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青島1/700新版 駆逐艦陽炎型について
2004年7月25日 本文記述

 ピットロードの陽炎型駆逐艦が発売された当時、小艦艇や外国艦艇を発売してきた同社が初めてWLのラインナップと競合するキットを発売したという事で、静岡3社にとってもリニューアル等の対策が加速してくるかもしれないと書きました

 早いものであれから10年近い歳月が流れ、リニューアルや新規発売などWLのラインナップも増加し、ようやく青島の陽炎型駆逐艦の新版が発売に至りました。キットの内容はピットロードを意識した部分が散見され、必ずしも内容の全てが上回っているという訳でもないのですが、価格が安いので手を入れれば決定版に近いものが作れるだろうと思います。
 まずは例によって評価表から。
項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍駆逐艦
名  称 陽炎(早潮・雪風・秋雲)
メーカー 青島
スケール 1/700
マーキング なし(軍艦旗はステッカー)
モールド ★★★ 舷窓、舷外電路、爆雷投下台、アンカーレセスなど
スタイル ★★★★ 羅針艦橋の平面形に疑問あり。陽炎/早潮は後部マストの形状が逆の可能性があります。
難易度 ★★ 陽炎/早潮は後部マストに注意。他は問題なし。
おすすめ度 ★★★★ 価格が安く外形はおおむね正確。
コメント 最良ではないが、素材としては最適。考証には充分注意を。



外箱の仕様


箱自体は旧版と全く同じサイズです。
特に陽炎に関しては
箱絵が違う以外仕様が旧版とほぼ同じなので
価格(旧700円、新1000円)と
シリーズNo.(旧419、新442)を
確認すると良いかもしれません。

ちなみに旧版の不知火/天津風は
新版の早潮/秋雲に変わる形で
生産終了になっています。

 部品割は以下の通り。
  • 船体
  • 艦底板、艦首甲板
  • 主砲塔、艦橋基部、羅針艦橋天蓋、煙突一式、機銃甲板、スキッドビーム、後部マスト一式、1番魚雷格納筐、艦橋前部増設機銃座、艦橋方位盤、測距儀、ほか
  • X部品(1枚)WL小型艦用ディテールアップパーツに同じ
  • バラスト
 以上 陽炎/早潮/雪風/秋雲 共通
  • 羅針艦橋甲板、前部マスト、2番砲塔砲座(陽炎/早潮)
  • 羅針艦橋甲板、前部マスト、電探室、後部増設機銃座(雪風/秋雲)
 以上差し替え

 キットの状態は陽炎/早潮が1941年末〜1942年前半頃、雪風が1945年春頃、秋雲が1942年後半〜1943年前半頃のようです。陽炎型駆逐艦は大戦中に電探と機銃が増備され、キットはこれらの部品を入れ替える事で設定時期を変更しています。ただし艦橋前部の連装機銃台は共通部品の中に含まれており、キットでは特に指示されていないのですが、これを接着し連装機銃(X40)を載せて後部煙突前の機銃を3連装機銃(X39)に替えれば、大戦初期型設定の艦でも1942年末〜1943年初め頃までの設定として組み立てる事ができます。

 また艦名や駆逐隊番号・煙突の白線などのデカールは一切ありませんが、キットは一応太平洋戦争中の設定のようなので、それで良いようです(艦名と番号は開戦直前に消されました。煙突の白線は時期によっては施された艦もあったようですが、詳細はほとんど判っていません)。

 キットは羅針艦橋の平面がピットのキット同様角張った形である事を除けば、特に大きな問題は無いようです。船体形状に関してもピットで問題になった艦首形状や艦尾の平面型などが改善され、より実物に近い形状になっています。
 ただし、細かい部分には色々と気になる部分があります。艦首形状は良好と書きましたが、艦首の正面が少し肉厚気味になっているので、気になる方は実艦写真などを元に削ると良いと思います。また船体には舷外電路や舷窓、アンカーレセス等のモールドが無いので、これも伸ばしランナー等を接着したりピンパイス等で開けたりするとより良くなります。

 その羅針艦橋の平面型は戦前の磯風や戦後の雪風の写真を見る限りではキットのように角張った形のように見えますが、野分の公式図や大戦中に於ける洋上給油中の不知火の写真などを見る限りでは、旧作のように前面が丸みを帯びた形の方が正解ではなかったかと考えます。この修正は非常に困難ですが、窓のモールドを作り直すことが出来る方であれば前面をもう少し削った方がらしく見えるかもしれません。

 主砲塔は共通のXパーツではなく独自のものが入っています。砲塔そのものの形状はXパーツのものよりは「らしく見える」のですが、砲身はXパーツのものを使うために、全体としての印象はピットのパーツよりも見劣りがするように感じます。これは個人の感覚ですが、気になる方はピットのものと交換すると良いかもしれません。 
 また、先に発売された陽炎/早潮では後部マスト(部品No.8)の形状が逆になっていました(右図参照)。これは雪風/秋雲では修正されており、共通部品である事から初期出荷分以外は改善されていると思うのですが、購入の際には注意が必要です。
 それとキットには艦尾の爆雷投下台の部品が無いため、これもパッケージ裏側の図を参考に伸ばしランナー等で追加する必要があります。ちなみに陽炎型で唯一残存した雪風の場合、艦尾両端に並んでいた6基の爆雷投下台とパラベーンを撤去して2列の投下軌条を装備しましたが、他の陽炎型にも同様の工事が実施されたかどうかはわかりません。少なくともキットの設定状態では、雪風以外は投下台で良いようです。

 雪風の艦載艇は両舷共に7mカッター(X13)を接着するように指示されていますが、この時期は左舷側には7m内火艇(X26)が装備されていたようなので、替えて付ける必要があります(内火艇は厳密には7.5mですが、大きさの違いは1/700では省略の範囲内だと思います)。

 組立説明書に関しては、キットの組立指示は特に問題はありません。しかし、塗装説明は軍艦色と甲板のリノリウムだけで、しかもリノリウムの指示と船体の甲板のモールドが一致していません。また陽炎/早潮のパッケージの裏面は旧作の上側面図の使い回しで、甲板全面に軍艦色の印刷が成されています。

 1番煙突前方の甲板と右舷側の魚雷運搬軌条の内側をリノリウムとするのは、恐らくグランプリ出版「日本の駆逐艦」に掲載された巻雲(夕雲型)の甲板敷物配置図が根拠ではないかと思うのですが、陽炎型が同様の配置だったという確証は恐らく無いはずですし、野分の公式図にはこの付近に滑り止めのモールドが描かれている事から、個人的な見解ですが、甲板の鉄甲板とリノリウムの範囲はキットのモールドの方が正しいのではないかと考えます。
 いずれにせよ、塗装指示とキットのモールドが一致していないのは初心者にとっては戸惑いの元ですし、細部の塗装指示が全くない点も辛い所ですから、この点は改善を望みたいものです。

 今回は考証面にはあまり触れませんが、例えば最初に書いたように太平洋戦争の開戦直前までは各駆逐艦には艦名と駆逐隊番号と煙突に識別帯が描かれていましたし、また戦争中は時期によって武装や電探等の装備品が異なります。キットのままで作る分には上で述べた雪風の艦載艇を除いて大きな問題はありませんが、他の艦や別の時期として作る場合には考証に充分注意する必要があります。

 他にも気になる部分はありますが、いずれも省略の範囲内であったり修正が容易に可能なレベルで、細部のモールドや部品等を手直し交換したり、予算に応じてエッチングを使い分けてゆけば素晴らしい内容に仕上がると思います。
 最近の青島のキットについて思うとき、「あと一歩の詰めが足りない」という事を常に感じます。例えば説明書の不備であったり、無いに等しい塗装説明であったり、決して洗練されているとは言い難いパッケージデザイン(原画の選択や見せ方のセンスも含めて)であったり。それらは色々と理由がある事だとは通信の場で聞き及んでいますし、変に小綺麗なパッケージなり説明書になってミニ田宮みたいな構成になったら青島らしさが失われてしまうという意見がある事も承知しています。

 ただ、組立模型、特に艦船模型のようにある程度愛好者の数と年齢層が限定されている分野の場合は、如何に新規参入者の興味を繋ぎ止めて次も自社の製品を買ってくれるか、すなわち「リピーター」の率を上げる事が販売戦略上重要な要素の一つではないかと考えます。その観点に立ってみると、仮に価格が安く品質が良い製品であっても、マニュアルが雑で間違いが多ければ良い印象を与える事はできませんし、次の購入行動には慎重になり結果リピーターの数を減らしてしまう事になります。
 また模型店の中には箱に封をして中身が見られないようにしている店も少なからず存在します。そうでなくても小艦艇のようなキャラメルボックスは箱を開けて内容を確かめることが容易にはできないのですから、パッケージデザインに見劣りする部分があれば、知識を全く持たない初心者や昔の青島のキットしか知らない出戻り組が手に取って内容を知ってもらう可能性は低くなり、結果として販売機会を逸する事につながってしまいます。

 もちろん組立模型は内容が第一ですし、パッケージに凝って内容が伴わないキットが続けば、最初は売れても最終的には愛好者からの支持は得られません。しかしながら、プラの組立キットは、箱と説明書とキットの内容一式含めたパッケージを買ってトータルで満足して頂けるものでなければ新規参入者の定着は難しいのではないか、そのためには説明書の内容や外箱の仕様という事に関しても、キットの内容と同じくらい配慮と注意深さが必要な時期に来ているのではないかと、そう思います。

陽炎型駆逐艦/基本塗装説明
(画像をクリックすると別窓で拡大表示します)

 青島は次にビスマルクの発売が予定されています。これはドラゴン・ピットロードと競合し通信の場でもかなり話題になっていますが、どのキットもメーカーの基本線を大きく逸脱するものではない(と予想します)し、特に感想を書くつもりもありません。青島にとっての正念場はその次に何を選ぶか、その場合アイテム的に他社の新製品と連携が取れるか、採算は可能かといった点に絞られてくるだろうと思います。
 いずれにせよ、青島のウォーターラインがもう一皮剥けるためには、キットの品質と共に上で述べたパッケージの問題という事にも改善を望みたいものです。

PS.
 青島は8月に同型艦の浜風と舞風の発売を告知しています。部品的に上記4隻と変わりはないと思いますが、もし変更点があればまた書くことにします。