「翠簾洞漆工集」制作の部 漆工索引 翠簾洞ホームページ入口

33完成展示黒
2007年 9月

「小野路」W50

孟宗竹の根で作った
花器 或は 建水

2005.3月〜2007.9月〜2008.8月

154w × 98h

拭き漆工房   翠簾洞 素舟齋

33完成展示茶
2008年 8月

町田市内には手入れが出来なくなって荒れてはいますが、まだ孟宗竹の林が点在しています。これはその中のひとつ、小野路の竹林で見付けた太い根の切り株を貰ってきて、細工をしたものです。
 花生けのつもりでしたが、茶道具店の主人に見せたら「建水ですか」と云われました。しかし建水としては小さくて柄杓が入りません。

< 目 次 >  

黒過ぎた完成品
  1. 素材
  2. 髭根切り
  3. 刳り抜き
  4. ひび割れ
  5. 地塗り
  6. 下塗り
  7. 錘(ガン玉)で穴埋め
  8. ひびの補修
  9. 内壁の処理
  10. 中塗り(拭き漆)
  11. 蒔き錆
  12. 仕上げ・完成
やり直し制作
  1. 剥がし
  2. 研ぎ出し
  3. 拭き漆
  4. 再度の研ぎ出し
  5. 仕上げと磨き上げ
ー完ー

1)素材  (2005.2月)

01根株口側
根株の上側

02根株底側
根株底側


 2005年2月下旬 町田市小野路の孟宗竹林で根株を見付けました。

長い髭根に覆われた土の塊で竹の桿がどうなっているのか見当もつかない有様でした。

<△Top△>

2)髭根切り  (2006.3月)

丸1年間 戸外に放置しましたが、腐る心配もあり、泥を落として室内に入れることにしました。

03髭根切り上側
髭根切り上側

04髭根切り底側
髭根切り底側


 髭根は密生していて、高圧注水しても泥は全然落ちません。


 やむなく股枝鋏で髭根を1本ずつ切り落としていきました。

<△Top△>

3)刳り抜き  (2006.8月)

梅雨時には切口に青カビが生えてきました。束子で水洗いすると却ってカビがはびこります。

そこで芯を刳り抜いて早く乾燥させようと考えました。

05ドリルで穴開け
ドリルで穴開け

06壁を掻き取り
壁を掻き取り

ところが食用筍の根元のように、竹芯の空洞が小さく、周囲の肉は厚くて固く、鋸も小刀も刃が立ちません。

対策を考えた末、ドリルで点々と穴を開け、鑿で点を線に繋いでいくことにしました。

それから壁になった部分をペンチで 掻き取りました。

刳り抜き
07刳り抜き

荒れた内壁
08内壁面



漸く底の1節を残してうまく 刳り抜くことが出来ました。

しかし内側の壁はドリルの穴が不揃いで、激しい凹凸があります。

09底の穴
底に空いていた穴

10側壁と口縁の鋸跡
荒削りの外観



刳り抜くときにショックがあったのか、底の片隅にかなり大きな穴が空いていました。

それでも、これで一応花活けらしい形になってきました。

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4)ひび割れ  (2007.6月)

11口面
1年間 乾燥させた素材


 風通しのよい場所で上下をひっくり返しながら、1年ほど乾かしました。


 まだ内壁は荒れているし、上下の切口も鋸の刃跡が付いたままです。

また、生の竹の根が乾燥したためか、縦に大小沢山の罅割れが出来てしまいました。

底のひび割れ
12底面

細かいひび割れ
14側面の小罅

大きなひび割れ
13側面の大罅

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5)地塗り

15口面研ぎ出し
節が盛り上がっている底

16底面研ぎ出し
底側(右下に黒く穴が見える)



 もうカビが生えないように、全面に生漆で地塗りをしました。

<△Top△>

6)下塗り

17地塗り口面
下塗り(側面)

18地塗り底面
下塗り(底面)


 ドリルの跡も生々しい内側はそのままにして、表面には梨子地漆で下塗りをしました。

<△Top△>

7)錘(ガン玉)で穴埋め  (2007.7月)

19ガン玉埋め
ガン玉を樹脂で押し込む

20ガン玉埋め込み
ガン玉を覆って樹脂を埋め込む

この根株は下の方がむしろ拡がっていて、しかも節が高く盛り上がっています。

言い換えれば、底の穴はこの盛り上がりの周囲が凹んでいるので、釣りで使う錘(ガン玉)を入れて凹みを埋めます。

21底埋め
樹脂を充填

22底作り
底を平に均す


 錘の上に樹脂を充填して底を埋め、平らになるように均します。

<△Top△>

8)ひびの補修

23罅埋め
ひびに樹脂を擦り込む

24罅塞ぎ
余分な樹脂を落とす


 ひびの奥まで深く入るように、指先で練るようにして、樹脂をひびに押し込みます。


 樹脂が固まったら、表面に付いた樹脂の汚れを掻き落としておきます。

目地止め
25罅修復



 大体ひびが埋まったところで、樹脂の上に梨子地漆を塗って目地を止めておきます。

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9)内壁の処理  (2007.8月)

26内壁充填
壁塗り

27底直し
底均し


 内壁の凹凸は練った樹脂を擦り込んで平にしました。

一度ではうまく出来ないので、樹脂が固まるのを待って粗目のサンドペーパーで高みを削り、また樹脂で凹みを埋める作業を繰り返します。

28内側地塗り
生漆の地塗り

29内壁中塗り
黒漆の仕上げ



 生漆で地塗りをして目地を止め、黒漆で中塗りをします。


 仕上げにも黒漆を塗ります。

<△Top△>

10)中塗り(拭き漆)

30中塗り前
中塗り前

31中塗り後
中塗り済み

外側には透き漆で中塗りをします。この工程で色調を決めます。

極く薄く塗った透き漆を「拭き紙」で適当に拭き取り、乾燥させます。

乾いたら極細目のサンドペーパーで軽く研ぎます。


 この作業を、漆の乾燥を待つため1回ごとに1昼夜かけて、何回も繰り返します。特に、髭根を切った跡はよい艶が出るように回数を多く塗りました。

工程日数の多くはこの『拭き漆』作業に費やされます。

<△Top△>

11)蒔き錆

32蒔き錆後
蒔き錆後


 髭根の間の低い部分は対照的に艶消しにしました。


 艶消しにするには、必要な部分に生漆を塗り、砥の粉を蒔いてから乾燥させます。

<△Top△>

12)仕上げ・完成

33完成1
出来上がり

33完成2
正面


 全体の色調に問題がなければ、吉野紙で漉した透き漆を薄く均等に塗っておきます。

十分に乾燥させてから、砥の粉・呂色磨粉・角粉を使い、しっかりと磨いて艶を出せば完成です。

<△Top△>

1)剥がし

一旦完成とはしたものの、これではあんまり黒くて、生地の竹が生きてきません。

34剥がし1

34剥がし2

そこで、この際思い切って外側の漆を全部剥がし、初めから塗り直すことにしました。

サンドペーパー(#120)で剥がしに掛かりました。髭根の文様が出てくると、俄然竹らしくなります。

しかし、帯状の髭根の間には深い凹凸があって、一筋縄では剥がしきれません。

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2)研ぎ出し

35研ぎ出し1
髭根の際が黒く残る

35研ぎ出し2
髭根の際もやっと白くなった

凹みはとても深くてサンドペーパーがうまく届きません。

髭根の際を削らないように、サンドペーパーを折ってその角を使ったりして丹念に削りました。

毎晩3時間位ずつ3晩かけてやっと白く研ぎ出しました。

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3)拭き漆

36拭き漆1
梨子地漆を塗り拭き紙をした

先日たまたま買ってきた棕櫚の棒束子で、表面全体を力一杯擦りました。すると、意外にとても良い艶が出てまるで漆を塗ったようです。


 艶があっても生地のままでは水や汚れに弱いので、やはり漆を塗らないわけには参りません。今度は色が濃くならないように梨子地漆を薄く塗り、拭き紙でよく拭き取りました。

白く残った髭根の芯
36拭き漆2

しかし乾いてからよく見ると、髭根の芯が白く残っています。棒束子で余り強く擦ったので芯の切り口が荒れてしまい、漆が乗らなかったようです。

そこで、髭根の部分を重点的にもう一度拭き漆をしました。

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4)再度の研ぎ出し

仕上げの磨きをかけていると、節の上などに横向きの傷が沢山見つかりました。これは初めの漆を剥がしたときに付いたサンドペーパーの傷です。

縦の傷は竹の性質ですが、横向きの傷は仕事上の傷です。一度見つけると小さな傷でもどうも気になります。

37再研ぎ1

37再研ぎ2

結局、また研ぎ直すことにしました。

サンドペーパーも今度は慎重に粗・中・細目の3種類を使いました。

節の山の端が白っぽくなるくらい研ぎ出しましたが、とても滑らかになりました。

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5)仕上げと磨き上げ

あらためて下塗り・中塗り・上塗りと3回拭き漆をしました。今度は下地がしっかりと磨かれていたので、綺麗に仕上がりました。

38仕上げ1

38仕上げ2


最後に拭き漆独特のつやを出すために、油砥の粉・呂色磨き粉・角粉の3種類を順番に使って、入念に磨き上げました。

これで漸く完成しました。

<△Top△>

---2007.09.12.作成・2008.08.24.改訂・2009.07.08.再訂・2010.01.05.三訂・2010.01.20.四訂・2010.06.24.五訂・2012.02.29.六訂---