拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
2009年秋、京都東福寺参道の門前市に竹細工の小物を並べている店、小学3,4年くらいの男の子が母親と店番をしていました。いろいろある中で、東京ではめずらしい図面竹を花活けに切って大小数点置いていました。漆がよく乗るように竹の表皮を削ってしまえば図面竹の文様が消えてしまうでしょうが、図面模様が竹のどのくらいまで深く入っているのか、図面竹も漆塗りに耐えるのかも知りたくて、試作用に1個買ってきました。結果、文様は残りましたが、全体が漆で黒っぽくなったので、あまり冴えない印象になりました。
京都に紅葉狩りに出掛けた際、東福寺前の通りに竹細工を売っている店が出ていた。斑が付いた孟宗竹(図面竹)を花生けにするように20〜30cmに切って1本500円、節が2個入っていれば700円だった。何本か買いたかったが旅先では荷になるので1個だけ買った。
上下の切り口は綺麗に平らに切ってあり、切り口の状態から切ってから随分経過しているようだ。
また、ほぼ真ん中にある節はうまく抜いてある。
しかし底部の端には返し切りをしていないので、切り落としの際の表皮の剥けが二、三本入っている。
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節は矢張り落として手触りを優しくしたい。
まず下の節を落として上の節と比べたが、確かに節を取った方が綺麗だ。
節を取ると必然的に表皮も研ぐことになる。竹の切り口を見るとかなり深くシミが入っているので多分模様としてして残ると思うが、この鮮やかな図面模様は研いでみるまでどうなるか分からない。
表面の研ぎ出し前
全面の表皮を砂研紙#240で研ぎ出した。成るべく軽く平均に研ぐようにした。
研いでみるといつもは気にならないような竹の縦の筋が際立って茶色く残っている。これが目立たなくなるように砂研紙を丸くして1筋ずつ丹念に研いでいった。
表面の研ぎ出し後
3時間くらいかかったろうか、斑竹の図面模様が綺麗に現れ、表皮の汚れもすっかり落ちたのだろう、艶がなくなって全体が一様に白っぽくなった。これなら漆が乗るだろう。
今回初の試みだが、漆の前に木蝋を塗ってみようと思う。竹の表皮は漆に馴染まないが、木蝋はよく馴染むことはコースター(R15)で経験済みだ。
何日か掛かって外周の縦筋に残った黒めの線を#320で丁寧に削り取った。全体に白っぽくなったようだ。
中節を抜いた跡が荒れている
買った時から抜いてあった中節は、抜いた痕がザラザラで漆を塗る気がしなかった。
中節を抜いた跡を研ぎ出した
丸竹に#100を貼付けた砂研紙で節痕だけを研ぎ出して平滑にした。
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外周の磨きは一段落したので、地塗りをする段階だ。
いつものようにここで生漆を塗ると黒っぽくなり図面模様が活きなくなる心配がある。
そこで試しに木蝋を木地に塗ってみることにした。
昨夜、赤外線ヒーターの熱で木地を暖めながら溶かした木蝋を表面に塗っていった。一通り塗ると表面に木蝋が光っていて、竹の表面には染み込んでいかないようだ。
木蝋を塗るのを止めて暫く竹だけを炙りながら、木蝋が平均的に廻るように掌で擦ってみた。
すると次第に木蝋の光が消え染み込んでいったような感じになって来た。
今朝見ると表面がやや黄色っぽくなりとても滑らかで柔らかい感じがする。
更に漆を塗った時にどうなるか分からないが、現在までのところでは大成功だ。
漆を掛けようと思ったら、底側の切り口に鋸で剥けている箇所があり、このままでは使えないので、ウッドエポキシで埋めることにした。まだ取れずに残ってやや反っている表皮むけもあったので水糸で縛っておいた。
水糸で縛ったウッドエポキシでの補修は成功した。昨日梨子地漆で地塗りを拭き漆した。
矢張り梨子地漆でも結構濃くなっているが、柿渋色でなかなかよい感じになった。
▲TOP▲底の節板は中央が丸く凹んでいるので、節板を強化するために凹みにウッドエポキシを入れて平にすることにした。しかしウッドエポキシを凹みに落としても手が届かず、棒で押しても底に付かずに棒に付いて出て来てしまう。
ウッドエポキシ盛付け
別の竹の節板
そこで別の節板を入れてウッドエポキシを挟み込むことにした。丁度よい寸法の節板があったので周囲を削って竹筒の内周に合わせ、ウッドエポキシを盛りつけて筒に落とし込んだ。
上から完成したステッキの石突きゴムで押し付けると、うまく外周からウッドエポキシがはみ出て来た。
ウッドエポキシがはみ出していない僅かな隙き間にウッドエポキシを箸の先に付けて押し込んだ。今度は下地があるからウッドエポキシも素直に底板に付いてくれた。
これで底も平になり、底節が割れる心配もなくなった。
内側の節はかなり綺麗に抜いてあるが、まだ随分尖ったところも残っている。そこでプラ竹に砂研紙#100を貼付けて、時間をかけて丁寧に節跡の尖りを研ぎ出した。▲TOP▲
内側に木地呂漆を塗った。歯ブラシを使わなくても平筆だけでうまく塗れたようだ。
乾いてみると随分ぶつぶつとしている。手が入らなくて研ぎ出しが出来なかったので、竹の内側の突起がそのまま漆によって固められたのだろう。
梨子地漆で節陰を付けた。地模様を活かすために漆をあまり濃くはできないが、おおよそうまくできた。▲TOP▲
何回か節陰を塗ってよい具合になってきたが、ポッカリと剥げることがあり気になった。
どのくらい剥がれるか、実験的にセロテープを貼ってよく押し付け剥がしてみると、テープについて剥がれる部分が沢山ある。
これは木地に木蝋を塗ったのが災いして漆が馴染まないためだと思う。
このまま仕事を続けてもよいものにはならないので、ここで表面の漆を全部剥がすことに決めた。
下半分を熱して木蝋を染み込ませた
剥がす前に、花活けの下半分を遠赤外線ヒーターでちょっと触れなくなるくらいまで熱してみた。別段油が浮いてく様子はなかった。
しかし、冷めてからセロテープを上と下に貼り、剥けて来る度合いを較べたところ、熱した下の方が剥げ難かった。つまり熱により木蝋が木地に染み込み、表面の油分は薄くなるようだ。
サンドペーパー#120ですっかり漆を落とした。図模様が薄くなったかもしれないが、地塗りを生漆を薄めて木地に浸透しやすいようにして塗ることにする。
弱火でゆっくりと時間をかけて火入れをした。表面に油分は出て来なかった。
しかし全体に白っぽかった竹の肌が、生き返ったように黄色みを帯びてきた。▲TOP▲
14日に火入れに続けて地塗りをした。
生漆を濾してテレピン油を3分の1くらい混ぜて薄めて塗った。薄い方がよく竹の木地に馴染むだろうと思ったからだ。
筆塗りのあと繊維が出る拭き紙で拭いておいた。拭き紙の切れ端を包み込むように持って、紙の真ん中で拭くようにしたので繊維くずは殆ど付かなかった。
今朝見ると、拭き漆が利いていて地塗りとしては問題ない。
朱漆赤口を底(外側)に塗っておいた。
更に内側にも木地呂漆を筆と歯ブラシで塗っておいた。塗った部分と塗らない部分が区別出来ないので慎重に何回も筆を動かした。
ここ1ヶ月半、梨子地漆で内側を1回塗っただけで、工程はあまり進まなかった。
今日は内側に呂色漆を塗った。口が広いので歯ブラシは使わず全部筆塗りだけで塗った。これで内側は朱漆を塗れば終了となる。
口の内周が内側を塗る時に刷毛がぶつかって、かなり傷が目立つ。
口だけ板鑢で研ぎ直す必要がある。
外側は綺麗に図面模様が出ている。▲TOP▲
朱漆を作って内側に塗った。
一通り筆で朱漆を塗ったが、鏡を入れてみると節の下には全く漆が付いていないところもあり、漆が塗れている部分でも塗りムラがひどい。呂色漆では色が同じでムラが分からなかったのだろう。
今回は朱漆を歯ブラシで厚めに塗ったので、一応ムラが消えたようだ。
今度は逆に朱漆が厚過ぎて、底に溜まり縮緬皺が出来ている。
底の周りの隅にある縮緬皺は削れそうになく、そのままにするしかない。
しかも(写真にして初め分かったのだが)底にはまだ朱漆が塗られていないような黒い斑点もある。
図面模様がよく残っている反面、節陰がはっきりしないので、更に梨子地漆で節陰を付けることにした。
図面模様が消えないように薄めの梨子地漆で節影を3回つけたので、節陰はほぼ完成の域まで来ている。
しかし地塗りから朱漆まで何回も内側をブラシで塗っている間に、柄を長くするために結びつけておいた竹棒の先端が縁に当たって、活け口には傷や凹みが付いているようだ。
ちょっと見ても分からないのだが気になるので、水研ぎして竹の木地まで研ぎ出した。
瀬〆漆を2倍くらいに薄めて塗ったが、直ぐに染み込んでいった。
留め漆としてはこのくらいがよいのだろう。▲TOP▲
上部の活け口も綺麗になり、時間とともに漆が落ち着いて来て、表面の図面模様も節陰もそこそこ現れている。
節陰を強くすればそれだけ模様が沈むのでこの辺で完成とする。
昨日で完成としたが、上下の切り口が綺麗でなかったので、サンドペーパー#1500で磨き、梨子地漆の拭き漆しで仕上げをやり直した。
今度は満足できる状態になったので改めて完成とする。▲TOP▲