|
銘「小野路」W50孟宗竹の根で作った 2005.3月〜2007.9月〜2008.8月 154w × 98h![]() 拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋 |
|
町田市内には手入れが出来なくなって荒れてはいますが、まだ孟宗竹の林が点在しています。これはその中のひとつ、小野路の竹林で見付けた太い根の切り株を貰ってきて、細工をしたものです。
花生けのつもりでしたが、茶道具店の主人に見せたら「建水ですか」と云われました。しかし建水としては小さくて柄杓が入りません。
根株の上側
根株底側
2005年2月下旬 町田市小野路の孟宗竹林で根株を見付けました。
長い髭根に覆われた土の塊で竹の桿がどうなっているのか見当もつかない有様でした。
丸1年間 戸外に放置しましたが、腐る心配もあり、泥を落として室内に入れることにしました。
髭根切り上側
髭根切り底側
髭根は密生していて、高圧注水しても泥は全然落ちません。
やむなく股枝鋏で髭根を1本ずつ切り落としていきました。
梅雨時には切口に青カビが生えてきました。束子で水洗いすると却ってカビがはびこります。
そこで芯を刳り抜いて早く乾燥させようと考えました。
ドリルで穴開け
壁を掻き取り
ところが食用筍の根元のように、竹芯の空洞が小さく、周囲の肉は厚くて固く、鋸も小刀も刃が立ちません。
対策を考えた末、ドリルで点々と穴を開け、鑿で点を線に繋いでいくことにしました。
それから壁になった部分をペンチで 掻き取りました。
刳り抜き
荒れた内壁
漸く底の1節を残してうまく 刳り抜くことが出来ました。
しかし内側の壁はドリルの穴が不揃いで、激しい凹凸があります。
底に空いていた穴
荒削りの外観
刳り抜くときにショックがあったのか、底の片隅にかなり大きな穴が空いていました。
それでも、これで一応花活けらしい形になってきました。
1年間 乾燥させた素材
風通しのよい場所で上下をひっくり返しながら、1年ほど乾かしました。
まだ内壁は荒れているし、上下の切口も鋸の刃跡が付いたままです。
また、生の竹の根が乾燥したためか、縦に大小沢山の罅割れが出来てしまいました。
底のひび割れ
細かいひび割れ
大きなひび割れ
節が盛り上がっている底
底側(右下に黒く穴が見える)
もうカビが生えないように、全面に生漆で地塗りをしました。
下塗り(側面)
下塗り(底面)
ドリルの跡も生々しい内側はそのままにして、表面には梨子地漆で下塗りをしました。
ガン玉を樹脂で押し込む
ガン玉を覆って樹脂を埋め込む
この根株は下の方がむしろ拡がっていて、しかも節が高く盛り上がっています。
言い換えれば、底の穴はこの盛り上がりの周囲が凹んでいるので、釣りで使う錘(ガン玉)を入れて凹みを埋めます。
樹脂を充填
底を平に均す
錘の上に樹脂を充填して底を埋め、平らになるように均します。
ひびに樹脂を擦り込む
余分な樹脂を落とす
ひびの奥まで深く入るように、指先で練るようにして、樹脂をひびに押し込みます。
樹脂が固まったら、表面に付いた樹脂の汚れを掻き落としておきます。
目地止め
大体ひびが埋まったところで、樹脂の上に梨子地漆を塗って目地を止めておきます。
壁塗り
底均し
内壁の凹凸は練った樹脂を擦り込んで平にしました。
一度ではうまく出来ないので、樹脂が固まるのを待って粗目のサンドペーパーで高みを削り、また樹脂で凹みを埋める作業を繰り返します。
生漆の地塗り
黒漆の仕上げ
生漆で地塗りをして目地を止め、黒漆で中塗りをします。
仕上げにも黒漆を塗ります。
中塗り前
中塗り済み
外側には透き漆で中塗りをします。この工程で色調を決めます。
極く薄く塗った透き漆を「拭き紙」で適当に拭き取り、乾燥させます。
乾いたら極細目のサンドペーパーで軽く研ぎます。
この作業を、漆の乾燥を待つため1回ごとに1昼夜かけて、何回も繰り返します。特に、髭根を切った跡はよい艶が出るように回数を多く塗りました。
工程日数の多くはこの『拭き漆』作業に費やされます。
蒔き錆後
髭根の間の低い部分は対照的に艶消しにしました。
艶消しにするには、必要な部分に生漆を塗り、砥の粉を蒔いてから乾燥させます。
出来上がり
正面
全体の色調に問題がなければ、吉野紙で漉した透き漆を薄く均等に塗っておきます。
十分に乾燥させてから、砥の粉・呂色磨粉・角粉を使い、しっかりと磨いて艶を出せば完成です。
一旦完成とはしたものの、これではあんまり黒くて、生地の竹が生きてきません。
そこで、この際思い切って外側の漆を全部剥がし、初めから塗り直すことにしました。
サンドペーパー(#120)で剥がしに掛かりました。髭根の文様が出てくると、俄然竹らしくなります。
しかし、帯状の髭根の間には深い凹凸があって、一筋縄では剥がしきれません。
髭根の際が黒く残る
髭根の際もやっと白くなった
凹みはとても深くてサンドペーパーがうまく届きません。
髭根の際を削らないように、サンドペーパーを折ってその角を使ったりして丹念に削りました。
毎晩3時間位ずつ3晩かけてやっと白く研ぎ出しました。
梨子地漆を塗り拭き紙をした
先日たまたま買ってきた棕櫚の棒束子で、表面全体を力一杯擦りました。すると、意外にとても良い艶が出てまるで漆を塗ったようです。
艶があっても生地のままでは水や汚れに弱いので、やはり漆を塗らないわけには参りません。今度は色が濃くならないように梨子地漆を薄く塗り、拭き紙でよく拭き取りました。
白く残った髭根の芯
しかし乾いてからよく見ると、髭根の芯が白く残っています。棒束子で余り強く擦ったので芯の切り口が荒れてしまい、漆が乗らなかったようです。
そこで、髭根の部分を重点的にもう一度拭き漆をしました。
仕上げの磨きをかけていると、節の上などに横向きの傷が沢山見つかりました。これは初めの漆を剥がしたときに付いたサンドペーパーの傷です。
縦の傷は竹の性質ですが、横向きの傷は仕事上の傷です。一度見つけると小さな傷でもどうも気になります。
結局、また研ぎ直すことにしました。
サンドペーパーも今度は慎重に粗・中・細目の3種類を使いました。
節の山の端が白っぽくなるくらい研ぎ出しましたが、とても滑らかになりました。
あらためて下塗り・中塗り・上塗りと3回拭き漆をしました。今度は下地がしっかりと磨かれていたので、綺麗に仕上がりました。
最後に拭き漆独特のつやを出すために、油砥の粉・呂色磨き粉・角粉の3種類を順番に使って、入念に磨き上げました。
これで漸く完成しました。
---2007.09.12.作成・2008.08.24.改訂・2009.07.08.再訂・2010.01.05.三訂・2010.01.20.四訂・2010.06.24.五訂・2012.02.29.六訂---