拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
全く歪みがない長さ90cmの太い桿に8個も節がある立派な素材を活かして、惚れぼれするような堂々たるステッキが出来ました。この杖に貫禄負けしないような体格・肩書き共に申し分ない偉丈夫は余り多くはないでしょう。
6月12日にホームセンターで晒し竹を8本買ってきて、火入れをした。
このステッキに使った竹はその8本の中で一番太い竹なので、柄には孟宗竹の太い根を充てる。
桿の節取りをした。表皮に稍傷が目立つので、節は勿論、表皮も磨くようにした。
孟宗根の柄の長さを決め、節を磨いた。
根なので節の凹みが大きい。
このままでも良いのだがあまりにゴツイので、
凹みに切り出しでキザミを付けて
ウッドエポキシで埋めた。
柄のついでに桿の傷もウッドエポキシで埋めた。
ウッドエポキシをサンドペーパーで研ぎ出した。柄も桿も綺麗になった。
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キシャギをして桿に糸を巻いた。
糸には瀬〆漆を掛けた。柄にも瀬〆漆で下塗りをしておいた。
桿はなるべく色を薄くしようと思って、地塗りに梨子地漆を使って、十分に拭き漆をした。しかし存外黒くなってしまった。
サンドペーパー#1000で研ぎ出し、木地呂漆を掛けた。
節影を考慮して拭き紙をしごく力に強弱を付けて拭き漆をした。しかし全体に薄く塗ったからか、節影は全く出なかった。
糸巻きの漆をサンドペーパー#240で研いだ。
柄にドリルで取り付け穴を開けた。
11mmφの丸木棒で柄と桿のつなぎを作った。
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2008.08.17.下げ緒を付ける金具を作り、 | |
キシャギを入れ、接着剤で金具を固定した。 | |
赤絹糸を巻いた。 | |
2008.08.20.赤絹糸に瀬〆漆を塗った。 | |
2008.09.03.下げ緒部の糸の上にはその後も何回か梨子地漆を塗って、柄下の糸部と平らになるようにした。 | |
桿の焼き入れの際に節に開けた穴は、木工ボンドを付けた5mm ほどの丸木棒で塞いで、その上にウッドエポキシを詰めた。 更に桿の上部の周囲にもウッドエポキシを詰めて、桿をつなぐ丸木棒を固めた。 |
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2008.09.03.釣り用のナス型錘4号を | |
錘の効率がよくなるように | |
桿の糸巻き位置にキシャギを付ける。 | |
赤絹糸を巻いて、錘を詰める準備完了。 | |
錘を埋め込みウッドエポキシで固める。 |
次いで、赤絹糸の上から瀬〆漆で塗り固める。
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ウッドエポキシで柄を組み付けた。
昨日、桿と柄のすげ込み部の小さな隙間に錆漆を塗っておいたところ、意外に広い面積に錆漆が付いていた。
錆漆のはみ出し部を削り取ったために大分漆の塗りが傷んだので、再度すげ込みの周囲を塗ることになった。
ついでに下げ緒金具の糸の段差もサンドペーパー#400で強めに研いでおいた。
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石突き部に梨子地漆を数回掛けて研ぎ出しが終わったので、金泥を蒔いた。
桿(提げ緒下) | 石突き |
綺麗に収まったので完成だが、節影が少し薄いので更に梨子地漆で拭き漆を掛けることにする。
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提げ緒には百円ショップで買ったものを付けようと思ったが、紐を留めてある金具のニッケルメッキが白く大きくてデザインも気に入らない。そこで紐だけ使って、紐の繋ぎ目を細い竹桿で覆うことにした。
黒竹の節を短く切って絹糸を巻き、竹が割れないようにした。
糸には金粉入りの輝石と朱漆を混ぜた梨子地漆を塗り、金粉が落ちないように木地呂漆を塗っておいた。
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自分の現用品(W02)は記念すべき第1号ステッキで軽くてよいのだが、このステッキ(W112)は桿も柄も太くて頑丈そうだし、いかにも男らしいので、自分で使いたくなった。
しかし寸法が少し短いのと、桿が太くて石突きゴムがない(釣り竿用尻ゴムで代用している)のが問題だ。
そこで、竹芯を入れた印籠継ぎにして桿を長くすることにした。
ドリル等で石突きを刳り抜き、錘を取り出し、中に詰めてあった竹も抜き取った。
11mmφの木棒を芯とし石突きゴムの内径に合わせた外径の竹をすげ込んだ。
このまま錘を入れると丁度桿の継ぎ足した部分と重なるので芯が使えなくなる。
そこで芯棒の前に錘を桿に埋め込んだので、錘位置が約10cm高くなってしまった。
また、寸法の関係から継ぎ足した竹は石突きゴムの中に隠れてしまうので、本体の太すぎる桿にゴムの先が掛かる。
桿の先端にはテーパーを付けてみたが、テーパーよりも石突きゴムの深さ分だけ元の桿を細く削れば済むことだ。
2009.12.06.石突きゴムの穴よりも桿が太いので | |
桿と石突きゴムとの収まり具合を確認した。 | |
2009.12.10.石突きゴムが掛かる部分全体に瀬〆漆を塗った。 | |
2009.12.12.昨日瀬〆漆の上に梨子地漆を塗った。 今朝見ると十分に塗れているので |
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杖はよく倒れて固い床に当たるので、柄の角に疵が出来ることが多い。
このステッキも保管中に過って倒し、竹の皮が剥がれてササクレだってしまった。
そこで柄の角を丸く面取りしてぶつかっても疵がつかないようにすることにした。
早速木工鑢で柄の両端の角を削り、サンドペーパー#800で仕上げ研ぎをした。
この方が角が張っていたときよりも綺麗に見える。
研ぎ出した柄の両端に瀬〆漆で地塗りをした。
色ムラもなく均質に塗ることができた。
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節影を強調するように留意しながら、全体に梨子地漆で拭き漆をしておいた。
塗りの調子がよいので、油砥の粉・呂色磨き粉・角粉の三種磨きを掛けて仕上げた。
三度目の正直、今度こそこのステッキの完成とする。
先年に完成してから長らく放置していたが、その間何度か使ってみた。
太さといい長さといい、町なかでこんなに豪壮なステッキを持っていると何やら誇らしくなり、自分で使うのが勿体なく思えてきた。
このステッキは随分太い上に節が詰んでいて全長90cmの中に8節もある。しかも桿に歪みが無く上から下まで真円になっている。これだけの堂々たる素材は又とないと云っても過言ではなかろう。
そこで節の数に合わせ南総里見八犬伝の名犬に因んだ「八房」の銘を付けて、桿には落款「翠」も朱漆で押した。
こんな杖に負けないような持ち主は貫禄十分な偉丈夫でなければならない。と考えると直ぐに一番相応しい人を思いついた。しかしステッキは身長に合わせて調達する物だし、突然健康な人に贈っては失礼にも当たるかと思うと、なかなか機会がなかった。
たまたま本日久し振りに彼に会う機会があったので持参した。
まだ元気で杖など思ってもいなかった彼はあっけにとられた様子だったが、「このステッキを持つに相応しい人はほかに居ない」と押し付けて進呈した。結構お気に召したようで、部屋の中で突いて歩いて試していた。長さは丁度よいと思う。
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<2013.05.20.作成>