拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
太めの真竹の枝を極く僅かに残して切り、花活けの中央に据えた一輪挿しです。随分細長いので花を生けたとき倒れないように大きな錘を底に隠しました。細い内壁は筆の代わりに歯ブラシを使い、漆の塗り残しが出ないように十分に重ね塗りをしています。
垣根に雨晒しにしていた枝付きのままの若竹にゴマが付いて、稍ゝ汚いながらも、少し趣があるように見えたので、一節を切って家の中に置いていた。
ある日これを柱掛けの一輪差しにしようと思いついた。
二股の枝が数センチほど残っている。これをそのまま残してもイモムシの角のようで余り美的ではない。
しかし逆に節をすっかり落としてしまうと、後の始末が如何にも平凡になり面白味が無くなる
臍(へそ)
臍の位置
そこで、枝分かれ寸前の位置で枝を切り、枝の根元だけを臍のように残してみた。
するとこの臍が一輪差しの下端になっては見栄えがしなくなるので、その節を中央に据え、上下二個の節間を使うようにした。
この竹は、かって二年生くらいの若い竹を刈り込んだ時の一本を拾っておいたものである。従って時間と共に表面に皺が出てきて、しかも汚いゴマまで吹いてきて、普通ならば棄てられる竹である。
しかし今度はこの表面の皺をそのまま模様にしようと考えたので、生地の磨きは極く軽くしてゴマも消えぬようにした。最初の漆掛けでこの意図は成功だったことが判った。
臍の周囲を明るくした
2、3回拭き漆をしてみるとどうも全体にメリハリがないので、臍の周囲を淡い色にして、臍の黒を強調し燭台に灯を入れたようにする意匠にした。こうすると臍を高さのほぼ中央にしたのが引き立った。
錘を入れた底と 入れたものと同型の錘
柱掛けの花活けでは、前回は花の重さで傾いて水がこぼれて失敗だったので、今回は下端に、丁度径が合って竹にすっぽりと入った釣りのオモリ60号を埋め込んだ結果「起き上がり小法師」のように安定した。これならば床置きとしても使うことが出来そうだ。
竹節を貼り付けた底
底から見てオモリが隠れるように、他の節を取ってきて底に貼り付けた。
上半分の水が入る部分には、歯ブラシなどを使って細長いい内側に黒漆を塗った。
灯 足下を照らす
見返り美人風
後日、節の臍を燭台の灯に見立てて、更に下の方も明色なので「灯照足下(ともしび足下を照らす)」という銘を付けた。「灯台下暗し」でもなく、「一隅を照らす」でもないところに意味がある。
また、見る角度によっては「見返り美人」のような趣も感じられる。
<2009.07.15.作成・2009.10.30.改訂・2010.01.16.再訂・2013.10.12.背景改正>