拭き漆工房 翠簾洞 素舟齋
適当な湾曲があり節間が詰まっている太い竹の根元部分で杖の柄(グリップ)にするのに好適だと思って保管していた素材があった。
この柄に合わせた太めの桿を探し、長さを整えて 殺虫や滅虫卵のため火入れをしておいた。
5月に入ってからサンドペーパーで節を取り表皮まで磨いておいた。
その後暫く放置してあったが、今日 留め漆を塗り 拭き紙を掛けた。
留め漆もうまくできたので、柄との接合部の竹の皮をサンドペーパーで剥ぎ研いだののち、絹糸巻きを済ませた。
柄と稈の絹糸部分に塗った生漆の地塗りが硬化した。
一方、柄の素材にはかねてより地塗りをしてあったが、一昨日2度目の節影付けを塗った。
ところが、陰を早く出そうとして拭かなかったので、ぼかしがなくなって塗りムラが極端に出てしまった。
そこでこの際、柄全体を研ぎ直ししっかり表皮を剥がして地塗りからやり直すことにした。
柄の地肌を出してから梨子地漆で拭き漆をしたところ綺麗な仕上がりになった。
これで節陰を焦らずに付けていけばうまくいくだろう。
桿をサンドペーパー#800で軽く研いで、梨子地漆の初塗りをした。 柄も塗りを重ねた。
柄には当然節陰を付けるつもりだったが、節が多く間隔も揃っているので、一節ごとに濃度を上げていくことにした。面白いものが出来ると思う。
桿に梨子地漆で何回か拭き漆をかけて、節陰らしくなってきたが、まだ何回か塗り重ねて、更にムラを取っていこう。
ここで 柄のすげ込みにかかった。
11ミリφの丸棒で芯を組み、
桿と柄を繋ぐ 穴開けもうまくできた。
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全体の色調がどうも濃すぎて しかも濁っているようだ。また、よく見ると桿にサンドペーパーの跡が好ましくない傷になっていて、それが全体に薄汚い陰になっている。
この際桿全体を削り直し、地塗りからやり直すことにした。
サンドペーパー#240で竹の表皮を半分くらい削り落とした。
やり直しは正解だった。桿の地肌には円周方向の細かい傷が無数にあり、そこに漆が染み込んで、全体に黒ずんで見えていたのだ。
今度はヤスリ傷を取るために、サンドペーパー#240のあと、更に#600で研いでから、生地漆を塗った。
次いで、上朱合漆をなるべく薄く伸ばして筆塗りし、濃淡が均等になるように拭き紙も十分に使った。
3日後にサンドペーパー#1200で軽く磨いた後で、梨子地漆を漉して節陰があまり濃くならないように注意して、拭き漆した。
結果は淡い濃淡が出てしっとりした感じになっている。手間をいとわず薄く何回も塗る方が、美しく出来るということだ。
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柄と桿の色調が揃ったので、柄と桿の組み立てに入る。
拭き漆を数回繰り返して
濃淡もおとなしい優美な調子に出来た。
柄よりも3cmほど出しておいた芯棒を
5mmほど柄よりも短く調節して切った。
芯棒の凹みにウッドエポキシを詰め、細い別の竹から取った小さな節板を貼り付け、恰度良い深さに落ち着けた。
ウッドエポキシを使って、柄のすげ込みをやった。
柄と桿の嵌合は丹念に合わせてうまくできた。
柄と桿の嵌合も綺麗に出来たが、ウッドエポキシが適量だったようで、はみ出しがほとんど無いのが却って気になる。全然はみ出していない部分の僅かな隙間には瞬間接着剤を十分に垂らし込んだ。
提げ緒を付ける金具を作った。
金具を差し込む穴をドリルで開け、
桿には金具の足を埋め込むための溝を掘った。
万能接着剤で桿と金具を接着し、手万力で締め付けながら固めた。
接着剤の硬化後、金ヤスリで金具の高みを削っておいたので
絹糸巻きは綺麗に出来た。
巻いた絹糸に生漆を掛け
研ぎ出してから
梨子地漆を塗った。
新旧の絹糸の段差を取るように磨き
漆を塗り重ねていった。
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支持台に乗せて覆輪を描き
金泥を撒いた。
覆輪の漆の硬化を待って金泥を洗い流すと
綺麗な金覆輪が現れた。
金具の下の絹糸の繋ぎ目には、仕上げの筆塗りを薄く掛けて終わりとする。
3ヶ月振りに手に取ってみると、漆の硬化が進み 透明感が増してきて 桿が妙に白くなっていた。
見た目に頼りなくてステッキには不適当だと思い、重ねて節陰を付けることにした。
数回節陰を付けると良い色が出てきた。
桿の金覆輪が節陰のやり直しで隠れてしまった。そこで、金覆輪を描き直した。上手くできた。
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10月も過ぎると桿も追々出来上がってきたので、提げ緒を用意しなければならない。
今回は竹のステッキに相応しく、紐の繋ぎ目を竹で包んだ提げ緒を作ることにした。
提げ緒の紐の一方の先端に瞬間接着剤を少量付けて指でもみながら細く尖らせた。
他方の端は串を刺して穴を作り周囲を木工ボンドで固めた。
このトンネルに針のように尖った先を入れて固めるつもりだ。
ステッキの金具に付けるスパイラルリングを通してから、尖った先端に木工ボンドを付け、他端に差し込んで固めた。
固くなっている部分を金床で叩きほぐし、手縫い糸で縫い固め、相手の紐と合わせて、大小二つの輪を作って絡げておいた。
この提げ緒の繋ぎ目を黒竹の節で包むことにした。
そこで、紐に力が掛かってもその竹環が割れないように、絹糸を巻いた。
絹糸の上に数回漆塗りをして、絹糸を固めた。
竹環に朱漆で覆輪を描き、金泥を蒔いた。
覆輪の結果は上出来だった。
所定の位置で黒竹を切り、生漆を切り口と内側に塗った。
切り口の漆が乾いたので、提げ緒を通した。
ウッドエポキシを竹環と紐の間に押し込みながら、紐を引いて目的の位置に留めた。反対側からは瞬間接着剤を滴下して固めた。
竹環に詰めたウッドエポキシなどの仕上げをして、オリジナル提げ緒が完成した。
竹のステッキにふさわしい、しゃれたデザインができた。
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桿に僅かに見える漆ムラが気になり、再度梨子地漆で拭き漆を掛けた。
油砥の粉と呂色磨粉と角粉の 3種磨きで磨き上げ、良い艶が出た。
石突きゴムを付けて、これで完成とする。
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2008.11.25. 作成 2019.11.14. 改正