拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
孟宗竹の根株を活かした小振りの花活けです。柱掛け用の環も付け、ちょっと蹲る型も模してみました。下部は髭根の跡が黒っぽくなっていて重厚な感じを出しています。口が大きい割に背丈が低いので、髭根の部分の節板を抜いて底を深くしました。根の方の節板は硬くて厚いので抜くのに苦労しました。出来上がってみると、全体のバランスがよく、漆の濃淡もくっきりしていて、愛らしい花器になりました。
水洗い後
髭根切り後
2004年冬、縁あって小野路の孟宗竹林に入り、欲しい竹を自分で切り出したことがあった。桿よりも節がつまった根株を目当てにして掘り上げた。
自宅に帰ってから、水洗いして本体に疵が付かないように慎重に髭根を切り落とし、火入れ・油抜きの後、家に上げた。
竹材は十分に涸らすために、風通しがよい日陰で1年から3年くらい保管しておく。
1年半ほど放置していたが、この根株を一輪挿しに仕上げることにした。
髭根の跡はよい見どころになるので、なるべく多く残し、すわりのよいところで薄くそぎ切りにした。
上端は花器としての釣り合いと節の位置で決めた。
蹲る型を意識し、やや前下がりに切って活け口が見えるようにした。
水研ぎして表皮を剥き、全面をなめらかにした
上下の切り口と側面の表皮をサンドペーパー#100で水研ぎをした。
竹の表皮には油脂分が残っているので、すっかり研ぎ落とさないと漆が馴染まない。
節抜きをした。
一番上から取れた節板を内底面の錘の蓋にするようにしまっておいた。
節抜きの仕上げに、内壁を木工やすりと半円精密やすりで磨いた。
とても巧くできたが、底の方に古いひび割れがあり表面まで通っていて水を入れると激しく洩れる。日に向けてみると明らかに穴が開いている。竹が若かったから乾燥の際に収縮したのかも知れない。
ちょっと難しそうだが、底に錘を入れる時に工夫をすれば塞げると思う。
ウッドエポキシで裂け目を埋めた。存外うまく押し込めることが出来て、上から詰めたのに底までウッドエポキシが行き渡った。
これで水漏れの心配は無くなった。
瀬〆漆で地塗りを1回掛けた。
今日深さを見ると底から4枚目の節で止まっている。鉛錘を入れることを思うと少し浅いようなので、更に1節を抜いた。
それから水を入れてみたが全然洩れなかった。
底に錘を入れようと思い手に取ってみたが、もう1節抜けるように思った。ジグを軽めに使って時間を掛けながら慎重に抜いた。
大よそ抜いた後、周囲に鋸歯状に残っている細かい部分を、柄の長い彫刻刀で押し込むようにして切り取った。
とても綺麗に出来たので、気をよくして木工やすりで内壁の周囲を丁寧に磨いた。
花を活けて柱に掛けても傾かないように、内底に錘としてガン玉0.5号約30個とナツメ0.5号約10個を落とし込み、ウッドエポキシでざっと練り固めた。
乾いてから更にウッドエポキシを平らに盛り、保存しておいた抜いた節で塞ぐ予定だ。
ガン玉の上を覆うように、ウッドエポキシを塗りつけた。
表面が平らになるよう上から抑えるのに適当な治具が無くて、平らに切った竹の節を使った。しかし、ウッドエポキシがガン玉に付着するよりも、抑える竹にくっついてしまってうまく平らに出来ない。
最後は、先が細い竹棒を濡らしては、根気よく少しずつ抑え付けた。
先日ガン玉を埋め込んだウッドエポキシはほぼ固まっていた。
その上にウッドエポキシを平らに塗り付けておいて、裏側にウッドエポキシを塗った節板をかぶせ、節板の周囲からウッドエポキシがはみ出すくらいに上から棒で押さえつけた。(無理に押しつけると節板が割れてしまう。)
すると、ウッドエポキシが余って盛り上がった部分と足りなくて隙間になった部分とが出来た。隙間には棒の先に少量ずつウッドエポキシを付けて押し込んでいった。
こうして何とか綺麗に収まり、底板は落とし蓋のようにうまく接着した。
内部と外部に分けて瀬〆漆を1回塗った。
内部には平筆を斜めにして塗ったがうまく塗れたようだ。
この花活けを床置きに加えて柱掛けにも出来るように吊り金具を付けることにした。
東急ハンズで尋ねたが柱掛けにする吊り金具は在庫品ではなく取り寄せだという。たまたま以前に買った割ピンが沢山残っているのを思い出し、これにリングを付けて吊り金具にすることを考えた。
吊り金具なら割ピンの下に台皿(ワッシャー)が有るはずだと思い、寒竹の節を薄く切ってワッシャーにした。
吊り金具は一度でとても巧くできた。
サンドペーパーで研いだあと梨子地漆を塗った。
節影を出すようにして拭き紙を使った。
壁掛け金具を付ける位置を考えた。
一番背の丸い部分がよいと思って穴を開けピンを立ててみたら、底が浮いて前に上がり過ぎる。成る程横腹に付ければ水平になる道理だった。
そこで最初の節のすぐ下に穴を開け直して付けた。間違えた穴には竹串を挿して埋めた。
竹筒の内側で割ピンを割った時ピンの足が飛び出していてはいけないので、内側の竹肉を適当に削って足を格納する窪みを作った。
大きめに窪みを削ってあとはウッドエポキシで塗り固めるつもりだ。割ピンの足がきちっと開くかどうか心配だったが、棒やすりの先で押さえると案外素直に曲がってくれた。
予定通りウッドエポキシで窪みを埋めたところ、盛り上がりが気にならない程度に収まった。
竹で作った割ピンのワッシャーと内側のウッドエポキシに梨子地漆を塗った。
ワッシャーには先端を切った毛の長さが5ミリほどの面相筆で梨地漆を塗ったところ、正確にワッシャーの竹だけに漆を付けることが出来た。
内側に漆の塗りムラがあるように見えるので、主に底の方を狙って梨子地漆を掛けた。
これで漆が硬化すれば、3種磨きを掛ける仕上げ段階に進められるだろう。
砥の粉・呂色磨粉・角粉を順に使ってよく磨いたところ、期待通りに良い艶が出た。節影も十分に発色しているのでので、これで完成とする。
<2013.10.06.作成>