拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
油を絞る椿の種子はご存知でしょうが、その殻もご覧になったことがありますか。我が家の庭に薮椿が1本あって、毎年実を付けています。その実の殻には3枚の羽根がついていてプロペラのようです。その形が面白のでブローチを作ることにしました。この羽根はとても脆いので作っているうちに半分以上も壊れてしまします。そこを工夫して強くし、ブローチとして使えるまでにしました。
椿の実の殻と種子
庭の椿の実のはぜた殻が面白い形なので試しに余った漆をかけてみたところ、大変綺麗に仕上がったので、ブローチにしてみたくなった。
探していたブローチのピンを東急ハンズで見つけたので早速仕入れて、万能ボンドで接着した。
存外と針がしっかりと付いて、羽根が折れるのを防ぐ効果もあるようだ。
或るボランティア講習会で同席した受講生に、季節柄丁度よいと思いプレゼントしたところ大変好評だった。
尋ねられて素材が何か明かしたが、みんな椿の実の殻を知たなかった。
中央の5箇が完成品 四隅の4箇は未着手の殻
完成した5個は、身内に2個、3個とプレゼントした。
予想通り、とても興味を示して喜んでくれた。
椿の殻は、羽根のような一片ひとひらがとても脆くて、ちょっと力が掛かると真ん中から粘土細工が崩れるように外れてしまう。毎年のように庭から取れる殻を加工しているが、ピンを付ける位置をナイフで削る時に半分くらい壊してしまう。
工程では、まず下塗りと中塗りをするが、漆を塗るとかなり強度が増す。更に裏側にピンを固着させる万能ボンドが硬化すると、図らずも中心部がボンドで強化されるという好結果になる。それから最終工程で稜線の加飾や全体の仕上げ塗りをするのだが、ピンを付けてからはほとんど壊れることはない。
今年もPCサークル忘年会景品用に作成することにした。
庭の椿の実の殻と一昨年友人が取ってきてくれた殻とを併せて16個を仕掛かった。
他にも10個ほど有るが殻が反っていてピンを付け難いので使用を見送った。
表側の中塗り(硬化済み)
裏側(ピン接着側)の下塗り硬化中
瀬〆漆を1回塗っただけでとても良い艶が出ている。
中央の芯や襞(ひだ)を取った跡は艶がないので、朱や金の色を付けてみようと計画している。
昨日7個にピンを付けたが、内4個は羽根が割れてしまって出来たのは3個だけになった。
他の9個には漆が廻っていない部分があり、
細筆で補修したので工程が遅れた。
20日に表側の稜線になっているところに朱を入れた。
木地呂漆に沢山の朱粉を混合して練り、稜線に添って細筆で描いた。
1晩過ぎたのに漆は全く乾かず指にくっきりと付く。湿度が足りないかと考え水を絞った雑巾の上にブローチを並べて蓋を被せておいた。
3日目の夕方になっても乾いたとは云えない有様だ。漆が少なくて硬化しないのだろうか。
どうも硬化しないので梨子地漆を薄く掛けたところすぐに硬化した。
しかし朱の上に梨子地漆がかぶったので、矢張り朱色の鮮明さは消えてしまった。
日頃お世話になっている知人友人に、折りを見て2箇、3箇と進呈した。かさばらずちょっと綺麗なので、素材を説明し自作したと話すと、みなさん興味を持って受け取って下さった。
ブローチに丁度よい大きめの殻があったが、裏が深く反り返っていて、とてもピンを貼り付けられない。そこでこの殻の凹みをウッドエポキシで埋めてみた。こうしてウッドエポキシで平滑になった上には、うまくピンを貼り付けることが出来た。
この成功で、残っていた殻の凹みもウッドエポキシで埋めた。全部で8個出来た。
ピンの取り付け部を平らに削った
ウッドエポキシ乾燥中
しかし、ウッドエポキシの乾燥後、ピンの取り付け部を削り出している間に4個は羽根が折れてしまって、残ったのは4個だけになった。
表面には梨地漆を塗り、稜線だけはたまたま他で使っていた朱漆を塗った。
昨夜ピンを貼り付けた万能ボンドが乾いたので、表面と側面に梨子地漆を掛けた。
細く塗った朱漆が殆ど目立たないが、まあ気にせずにこれで完成としよう。
今回塗った漆が濃過ぎて真っ黒になってしまった。漆を洗い落とすことは出来ないので、朱漆で高くなっている筋(稜線部)に朱を入れた。
以前に出来ていた6個も朱が殆ど見えないので再度朱を入れた。
朱漆は翌日一杯でしっかり乾燥した。
結局出来たのは10個になった。
1個だけ知人に渡し、残9個は恒例のPCサークル忘年会の景品に提供した。
2013.09.05.作成