「翠簾洞漆工集」制作の部 漆工索引 翠簾洞ホームページ入口

Y.S. 氏のステッキ W122

完成

拭き漆工房  翠簾洞 素舟齋

左半身が不自由なY.S.氏が金属のステッキを使っているのを見掛けたので、寸法をそのステッキに合わせて急遽4ヶ月で制作しました。納品すると彼は大変喜んでくれて、それからは金属ステッキをやめて、この竹製ステッキを愛用してくれています。

目  次

  1. ステッキを作った経緯
  2. 素材の成形
  3. 下地作り
  4. 桿と柄の嵌合部
  5. 芯材のすげ込み
  6. 下地の研ぎ直し
  7. 柄の節影
  8. 桿の節影
  9. 提げ緒留め
  10. 節影のやり直し
  11. 提げ緒作り
  12. 金覆輪
  13. 組立・完成

1. ステッキを作った経緯

2008.12.23. 今日は市ヶ谷のホテルで甥の結婚式があり、Y.S. 氏も出席だったが、彼は左半身が不自由でステッキを使っていた。そこで竹のステッキを作って進呈したいと思い、現在使用中の鉄製のステッキの長さを自分の腰骨の下約10センチと見当を付けてきた。

2. 素材の成形

晒し竹

2008.12.24. 現在仕掛かり中には適当な素材がないので、過日ホームセンターで買ってきた晒し竹5本の中の1本をこれに当てることにした。(12月12日切り出し、14日火入れ済み)

柄選び

柄合わせ

柄(つか)には孟宗竹の根を充て、

長さを桿に見合わせて切った。

木工鑢研ぎ
木工鑢研ぎ

桿を木工鑢で節と皮を削り、

棒鑢研ぎ
棒鑢研ぎ

棒鑢で傷を均したあと、 サンドペーパー#100で研ぎ出した。

組み合わせ

柄の節をカッターで削ってから、

サンドペーパー#100で磨き、桿と合わせてバランスをみた。

柄にウッドエポキシ盛り付け

2008.12.25. 柄には大きな凹みが節毎に3個ある。

その凹みは深いから、柄を握ったときによりよく力が入るように、ウッドエポキシで埋めておく。

仕上げ研ぎ済み
仕上げ研ぎ済み

桿にはサンドペーパー#100で研ぎ出しを掛け、サンドペーパー#400で仕上げ研ぎをしたところ、一部にうっすらと鑢傷が残っていたので、再度#150で研ぎ出し#400で仕上げをした。

地塗り済み
地塗り済み

すっかり綺麗になったので生漆で地塗りをし、漆の濃淡が出ないように拭き紙でよく拭いておいた。

ウッドエポキシ成形済み

柄のウッドエポキシをカッターで削り、サンドペーパー#240で磨いて生漆で拭き漆をした。

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3. 下地作り

2008.12.30. 桿の拭き漆は綺麗に出来たので、キシャギの範囲を養生テープを巻いて決めた。   【キシャグ=キサグ:削り落とす こそぐ (広辞苑)】

養生テープ巻き

キシャギ済み
キシャギ済み

テープを巻く手間を掛けただけ、容易で綺麗にキシャギが終わった。

キシャギのあと、夜なべをして絹糸を巻き終えた。

絹糸巻き

2009.01.04. 絹糸の上に生漆を塗った。

生漆塗り

生漆塗り後の絹糸

生漆の濃淡で下の絹糸の赤い色が透けて見える。

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4. 桿と柄の嵌合部

2009.01.24. 絹糸の上には生漆のあと、梨子地漆で2回塗った。ここで柄との合わせを工作した。

柄のほぞ穴開け

この柄は根なので芯材を通す軸方向の穴をドリルで掘ってから、ほぞ穴をあけた。

桿と柄の合わせ

柄のほぞ穴仕上げ

ドリルの丸いほぞ穴のあとは、切り出しで桿のすげ込みに合わせて楕円形に刳り抜いていった。

桿と柄の嵌合

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5. 芯材のすげ込み

2009.01.25. 12mmの丸棒を買ってきて、寸法を合わせ、すげ込みのほぞを作った。

柄のほぞ穴仕上げ-3
柄のほぞ穴仕上げ

柄のほぞ穴仕上げ-2
柄のほぞ穴仕上げ

柄のほぞ穴仕上げ-1
柄のほぞ穴仕上げ

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6. 下地の研ぎ直し

2009.01.29. 昨日、桿の絹糸を巻いた部分に生漆を塗った。少し多めに筆塗りしたのでので、縮緬皺が出ないように拭き紙で拭いておいた。ところが皺はなかったが、拭き紙の扱いが悪くて桿がひどく汚れてしまった。

汚れた桿

汚れ落とし
汚れ落とし

2009.01.30. 乾いた漆を剥がす溶剤はないので、やむを得ず桿の汚れをサンドペーパー#240で綺麗に落とした。

覆輪際の汚れ落とし
覆輪際の汚れ落とし

2009.01.31. 桿の磨きは一応終わったが、巻いた絹糸の際に漆が黒く残っていて、この程度なら覆輪で隠れるとは思いつつも、この際サンドペーパー#600で汚れを磨き落とした。

2009.02.03. 一昨日、生地のままの桿に梨子地漆で節陰を付けた。

柄との組み込みは未完成で、桿に通す丸棒の長さを決めていなかったが、桿に節影を付ける方を優先した。

やり直し後の最初の節影はうまく描けた。

1回目の節影

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7. 柄の節影

柄の拭き漆

2009.02.06. 柄に梨子地漆で拭き漆を掛けた。しかし節間が短いので陰影がつかず、全体が同じ調子になってしまった。

柄の拭き漆2回目

2009.02.10. サンドペーパー#800で柄を研ぎ、梨子地漆で拭き漆を掛けた。

節影のように柄の全体で濃淡を出すように気をつけて塗ったり拭いたりした。

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8. 桿の節影

2009.02.08. 桿にサンドペーパー#1000で研ぎを掛け、薄めていない木地呂漆で拭き漆を掛けた(2回目)。

2009.02.09. 昨日桿を塗ったとき、拭き紙を交換しなかったので漆が沢山染み込んでしまい、薄くしなければならない部分に、ムラが濃く出てしまった。またしてもサンドペーパーで一部の漆を落とすようなことになった。

2度目の汚れた桿

2009.02.12. 桿をサンドペーパー#1200で磨き、木地呂漆で拭き漆を掛けた(3回目)。節影を強調するため暈かしの部分には漆が付かないように塗り、且つ拭き紙でよく拭いておいた。

3度目の拭き漆後

2009.02.13. 桿の暈かしは出来てきたが、漆の濃い部分にはよく見ると刷毛の跡もありムラが目立つ。

綺麗なグラデーションが出ていない。

3度目の拭き漆後全体

2009.02.14. 桿のムラが目立つ部分だけサンドペーパー#600で軽く研ぎ、全体はサンドペーパー#1000で研いだ。

木地呂漆で節影をなるべく短く掛けた。前回よりはムラが少ないが、まるでアナログではなくてデジタルで塗っているように、濃い部分は真っ黒で、薄い部分は生地のようだ。節影と呼ぶべき暈かしが出ていない。

暈かしが出ていない

2009.02.21. 木地呂漆に替えて、上朱合漆をベースに生漆と梨子地漆を少量混ぜテレピン油で少し溶いて、拭き漆を掛けた。

木地呂漆だけの時より暈かしが多少よいようだ。木地呂漆は漆が濃過ぎるのだろうか。

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9. 提げ緒留め

2009.02.24. 下げ緒を付ける金具を取り付けた。

留め具と取付位置

提げ緒の取り付け金具を作り、桿の取り付け位置を決めた。

金具の一方を差し込む1.5ミリの穴をあけ、足部の埋め込み溝を桿に掘った。

水糸で緊縛

留め金具を万能接着剤で着け、水糸で緊縛して置いた。接着剤が乾いてから絹糸を巻く。

絹糸に下塗り

2009.02.28. 桿の留め金具に巻いた絹糸に、昨日梨子地漆に生漆を合わせた漆を塗った。

絹糸に中塗り

数日後、絹糸に塗った漆が乾いたので梨子地漆で中塗りをした。

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10. 節影のやり直し

2009.03.05. 見苦しい作品にするよりももう1回新しい梨子地漆で塗り直すことにして、現状の節影をすっかり剥がした。

サンドペーパーで研ぎ落とすのは塗るよりも数倍手間が掛かり、しかも余りよい結果が出ないものだが已むを得ない。

2009.03.06. 節影を描き直すのだからムラの部分だけ研ぎ落とせばよいと思っていたが、うまく暈かして落とすことが出来ず、上の方を僅かに残して結局みんな落としてしまった。初めはサンドペーパー#1000で仕掛かったが、殆ど効果がないので、サンドペーパー#400に切り替えて作業をした。

節影を剥いだ桿

2009.03.08. 梨子地漆の拭き漆で第1回の節影を付けた。

2009.03.10. 今回の梨子地漆は播予製を使った。半乾きの状態で見ると、成る程木地呂漆と梨子地漆は随分違うということがよく判った。

梨子地漆で節影

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11. 提げ緒作り

2009.03.16. 提げ緒にする紐を輪にして留める黒竹の節を作り、キシャゲのあと絹糸を巻いて生漆を塗った。

紐輪留め竹生漆塗り
紐輪留め竹生漆塗り

紐輪留め竹絹糸巻き
紐輪留め竹絹糸巻き

紐輪留め竹キサギ
紐輪留め竹キサギ

2009.03.18. 昨日提げ緒の紐輪留め絹糸部の2回目として梨子地漆を塗った。

紐輪留め
紐輪留め

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12. 金覆輪

2009.04.11. 昨日の午後金覆輪を描いた。初めのうちは調子が出なかったが、覆輪筆の糸が馴染むにつれてうまく描けるようになり、予定通り終わることが出来た。

今朝見るとどうやら金泥は均一にうまく蒔かれていた。

桿の金泥蒔き

午後、表面の浮いている金泥を脱脂綿で拭いた。ところが脱脂綿では金泥を拡げるばかりで拭き取るという具合には行かない。結局乾いた木綿布、ガーゼが有効だった。

桿の金覆輪

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13. 組立・完成

2009.04.11. 金泥の撥ねた部分など若干のダメはあるが、直しは後にしてまず柄のすげ込みをやった。

桿と柄すげ込み

接続部の空隙を防ぐために、今日は桿と柄の内側にウッドエポキシを十分に押し込む下固めだけにして、すげ込みの本固めは後日とする。

2009.04.13. ウッドエポキシを接続部にしっかり詰めて、桿と柄を固めた。

桿と柄すげ込み完了

2009.04.15. 昨日、接着部の僅かな隙間に瞬間接着剤を垂らしこんでおいた。

しかし今朝見ると接着剤が桿に流れた跡が白く見えているので、サンドペーパー#800で落とした。

サンドペーパーを使ったため漆が剥げた桿の上部に梨子地漆で拭き漆をした。

すると、却って全体としてしっくりした色調になった。

2009.04.29. 提げ緒が出来たので、取り付けた。道具が揃うとぐっと引き立つ。

これで完成とする。

完成品

後日、Y.S. 氏に納品したところ大層喜ばれ、爾来この杖を愛用して頂いている。

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2009.06.04. 作成 ・ 2013.01.31. 四訂