み平面にする。
底が平らなので寒竹の支え棒は不要だ。△TOP△
黄口朱漆塗り
朱漆の木口
瀬〆漆で貼った麻布の上に掛ける朱を、黄口にするか赤口にするか迷った末、黄口を塗った。
一晩経つと朱は正に赤土色になっている。
このまま色が落ち着くのを待っても梨子地漆の周囲と余り目立った対照は出ないと思う。
そこでこの朱の上に更に金泥を蒔いて研ぎ出し、金と朱の格子にしてみようと考えた。△TOP△
金泥蒔き
金泥地
午前中に金泥を蒔いたところ、夕方にはもう指に着かないくらいに硬化していた。 金色が綺麗に出たのでこのままで仕上げたい程だ。
しかし予定通り研ぎ出してみよう。△TOP△
金泥研ぎ出し
サンドペーパーで研ぎ出してみると、朱漆の膜が薄いので朱色が出なくて直ぐ下地の黒が出てしまう。
よく云えば時代が付いたようでもあるが、一見汚れたようで見苦しい。
いっそ金泥だけにしようかとも考えたが、初心通り朱色の研ぎ出しをやってみようと決めた。△TOP△
朱漆を3回掛けたので地塗りとしては十分だろう。
金粉塗り
今度はプラ金粉(ダイヤピース)を少量混ぜた金泥を木地呂漆で溶いた金漆を作って塗り、その上に初めて粉筒を使って金泥を蒔いた。
矢張り万遍なく均一に蒔くことは難しいが、高さを維持すれば筆で蒔くよりもずっと巧く出来る。確かに古来の道具は素晴らしいものだ。
しかし蒔いているうちに次第に手が低くなり、特に蒔く範囲を限定しようとするとどうしても漆面に近づいてしまってドサッと金泥が落ちてしまう。△TOP△
金泥が硬化したので、下地の朱を出すようにサンドペーパー#120で軽く研ぎ出した。△TOP△
仕上げ塗り
暫く放置して朱の色合いを見ていたが、もうこれ以上にはよくなるまいと思い、久し振りに内側に梨子地漆を掛けた。
艶がよく出ているので、続けて裏側に黒漆(呂色漆)を掛けよう。△TOP△
裏面に梨子地漆で拭き漆をし黒漆も掛けておいたが、すっかり硬化したので全面を砥の粉と呂色磨粉で磨いた。
内側の皿面も同様に磨いたところ、それなりに艶が出て見栄えがよくなった。
落款「翠」
裏側の平らな面に翠簾洞の「翠」の落款を入れた。これが落款を入れた最初の作品となった。△TOP△
満足出来る状態になったので、本日をもって完成とする。△TOP△