2007.1.制作着手 2007.6.13.完成
拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
太い孟宗竹の根元にある髭根を活かして5段節で作った大振りの花器です。正月の床飾りとか、講演の際の演壇を飾る花活けなどには好適でしょう。何しろ重たくて片手で持ちきれず、漆を塗るのに苦労しました。
採取時の素材
所要の長さに切った
2005年2月 町田市小野路の竹林で採取した孟宗竹の根株が十分に乾いたので、これで花器を作ることにしました。大きな髭根が見事です。
採取した竹は長いので節の位置をみて五節のところで切りました。△TOP△
しかしこんなに節が多い髭根の始末は大変な作業です。初めは鋸を入れてみましたが、浅いと刃が掛からず深いと食い込むので、とても仕事になりません。
次にサンドペーパー#80で研いだのですが、まるで受付けません。
木工鑢で削る
ふと思い付いて、刃の粗い木工鑢で試したところ、力は要りますがかなりうまく削れました。
みるみる削り屑が山のように溜まるので、面白いようです。
荒削りした木工鑢の跡
途中から水を掛けて木工鑢の水研ぎをしたら俄然よく削れてきました。
木工鑢の刃は水を含んだ木粉で完全に埋まってしまいますが、埋まっても切れ味には変わりがなくどんどん捗ります。
削るべき髭根の部分は全部取れました。
髭根の跡
すじ状になっている木工鑢の跡をサンドペーパー#120で磨きました。
これで髭根の跡が三島文様のようになって、綺麗に研ぎ出すことができました。△TOP△
大きな底のひび割れ
ウッドエポキシを詰める
竹林で採取した時から傷があったのですが、乾燥するにつれて更に大きなひび割れになりました。
今にも取れそうにブヨブヨしています。
割れないように固定するため、ウッドエポキシを十分に詰め込み、擦り込んでおきました。△TOP△
底を水研ぎしましたが、最初に切り出した時の鋸が斜めだったので、花瓶が傾いてしまいます。
斜めだった底を水平に切り戻し
鋸跡を水研ぎした
そこで、底を水平に切り戻し、改めて水研ぎして、花瓶の姿勢を真っ直ぐにしました。
底面の水研ぎ終了
また、最下部の欠けて見苦しい節板を、傷がない節板になるまで2枚抜きました。この辺は節板が密着しています。
底の節面が綺麗になったので、丁寧に水研ぎし底の工作を終わりにしました。△TOP△
素材が根株なので節が詰まっています。花器として使うには節を5枚抜かなければなりません。
深くなると電動ドリルでは届かないので、工具として特注した斜めに切って刃を付けた鉄パイプで、節の周囲をコツコツと叩き、1枚づつ丹念に節板を抜きました。1節抜くのに約30分ほどかかりました。
斜めに切って刃を付けた節抜き工具
抜いた5枚の節
節の周囲が棚状に残っている
節は綺麗に抜けましたが、節の周囲が棚状に残っています。
こんな棚が残っていては花活けの時に邪魔になるので、平滑な筒状にしておきたいものです。
しかし、竹筒の内側は手が入らないのでとても磨くことは出来ません。
結局、木工鑢で荒削りをして、そのあとを、適当な太さで底まで届く竹棒にサンドペーパーを巻き付けたジグを作り、根気よく磨いていきました。△TOP△
この花器は大振りなので活けられる花材もかなり大きくなると想像されます。
底に入れた3個の錘
竹に因んだ花器として、正月飾りに松や梅などの花木を活けた際にも倒れないように、底に釣り用の錘を入れました。
錘の上に樹脂をかぶせる
錘の上にウッドエポキシを少しずつ塗り付けては1昼夜置いて硬化するのを待ち、数日かけて気長に埋め込みました。
樹脂に節板で蓋をした
大体底が平になったところで、先日抜いた節板でウッドエポキシの上に蓋をすると、本当の節のようになりました。△TOP△
下塗りに掛かる前にサンドペーパーでゴツゴツしている節を磨いて滑らかにしました。更に漆との馴染みを良くするために、竹全体の表皮を軽く剥がす程度に研ぎ出しました。
表面の下塗り
竹の肌が漆に馴染むようになったので、生漆で下塗りを掛けました。
髭根の跡が三島模様のように見える
竹の肌には地塗りだけでも艶が出ましたが、髭根の部分は漆が竹に染み込んでしまって艶が出ていません。
しかし、髭根の跡が三島文様を描いたように見えています。
ひび割れていた部分もしっかりと付いて固まっています。
拭き漆で節影の濃淡をつける
各節の下側には、梨子地漆を何回も塗り重ねる拭き漆の手法で、節影を付けていきます。△TOP△
4月6日から開催される町田市主催の尾根緑道桜祭りに参考出品するため、急遽仮仕上げをすることになりました。
仮仕上げが出来た
内側には黒漆を塗った
内側は梨子地漆で中塗りをしてから、仕上げには黒漆(呂色漆)を使いました。
外側には節影を強調しながら、梨子地漆を繰り返し塗りました。
まだ節影にムラが残っていますが、これで出展用の仮仕上げは終了としておきました。△TOP△
中塗りを再開
桜祭りが終わり、梨子地漆で中塗りを再開しました。
節影を強調するために、拭き漆を更に数回繰り返しました。
塗りムラが目立つ
しかし、節影を濃くしようとして漆を厚く塗ったため、ムラが目立つようになってしまいました。
外側全体の研ぎ直し
ムラを消そうとして更に漆を掛ければ真っ黒くなり、竹の素地が生きないので、サンドペーパーで表面の漆を削り取って磨き直しました。△TOP△
今度は少量ずつの漆を筆で薄く伸ばし、拭き紙を丹念に使って、塗った漆の厚さではなく、漆の拭き取り具合で節影を出すようにしました。
仕上がり
約 15φ×35h cm
色ムラも大体収まったので、全体に梨子地漆を均一に塗り、2週間ほど硬化させてから、研ぎ粉で磨いて艶を出しました。
落款[翠]を入れた
全体によい艶が出たし、大振りで風格が感じられる出来栄えなので、底の裏に落款「翠」を朱漆で入れて、完成としました。△TOP△
2007.10.15.作成 2009.10.18.改訂 2010.10.20.再訂