「翠簾洞漆工集」制作の部 漆工索引 翠簾洞ホームページ入口

ふたつき  へんちく  はないけ     
蓋付扁竹花活け W109

9×12×18h(取っ手込み)cm

拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋

修理が終わった外観

桿が扁平でしかもねじれている孟宗竹の根株を取ってきたのですが、あまりに不思議な形なので何にするか迷って時が経ってきました。漸く1メートル近い竹の上の方の二節で花活けを作ることにしました。建水にしたかったのですが、ちょっと口が小さいので蓋置が入らず、結局花活けに落ち着きました。花活けとしては一応の完成をみてから、急にそれに蓋を作りたくなりました。蓋が付けば水差しですが茶杓はとても入りません。この蓋は単なる遊びです。

<プロローグ> <裂け目の処理> <糸とリボンの漆塗り> <底板作り>
<漆塗り> <ひび割れ> <仕上げ> <蓋作り> <完成>

プロローグ

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素材1

元はこんなに汚い枯竹だった
素材2

桿が丸くなく扁平で、大きな裂け目があり、不規則に曲がっている竹を、面白いと思って髭根をつけたまま元から取ってきたのだが、いかに活用しようかと迷って長らく放置していた。

根先の丸い髭根部分を香炉にすることでやっと構想がまとまり、次の一番曲がった部分を活かして長手の花活け、上の2節で並寸の花活けの3点にすることにした。

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ここに記録するのは「上部2節の花活け」の制作過程である。

裂け目の処理

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花活けにしようとするこの部分には大きな裂け目が入っているので、水糸で縛ってバラバラになるのを避けながら竹挽き鋸(たけひきのこ)で切り出した。
 更に、底にする節には大きな穴が開いていた。

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内側の節の跡を
木工やすりで
綺麗に磨いた

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食い違いを手万力(クランプ)で修正しながら、水糸を強く巻いて裂け目を締めた。隙間には樹脂を詰め込んで塞いだ。


活け込み口の方は通常の絹糸巻きが出来るが、底の方には扁竹のくびれがあって糸が浮いてしまうので、リボンを巻いてくびれから内側に引き込んで締め付けた。

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活け込み口は切り口が斜めなので絹糸が締まらなかったが、何とか巻き付けた。
 底の方のリボンには楔を入れることによって、弛まずに決まることを確かめた。

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リボンの端を始末する凹み

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楔を入れてリボンを締める

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糸とリボンの漆塗り

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リボンの長さを調節して切り、糊漆を両面からしごくようにしてたっぷり塗り付け、キサギした竹の凹みに巻き付けた。

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内側に引き込んだリボンの端

リボンの両端を穴から内側に引き込み、外側には用意した楔を打ち込んで決めた。

リボンはきつく締まった。

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外側に楔を打ち込んだ


 裏に引き込んだリボンの端を樹脂で塗り籠めた。

リボンの端を樹脂で埋めた
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乾いた樹脂を滑らかに削った

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一方、浮き気味の絹糸は手万力(クランプ)で押さえ付けて完全に硬化するまで1週間放置しておいた。

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糸巻き部とリボンの上に梨子地漆を掛けた。なかなか良い感じになってきた。TOP

底板作り

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底の節は穴が空いていて、節板の残っている部分にも捻れるように凹凸がある。

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ほかの竹の節を当てようにもこのような異形では無理なので、節に合わせて切り抜いたベニヤ合板を内側から当てて樹脂で固定し、節板の穴の部分ではそのまま外側の底も兼ねるようにすることにした。

ベニヤ合板の当て底に糊漆を塗り、ガーゼを当てて布着せをした。

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底板に合わせてガーゼを切る

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糊漆の上にガーゼを被せる

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ガーゼの上に生漆を塗る

花器の底側から指を入れ、残っている節板の上に樹脂を塗り付けておいて、布着せしたベニヤ合板を活け口の方から落とし込み、棒で押し付けた。

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穴の周囲に塗った樹脂

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落とし込んだ底板

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周囲にはみ出た樹脂

押されて底にはみ出た樹脂
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節板の穴から底側に溢れ出した樹脂を、節板に合わせて均しておいた。


底板に馴染ませて均した樹脂
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錆漆を作って底板の周囲を始め、内側全体に軟質プラスチック篦(へら)で万遍なく塗っておいた。


 ここまでで内装工程は1段落となった。

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漆塗り

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地塗り前の表面
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瀬〆漆をテレピン油で薄目に溶いて外側全体に地塗りを掛けた。

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地塗りした瀬〆漆が乾くとかなり濃い色になっていた。

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樹脂充填前の底裏

底側から見ると節板が欠けた不規則な穴があり、一応樹脂で仮に塞いであるが、不十分なので今回更に新しい樹脂を充填して、節板と樹脂の底裏を均した。

樹脂が乾かないうちにと思って、落款「翠」を押印しておいた。

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樹脂に鮮明に印形が付いたので、薄めた瀬〆漆で底面を塗った。

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内壁には錆漆の地塗り、薄めの錆漆や梨子地漆の中塗りを繰り返しておいたが、今回は少し薄めた上呂色漆を塗って中塗りを終わりとした。

内側に朱漆黄口を塗った。今度は歯ブラシを使わずに五分筆だけで下から上まで塗ったが、うまく塗れていた。

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色ムラもないのでこれで内側は完了とする。

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リボン面を研ぎ出した

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リボン生地の凹凸

リボンの織り柄の縞模様がなかなか消えず、サンドペーパー#120で研ぎ出しては梨子地漆塗りを繰り返した。

大きな裂け目は樹脂で埋めたが、細かい沢山の裂け目はまだ漆で埋めていない。そこで錆漆を作って塗り立てた。

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錆漆での本堅地はうまく出来たが、真っ黒になった。

本堅地で真っ黒くなった表面をサンドペーパー#180で水研ぎして、竹の表面を完全に剥がした。

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この2010年は猛烈な暑さで仕事も停滞していたが、今9月28日ようやく再開した。

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絹糸とリボンの研ぎ出し

先日研ぎ出しておいた絹糸巻きとリボンの上に梨子地漆を塗った。




薄めだがうまく塗れたと思う。

糸とリボンに梨子地漆塗り
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久し振りに養生テープを剥がして、地塗りに掛かった。

最初の地塗り後
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地塗りは梨子地漆に木地呂漆を混ぜてテレピン油で延ばして筆塗りのあと、拭き紙でよく拭いておいた。

地塗りはうまく塗れているが、木地呂漆を混ぜたためもあり少し濃い感じがする。

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梨子地漆に僅かに木地呂漆を混ぜて2回目の拭き漆を掛けた。
 節影を付けて塗ったつもりだが、殆ど濃淡が出なかった。しかし艶がとてもよい。

これで胴の方は下塗りを一通り終わったが、一方、上下の切り口がひどく汚れてしまった。

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水研ぎの乾燥後、切り口に生漆で下塗りをしておいた。

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ひび割れ

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漆風呂に入れたり或いは出したままにしておいたり、暫く放置していたらいつの間にか向かい合うようにして2本、切り口から底近くまで大きな裂け目が出来ていて驚いた。

裂け目は内側に開いている
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裂け目は内側に開いている
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この裂け目は外側に開いているのではなく、内側が広く裂けていて外側は表面が繋がっている。
 乾燥して竹が割れたのではなく、押しつぶされたような裂け目だ。

これは、幅広く巻いていた糸が、桿に凹みがあるこの竹を締め付けて、内側に歪みが出たものと推察される。
 絹糸に塗った漆がこんなに強力なものだとは思ってもいなかったので、貴重な経験になった。

このままでは長い年月の間に更に幅が拡がる虞もある。

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対策として、巻いていた絹糸が強すぎるのだろうから、少し糸の巻き数を減らせばよいと考えた。

巻いた絹糸は下(底の方)からカッターで切り込みを入れて剥がした。桜の樹皮を剥くような塩梅だ。
 絹糸の幅の約5分の2程度を剥がした。

絹糸を剥がした跡
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次いでサンドペーパー#100で生地を磨いた。

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キサギの段差を利用して狭い幅で絹糸を巻いて、残してある絹糸巻きとの釣り合いを取ることにした。

絹糸を2回の船頭結びで、5回巻きにした。

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ところが竹筒の凹み部分は巻いた糸が浮いてしまった。

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5回巻いた絹糸に瀬〆漆を塗ってから、浮いた部分に当てものをして手万力(クランプ)で押さえ付け、竹に貼り付くようにして乾燥させた。

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巻き直した養生テープ
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この絹糸巻きの上下両側は、先日サンドペーパー#100で磨いた部分がひどく傷になっているので、あらためてサンドペーパー#240で磨き直しておいた。
 今回はその上に養生テープを巻いて、下塗りに備えた。

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養生テープを貼った上から梨子地漆を塗った。

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その後数回梨子地漆や木地呂漆を塗った。

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これで大凡良かろうと思い、養生テープを取って全体の梨子地漆塗りの調子を整えることにした。

内側の裂け目は、更に経過を見るためにその後の処理とする。

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細い絹糸も大体漆が乗ったので、サンドペーパー#1000で磨いてから全体を、節影が付くように気をつけて梨子地漆で拭き塗りした。

少し筆跡のムラが出たし、上部が濃すぎたが、サンドペーパーで修正出来る範囲だ。

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 1月始めに発見した内側の裂け目は、この2、3日湿度が上がったためか、或いは絹糸の幅を減らした好結果か、裂け目が随分狭くなった。

このままで朱漆を塗り直しても良さそうだが、念のため瀬〆漆をテレピン油でちょっと薄めて流れやすくして筆の先で垂らし込むように塗ってみた。
 しかし裂け目の間に入っているかどうか全く分からない。

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裂け目に朱漆を塗った。

漆の色が違うので裂け目だけではなく内側全体に筆塗りした。

これで裂け目は殆ど目立たなくなった。

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朱漆を練って内側に筆塗りした。
 朱漆も塗ってから暫くは黒くて、数週間経たないと色が出ない

全く裂け目が判らなくなった。 TOP

仕上げ

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先日塗った節影は濃淡がないばかりか、磨いたサンドペーパーの歯跡が斜めに出てしまっている。

この斜め傷は我慢が出来ないので、サンドペーパー#240で傷が消えるまで深く研ぎ出した。

従って漆は完全に剥げてしまった。

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剥げてしまった上側の節まで梨子地漆を塗った。

節影が出るように塗ったのだが、幅が狭いので濃淡が付いていなかった。

節影を付けたが、節の幅が短いのでグラデーションがうまく出せなくて断層になってしまった。

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節影を塗り直して、

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最後の仕上げ塗りをした。

結果として綺麗に上がっているので3種磨きで十分に磨き上げ、完成とした。TOP

蓋作り

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花活けとしては完成したのだが、これを水指と見立てて蓋を付けることにした。
 銅製は不可能なので、ベニヤ合板に本堅地を掛けて金属風に見せたいと思う。

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内径に合わせて入れ子にするベニヤ合板を切るのに苦心したが、どうにかうまく切り抜くことが出来た。

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蓋としてはどうも板厚が足りないので、3枚重ねにすることにして、新たなベニヤ合板を木工ボンドで貼り合わせた。

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3枚重ねたらベニヤ板でもちょっと重厚な感じが出て蓋らしくなった。

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取っ手には手持ち素材の黒竹の根から適当なものを探し、

蓋に合わせてみた。

錆漆を練ってプラスチック篦でベニヤ合板に、初めての篦塗りをした。

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表裏両面を一度に塗ることは出来ないので裏側に保持用の角棒を両面テープで貼って持つようにして、まず表面と側面を塗った。

案外うまく出来たが、漆の厚さムラが出ている。

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取っ手にする黒竹の根は少し長めだが蓋に載せてみるととても良く見える。

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しかし、蓋に塗った錆漆の塗りムラがどうもうまくない。

それに加えて、蓋の嵌め込み部が漆の分だけ厚くなり閉まらなくなってしまった。

板にサンドペーパーを貼ったジグを作って嵌め込み部だけを研ぎ出すようにした。

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研ぎ出しジグの効果があって嵌め込み部の角が出て、却ってよくなってきた。

ついでに嵌め込み部周辺の蓋と蓋の縁も研ぎ出しておいた。

蓋の裏に平滑でないところが目立つので、サンドペーパーで強く研磨し直した。

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蓋の表面(取っ手側)以外の全面に梨子地漆を塗った。梨子地漆塗りはうまく出来た。

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梨子地漆はうまく塗れているが、

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嵌合部分の表面にはベニヤ合板の肌理が明瞭に残っていて銅板のような重厚さが無い。

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呂色漆を繰り返し拭き漆して蓋の木目は大分薄くなった来たが、まだ吹管の凹みがみえる。

サンドペーパー#1200で研ぎ出してもう5回目の呂色漆を筆塗りした。

蓋の裏を銅製のような金属的感覚にしようとして、随分呂色漆や梨子地漆を塗ったが、漸くこの辺でよかろうという状態になった。

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3種磨きを掛けておいた。

今度は表側に砥の粉で梨子地模様を付けてみた。

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地板には木地呂漆を筆塗りし、砥の粉を厚くたっぷりと粉蒔きした。

砥の粉の表面には何も触れず、漆の硬化を待つ。

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梨子地漆が乾いた。砥の粉を払ってみると表面の出来はなかなかよい。

これで重ねて塗れば随分と見栄えがするだろう。取っ手の対照も申し分ない。

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ところが、梨子地の上に艶をよくしようと思ってまた梨子地漆を筆塗りしたところ、地の梨子地が甘くなってただのブツブツになり、醜くなってしまった。

これは失敗、サンドペーパー#120で研ぎ出し、木地まで戻した。

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乳鉢で擂り潰した砥の粉をトレーシングペーパーの上に厚く敷き詰め、上から表面に生漆を塗った蓋をかぶせ、裏から紙ごと掌に載せて全面に砥の粉が付くように押し付けた。

砥の粉を洗い流した
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もうすっかり乾いたと思われるので、砥の粉を剥がし水を流しながら歯ブラシでよくこすって、貼り付いている砥の粉を完全に取り除いた。

すっかり砥の粉を洗い流した後は梨子地どころか、滑らかな平面になって凹凸は全然感じられず、再び失敗に終わった。

梨子地をどうやって出そうかと随分考えたが、木炭の粉末を使うことを思いついた。

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手持ちの園芸用の粉炭の微塵を乳鉢に取って擂った。

擂り潰した炭を乳鉢からそのまま漆皿に取り、適量の上呂色漆にテレピン油を1滴落として練り合わせ、指塗りした。

粉炭梨子地?
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粒子に微妙な大小があるが、殆ど希望通りの梨子地が出来た。

指で触ると少し炭粉が浮いている感じもする。

粉炭梨子地の上に呂色漆を筆塗りした。

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浮いたような感じだった炭粉が落ち着いたように思う。

取っ手を合わせてみると誠に結構な具合だ。

取っ手が密着する部分の梨子地粉炭を削り取り、取っ手の方に2.5ミリ径の穴を開け、竹串のホゾを立てた。

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蓋には、竹串の位置に合わせて取り付け穴を開けた。

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蓋の取っ手を付けた。

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これで取っ手付けは終了したが、取っ手付けに手間取って蓋全体に漆の不具合が出ているので、仕上げ塗りをしなければならない。

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2012.03.17.未定稿作成・掲上