2004年3月〜2010年3月
綺麗に胡麻斑が入った竹を持っていましたが、ある日ふと結界を作ろうと思い立ちました。2本の支柱を真っ直ぐに立てるのも結構難しい作業でした。ところが単に「コ」の字型ではどうも間が抜けて見えるので、黒竹で支柱の間に細い棒を入れて「円」字型にしました。こうして一旦は完成したのですが、胡麻斑を活かすためにほとんど竹桿の表皮を剥がさなかったので、漆がポロポロと剥げてしまいます。結局表皮を全部サンドペーパーで研ぎ落として、初めから塗り直しとなりました。
この竹は2月27日に知人宅で貰ってきた竹のうちの1本である。切って地面で雨ざらしになっていたので土で汚れていたが、洗ってみると傷が少なくて全体に綺麗に斑が揃っている。
その日は何にするということなく使えそうだと思って貰っただけだったが、ある日ネットで茶道具を見ていて、たまたま結界が目に付き、これにしようと思いついた。
両端に節を置き、適当な寸法に材料取りをした。 養生テープで仮止めして、 | ![]() | |
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火入れをした。
油を拭いたあとに艶が出て、胡麻斑が一層鮮やかになった。
横棒と両脚と両支柱の5点セットに個別に漆を塗った。
胡麻斑は漆が濃いので少し目立たなくなったが、良い艶が出た。
一応漆は塗ったが、なかなか組み立ての工作に自信が湧いてこなくて時間ばかり経った。
各部の取り付けには、印籠継ぎのように心棒を入れた従来のこ工法にしたのだが、円柱の上に載せるのは意外に難しい。
双方を合わせての切り込みは完全に出来た筈だったが、ウッドエポキシを詰めて立ててみるとかっちりとは決まらず、隙間が出たり斜めになったりして、再度切り込みを修正する羽目になった。
初めに両脚と支柱の組み付けをしたが、何とかうまく出来た。
乾燥して固定された後に横棒に取り付けたが、これがまたグラグラして力が入らず、ウッドエポキシが十分に隙間に廻り込んだがどうか怪しいものだ。
上から押しつけると外れて倒れそうで力を入れられない。しかも両脚の方向や横棒と斜めなのを修正したりすると、ウッドエポキシに隙間が出るから一度に決めなければならない。
ウッドエポキシが硬化する前には真っ直ぐに立てて置いたつもりだったが、今見ると支柱が少し斜めになっている。硬化中に自重で傾いたのかも知れない。
修正すべく力を入れてみたが、既に硬化していて無理に押したら支柱と横棒の間に割れ目が出た。止むなく支柱を外して付け直すことにした。
硬化中に傾きが出るのは支柱がしっかりと横棒を支えていないからだと思い、今度は横棒の丸い表面に支柱の削り込みを入念に合わせてみた。すると何も粘着材を付けずに支柱に横棒を載せただけでチャンと立ってくれた。この状態で昨晩ウッドエポキシを入れたが今度は傾かずに正立して固まった。
ここで別な問題が出た。はみ出した粘着材を削っている時に、粘着材をこそぎ取ると下地の漆から剥がれて竹の生地が出てしまう。つまり漆が竹の表面と全く馴染んでいない。
これは胡麻斑を見せるために竹の表面を油抜きしたまま残してあるので、竹の脂が取れていないのが理由である。貼っただけのメンディングテープを剥がしても漆が竹から剥がれしまう箇所も出た。
漆が剥げた部分の修復をしながら、何回か漆を掛けてかなり艶も出て来た。漆と竹との馴染みには不安が残るが、固いものに当たれば剥げるのは致し方ないと観じて、このまま仕上げることにした。さらに拭き漆を繰り返した。
しかし、これだけで見ると、ハナがなくて2本の脚が取れてしまいそうな不安定感を与えるし、どうも間が抜けて見える。
盆栽展示で見た結界は青竹3本を棕櫚縄で結んでありそれが青緑と黒の対照とともに見所になっている。そこで、下部に両脚を繋ぐ横棒を入れることを考え、すると必然的に中央に柱を立てたくなった。
こうして「円」字状の支柱の構想が出来た。
細い黒竹で支柱を作って立ててみると、ぐっと安定感が出て、格段に良くなったと思う。
結界などというものは現在では使う物ではないので長らく放置していたが、いつも目の前にあるので久し振りに節影を付ける気になった。
節影は1回塗っただけ
節影は一度塗っただけでは薄いので、更に数回は塗る必要がある。
また竹の上皮を剥がさないと漆が馴染まないこともはっきりしてきたのだが、ここまで工程を進めた今となっては素材まで戻るわけにもいかず、一応仕上げてはみるが、余り完成度が高い作品とはなり得ない。
節影を調整しつつ全体に3回ほど梨地漆を掛けたところ、ほぼ満足な状態になったので、これで完成とすることとした。
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この結界に興味を持った人が現れたが、漆が剥げているところがあるので直して欲しいという。
確かに長い間持ち歩いているうちに、予想していたように部分的に小さく剥げ落ちている箇所が沢山出来ていた。これでは修理は当然の要求だ。
セロテープで剥げ落ち試験をすると簡単に剥げてくる。これは胡麻斑を活かそうとして竹の皮を殆ど落としていなかったから、漆が竹に馴染まなかったのだ。
漆が剥がれないようにするには竹桿の表皮を研ぎ落とさなければならず、そうすると胡麻斑が消えてしまう旨説明して先方の了解を得たので、全面塗り直しをすることになった。
早速サンドペーパー#120で研ぎ出しに掛かった。
胡麻斑の跡は深くて、胡麻斑の基盤になっている部分は黒ずんでいる。
今日で完全に漆を落とすことが出来た。
胡麻斑の跡が随分はっきりと出ていて、景色になりそうだが、果たして漆を塗ってからも見られるかどうか怪しい。
地塗りをした。
乾燥時の支持のために、脚部から半分にして上下2回に分けて塗った。
いい感じが出ている。
地塗りの後、節の凹みが一寸塗りムラになっている。
その後節影を付けながら胡麻斑の跡も残すように気をつけて何回か拭き漆を掛けた。
大体調子が出たので桿は終了とし、脚部の仕上げに掛かった。
少しでも節影が付くようにして拭き紙を使った。
黒竹の横棒は仕上げの塗りをしていると、ギシギシと怪しげな音を出す。支柱への取り付けが固定されていないようだ。
このため中央の縦棒の差し込み穴から罅が入りそうな気配なので、縦軸の両側に絹糸を巻いて割れないように養生することにした。ここはキサゲも出来ないし、成るべく目立たないようにしなければならないので、船頭結びで決めた。
絹糸はうまく締まって、木地呂漆も綺麗に塗られている。
絹糸の漆は上出来だった。このままでもよいが、予定どおりT字組みの部分を紙で覆うことにする。
成るべく薄くて丈夫な紙ということで、柿渋塗りの漆漉し紙(美濃紙)を使うことにした。
生漆に極く僅かの木工ボンドを混ぜて、美濃紙の両面に塗り、T字接続の部分に三角巾のように貼り付けた。
最後は指で押さえ、ティッシュで拭いて終わりとした。
巻いた絹糸がはっきり浮き出している。
美濃紙はうまく貼り付いた。糊漆もムラなく巻いてある。
これで2回か3回梨子地漆を塗れば綺麗になるだろう。
美濃紙は一応綺麗に付いたのだが、貼った部分が黒くてしかもそれがかなり大きいので、外見上面白くない。
結局絹糸の部分を残して周りの美濃紙を削って剥がした。
あとサンドペーパー#800で軽く磨いておいた。絹糸の上に木屎(こくそ)漆を塗って少し補強しておく。
木屎漆は横棒のT字型だけではなく、細い黒竹が入っている付け根にそれぞれ塗っておいた。
今日少しはみ出た部分をとって、サンドペーパー#600で軽く磨いておいた。
昨日は梨子地漆を木屎漆の上に塗っておいたが、うまく塗れている。
艶も出ているが、更にもう一度仕上げ塗りをして完了としよう。
十分に3種磨きをかけてよい艶が出たところで、手直し完了とする。
他日、依頼人に納品した。△TOP△
2013.09.14.作成 / 2013.10.12.背景改正