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vol1 : 日常
今日は雨だと言っていたのに、澄み渡る空に白い雲。
屋上は寒くもなく、暑くもないイイ天気です。
この・・・頭痛を無くせば。
もういいかな・・・酷い頭痛が無くなるのなら、
このままでも・・・。
俺はこの物語の主人公でもあるイケメン高校生の、戌尾 柑。
カーンちゃん!っつー愛称で呼ばれる人気者や。
で、今なにしてて、なんで冒頭であんなん言うとるかって?
それがやなぁ、めちゃくちゃ酷い頭痛に侵されてて、
ちょーど、屋上のフェンスを俺じゃないオレが俺の体使って、
よじ登ってるんや。
今まさに、フェンスの頂上で体剥き出し状態。
ちょー待ってや。お前なにしよるん?
お前に何があったんかしれんけど、俺は関係ないやろ。
そう心の中で問いかける。
(ナンデ・・・モウイジメナイデヨ)
さっきから、この言葉の一点張り。
俺の中に違う誰かが今、存在する。
感覚からいうて、俺と同じ年くらいの男やなぁ。
イジメにあって自殺したってとこか?
もうイヤヤイヤヤって思いと、考えこんだ気持ちが、
俺の中で溢れて頭痛に変わる。
そっか・・・イヤなんや?
俺も毎度毎度のこの頭痛、イヤヤ。
フェンスから見える真下は、校内のグランドや山が見渡せ、
吸い込まれるようや。
目を細め、頭痛が次第に朦朧に変わっていく。
(ソウダロ?モウイヤダヨネ?僕モ一人はイヤダカラ一緒ニ)
あかん・・・もう落ちる。
俺の剥き出しになった体が一気に下に体制が崩れた瞬間、
大きな手が首根っこを掴み後ろに体が引っ張られ、
俺はフェンス手前の地面に尻もちをつき、キュートで、
プリチーな尻に激痛が走り・・・。
「いった~!何すんねんっ!」
痛みに顔をしかめ、何もかも忘れて後ろを振り向き、
大きな声を上げた。
「カンっ!」
自分の名前を呼ぶ聞き覚えの深い声と、その容姿に、
瞬きを何度か繰り返し、
「た・・・いじゅ?」
間抜けな声で相手の名を呼び返した。
「カン!はぁぁ~、良かった。間に合ってぇ。」
両手を地面に後ろ手に着き、同じく座り込んでいる相手に、
さっきまでの頭痛も感情も忘れハテナが頭上に浮かぶ。
「なんや大樹。どないしたん?」
「は?どうもなにも・・・お前飛び降りそうに・・・」
「・・・あぁぁぁぁぁ!」
大樹の言葉に全てを思い出して、言葉にならぬ声を上げ、
そうやった・・・俺は霊に憑かれて自殺の道ずれ攻撃に
あっとったんや。
それを思い出すと、霊にされるがままの自分に対して、
情けない気持ちになるのは日常茶飯事。
「何?また霊?」
慣れた感じで問いかける相手を眉尻下げて見つめ、
「なんや・・・イジメで自殺してもうたらしくて・・・。
一人やと寂しいとかなんとか・・・」
素直に説明をする俺。
その言葉に、大樹の顔が強張り引き攣り始める。
「勝手に死んどいて、カンは無関係だろが!」
「ちょ、大樹っ・・・痛」
その通りなのだが、当たり前なことが分かっている霊はそんなことはしない 。
霊が不快や悩みだすと、再び俺の頭痛が発生する。
「そ、そうなんすけどね?それは口に出さんといてやって。お願い」
苦笑いを浮かべる俺に、大樹はまだご立腹の表情のまま。
人間は勝手気ままなもの。死んだって簡単には生前の性格なんて変わらない 。
さて、この男。
織田大樹。ルックスは俺が認める男前。
背は182もあり、ショートの黒髪に切れ名長の瞳。
ルックスも良し。性格も良しの俺の高校の教師や。
29にもなって、彼女のカの字も聞いたことない。
なんでやねん?
「カン?」
眉間に皺寄せ腕組みし、胡坐をかいて座り自分を見つめる俺に、
大樹は不思議そうな顔で名前を呼び、次第にその表情は眉尻を下げ始めた。
「ごめん・・・乱暴だったから怒った?」
この男・・・性格は超良い奴なのだが、少々ヘタレで・・・。
「へ?あぁ、いや・・・うん。こっちこそ・・・ゴメン」
この何とも言えない雰囲気に頬を赤らめる俺ってなん~!?
大樹が何故、俺の体質、いわゆる霊が見えることを知っているのかというと 、
大樹が赴任してくるずっと前、俺がまだ入学当初の頃。
織田 松吉、大樹の父親に俺は世話になった。
唯一、俺のことを真剣に考えてくれた人。
その松吉も去年定年になり、同じ教師の道を進んだ息子の大樹が、
赴任してきたっちゅーわけ。
「マツキチ・・・元気?」
何気に気になっていた事を問い掛けると、大樹は唇を尖らせ、
「なんで親父?」
顔をしかめて問い掛けながら、そのままコンクリートに寝そべりだした。
「元気だよ。相変わらず盆栽ばっか弄って母さんに叱られてる。」
元気なんや・・・。
胸が暖かくなる。
「ははっ・・・マツキチらしいなぁ。」
笑顔で笑い、寝そべる大樹を見つめて盆栽をこよなく愛する松吉を思い出す 。
「腰痛」
「なん?」
「いや、また腰痛が出てきたって言ってたなって」
「マジで?じっとしてへんから。・・・。」
「何考えてるか当ててやろうか?」
「え?」
「早退して家に行こうと思ってるだろ。」
当たり。大樹にしろ、松吉にしろ、俺の考えをなぜか読むのが得意。
自分ではそんな顔、してるつもりもないのに、分かりやすいらしい。
「いいよ。担任には俺から言っとくから。行ってきな?」
「た~いじゅ~」
甘えた声を出して俺の気持ちを受け入れる大樹の額をペチペチ叩く。
すると相手は情けない顔で叩かれると同じだけ瞬きをし、
「い、痛いよカン。」
「愛情表現ってやつぅ?」
ニシシと歯を見せ笑う俺のプリチーな腕を、大樹の大きな手のひらが掴むと
引き寄せられ、大樹の体にポスっと上半身が倒れた。
「・・・充電」
でた!充電。
大樹は何かしら俺を犬かなんかと間違えているのか抱きしめる。
本人曰く【充電】らしい。
初めは驚いて蹴りまくったんやけど、最近は慣れてきてしもーた。
結構、気持ちええし。
これが女やったら乳がむにゅーっと顔にあたって・・・
って、そんなんはどうでもよくて。
「大丈夫か?もう」
その言葉には重みを感じる。
心配している感情がアホな俺にも直ぐに伝わった。
「・・・大丈夫や」
真面目に返事をした俺に、微笑みを浮かべて大樹の手が離れ、
俺の頭痛もいつの間にか治まっていた。
これが、今日の昼間の話。
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