拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
茶道具の「うずくまる(蹲)」という型の花活けが好きなのですが、これを竹で作りたいものだと長い間考えていました。ある朝、ふと思いついて、根元から曲がっていて節がつまっている竹を使えば、似たようなものが出来るのではないかと考えました。手許にちょうどよさそうな竹があったので、とにかく手を動かしてみました。
かねてより蹲(うずくまる)型花器を竹で作ってみたと思っていたが、今朝、ふとその構想が浮かんだ。
孟宗の根の節間隔がつまっていて曲がったものを探し、蹲る型に高さと太さの比が小さいものを作ればよいと考えた。
【蹲型花器の構想】
2005年2月 採取時
手許にある素材を探すと、丁度ピッタリの竹があった。
古くて大きい鋸疵
(髭根切り後)
裏側に大きな鋸疵があるので使い道が無く
残っていたのだ。
採取から9ヶ月後
この疵を如何に隠すかはまだ未解決だ。
ところがそのまま着手せずに日が経ってしまってしまい、後日、いつの間にかこの構想を忘れて、単純な花活け風にする制作に掛かってしまった。これはその一部始終=顛末記である。
2005年採取の孟宗竹で根元だけ残った株がある。これは胴の真ん中に古い鋸疵があり、それが丁度人間の「口」のように変形変色しているので、使用をためらっていたものだ。
しかし材料も残り少ないし、ちょっと高さが足りないが、裾まわりが太くどっしりしているので花器に作る気になった。
裾が広く背が低い様子が参禅する人の後ろ姿のようなので「座禅」と銘した。
外周の黒い汚れを丹念に拭くとなかなか良い姿になった。
節3枚を抜いた。1枚目はドリルで縁に連鎖状に穴を開けて切り落とした。2枚目と3枚目は刃を付けた鉄筒で刳り抜いた。
下にゆくほど節が大きくなるので3枚目は割ってしまったが、抜いた後はなかなかうまくできたので一層制作意欲が湧いてきた。
古い鋸疵は中までは達していなかったのでウッドエポキシを充填すれば綺麗に仕上がるだろう。
醜い鋸疵にウッドエポキシを充填しやや盛り高に盛り付け、硬化後にサンドペーパーで平滑にした。
最下層の節の髭根をサンドペーパー#120で水研ぎした。
全部の節の段を完全に研ぎ出して黒い線が残らないようにした。
鋸疵のウッドエポキシもすっかり研ぎ出したので表面は滑らかになった。
しかし、節を削るのにサンドペーパーを横(円周方向)に使ったので、漆を掛けると横傷が沢山出てくると思う。
上部をサンドペーパー#240で下部の2段を#120で水研ぎした。
下部は髭根を切った時の横傷が入っていたので#120でしっかり研ぎ出して傷を消した。
表皮の模様は意外に深いのか殆ど消えないが、流石に表面はとても滑らかになった。
下地塗りの生漆を掛けた。
多少多めに塗って数分放置後拭き紙で拭き取って硬化させた。
ムラ無く塗れたが、色は矢張り濃い。
鋸疵ははっきり分かるが表面に段差は全くないので、塗り重ねれば目立たなくなるかも知れない。
中塗りを重ねて行くうちに鋸疵は目立たなくなり、期待通りの出来栄えだった。
ところがここで、2005年の着想を忘れ、単純な花活けとして仕掛かってしまったことに気が付いた。そのため構想の3)と4)は工作していなかった。
節はとっくに抜いてしまって、今日は既に中塗りに掛かってあとだったので、やり直すわけにもいかない。
底の内側に釣り用のガン玉を錘として入れ、ウッドエポキシで固めた。
竹や鉛玉にウッドエポキシが馴染まなくて思うようには纏まらない。
取り敢えず錘を固定することを優先にウッドエポキシを塗り、何回にも分けて少こしづつ形にして行くほかない。
底面がほぼ平らになったので、最初に切り取っておいた節板を鉛玉の上にかぶせることにする。
節板と鉛玉を埋めた底との間にウッドエポキシを詰め込んで上から押し付けたが、ウッドエポキシは団子状に固まっていてうまく流れていかない。
そこでまず竹筒の内円周にウッドエポキシを押し込んでフライパン状に硬化させたあと、蓋にする節板にたっぷりとウッドエポキシをこすりつけておいて落とし込み、上からよく押し付けたら周囲からほぼ均一にウッドエポキシがはみ出て来たので、まずは気泡が残らないような接着に成功したと思う。
期待通りの底蓋が出来たので、内側に生漆で地塗りをした。底が深いので周壁は主に歯ブラシを使って塗り立てた。
生漆が乾いてみると漆のムラは塗り立ての時よりはずっと目立たなくなっている。
しかし、色が濃くて艶も良く出ているし、まるで黒漆を塗ったようだ。
木工用棒やすりとサンドペーパーとで内側、特に節の上側をよく磨いたあと、呂色漆(黒漆)を塗った。
さすがに呂色漆は良い艶が出たが、塗りムラも分からないので、この際もう1回呂色漆を塗って内側を終了としよう。
先日、外側に節影を付けるべく、生漆で1回塗っておいた。
昨日は瀬〆漆を全面に掛け、拭き紙で拭く時に節影を出す様に強弱を付けた。その結果段差が出来ずにうまく節影が出来た。
傷痕は矢張り強烈に目立つがこれも一つの景色と見る他あるまい。
今日偶々朱漆が沢山残ったので、内側に塗った。
当初内側は呂色漆を予定していたが、朱を塗ったので格が上がったようだ。
塗りムラもはっきり判って呂色漆の2度塗りよりも塗りやすかった。筆は細い平筆を使って多少厚めに塗った。
厚めに塗った部分にも縮緬皺は見られなかった。
蹲る型の特徴の吊り金具を忘れていた。これを付ければ単なる花活けではなくなりグッと品格が出る。
経験通り割ピンにリングを挿し矢竹の節で座金とした。
2.5ミリ径のドリルで穴を開け割ピンを通した。
うまく出来たのだが本体の肉が厚くて中まで貫通しない。やむなく万能ボンドで接着した。
内側にはドリルの跡が出ているので、本朱塗りは必然的になった。
この柱掛けピンを付けただけで、花活けに重厚な感じが出て来たようだ。
柱掛けの竹節の座金の周囲にはみ出した万能ボンドを削り取るのにリングを上下していたら座金の竹節にひびが入った。幸いボンドで付いているので割れなかった。
補強のため赤絹糸で4回廻し独楽結びにして、節の下に結び目を隠しておいた。雨降って地固まるの様相だ。
朱塗りの底には筆から抜けた毛が何本も目立っていて不愉快なので
スポンジやすりにサンドペーパー#240をかぶせて削ってしまった。
巧まずして津軽塗りのような模様になった。
内側の漆がムラになったので、一旦呂色漆を塗って下地とし、改めて朱漆(本朱)を塗った。
呂色漆を塗った時は大分筆跡の塗りムラが見えたが、朱漆では筆跡は見られない。
これで外側の仕上げ塗りを掛けて完成としよう。
梨子地漆を塗り、拭き紙で節影を作る作業を繰り返した。
最後に砥の粉・呂色磨き粉・角粉の三種で磨き込み、良い艶が出たので完成とする。
<2013.09.18.作成 / 2013.10.06.改訂>