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フジミ1/700 戦艦大和について
2004年8月12日 本文記述

 大和型戦艦は模型の草創期より多数のキットが発売され、特に60〜70年代に掛けては夏になる度に新製品が発売されていた記憶があります。キットの変遷は日本に於ける戦艦大和の捉え方の反映でもあったのですが、80年代以降は新製品がほとんど出なくなってしまいました。田宮が98年に発売したWLの新版はそれまでの資料や研究成果の集大成的なキットで、かつて雑感で書いたように非常に優れた組立キットでもありましたが、その後の研究や詳細な海底探査などで考証の不備が幾つか指摘されるようになってきました。
 今回フジミが発売したキットは久々の戦艦大和の新製品で通信の場でも期待が集まっていたのですが、田宮のWL新版の廉価版以上でも以下でもないという何とも微妙な内容で、メーカーの販売戦略にも疑問が残りました。

 まずは例によって評価表から。
項 目 名 内      容
ジャンル 近代艦船・旧日本海軍戦艦
名  称 大和(武蔵)
メーカー 1/700
スケール フジミ
マーキング 夜間通行帯、軍艦旗、中将旗、日章旗、非理法権天旗、煙突の菊水マーク、艦名、艦載機のマーキング一式、ほか
モールド ★★★★ 良好だが細部のキレは田宮よりやや劣る。主砲の砲身は貧弱気味。
スタイル ★★★★ 田宮のキットより正確な部分もありますが、最新の研究成果はあまり反映されていません。
難易度 ★★ 問題になる部分はないと思いますが、船体は横の補強を加えた方が良いかもしれません。
おすすめ度 ★★★★ 良くも悪くも田宮を意識した内容です。
コメント 意欲は大いに買いますが、今発売すべきものかは疑問。キットの販売戦略が明確でない点も気になります。

 部品割は以下の通り。ただしこれは両艦共に竣工時の内容であり、フジミは以降主要兵装変化の全バリエーションと、船体も舷窓の多い前期型・閉鎖された後期型の2種類に分けて発売する予定です。
  • 船体
  • 船底板
  • C部品
    • 艦首甲板、飛行甲板、防空指揮所、主砲測距儀、主砲塔、高角砲座、信号旗格納所、艦尾クレーン一式、ほか
  • D部品
    • 中央構造基部、艦橋、煙突一式、艦尾甲板、後部艦橋、艦載艇収納部外板、ほか
  • G部品
    • 後部探照灯台
  • K部品
    • マスト上部
  • N部品(2枚)
    • 主砲砲身、副砲、シールド付3連装機銃、高角砲、カタパルト、探照灯、零式観測機、三座水偵、錨、副砲砲座、ほか
  • O部品(2枚)
    • 副砲砲座、3連装機銃、探照灯管制器、ほか
  • デカール
  • バラスト
  • 主砲副砲回転用ポリキャップ
  • 部品請求用郵便振替払込票
  • 郵便振替説明書
 以上 大和/武蔵 共通
  • I部品(大和)
    • 艦橋背面ラッタル
  • F部品(武蔵)
    • 艦橋背面ラッタル、無線用アンテナ
 以上差し替え

 通信の場では田宮のWLとの類似性が指摘されていますが、同じような資料や情報を元に同じコンセプト(洋上模型)でキット化すれば、全体の構成も似てくるのはある意味やむを得ないことではないかと考えます。私がキットの箱を開いて最初に感じたのは、日模が新製品を出し続けて2004年の今1/700の大和型戦艦をリメイクしたらこんな感じになるかなという事でした。個々のパーツはかなり頑張ってモールドされていますが、微妙にだるい部分もあり、それがかつて田宮旧作WL大和に対して発売された日模のキットとダブって見えたのかもしれません。

 考証的には艦尾の艦載機収納レセス付近やマスト背面の通信室の形状など田宮のキットよりも正確と思われる部分もありますが、煙突基部の射撃指揮装置付近の形状や海底探査より議論の的になっている艦首・艦尾形状などは田宮のキットに準じたもので、最近の考証研究成果はあまり反映されていません。艦首艦尾の鉄甲板の滑り止めパターンは互い違いにモールドされていますが、田宮の雑感でも書いたように実艦写真を見る限り、これは田宮のキットの逆ハの字のモールドの方が正しいようです。

 これ以外のキットの内容や考証云々に関しては模型誌でも他のWebサイトでも取り上げられるでしょうし、フジミの大和型戦艦に関しては細かい考証云々よりもっと重要な事柄があるように感じるので、この雑感ではキットの内容以外のことに関して書くことにします。

 日本で一番有名な軍艦は戦艦大和であり、その組立模型で現在最も評価が高い組立キットが田宮のWL新版である事に異論がある方は恐らくないだろうと思います。艦船模型のように市場と対象年齢層が非常に限られている分野で、かつ自社の既存製品(シーウェイシリーズ)に必ずしも愛好者の支持が得られていない現状に於いて、既に高い評価が与えられている製品に競合する形で新製品を発売する場合、取り得る方針が二つあると考えます。
  • 競合相手に打ち克つこと
  • 競合相手と共存すること
 前者はより正確で、より精密で、より組立易く、より低価格な製品であること。理想的な製品でありますが、そのためには実物に対するより深い研究と、競合相手より高度な技術と、開発生産の各部に対するコストダウンに加えて、相手のブランドイメージに打ち克つ広告販売戦略が必要になってきます。
 後者は完全に打ち克つのではなく、対抗相手の長所はそこそこの内容に留めて、その欠点を埋めたり別の付加価値を持たせる事で商品価値をアピールする方法です。かつて田宮の旧作が発売されていた時代に日模が同じ縮尺で大和武蔵を出しましたが、これは船体がより正確で、フルハルモーターライズという田宮に無い特徴を持ち、細部はそれなりのキットでした。そして田宮の新版が発売された後もフルハル化の船底部品取りとしてキットの存在価値を保ち続けています。
 また、ピットロードの競合に対して青島が取った方針は、細部のモールドはそこそこに抑えて(といいますか、苦手な事まで無理して対抗しようとはしないで)、外形と考証の正確性に重点を置き、価格もかなり抑えたキットの開発でした。それでも青島の既存製品よりは大幅に内容が向上し、それに伴って愛好者の信頼も得るようになってきました。

 フジミのこのキットに関しては、基本線は恐らく前者を目指したのだろうと推測するのですが、考証やモールドには徹底さを欠き、販売戦略的にもどの層に絞るべきか方針が曖昧なまま製品が出来てしまったという印象がぬぐえないのです。

 もしこのキットが艦船模型の熱烈な愛好者向けに作られたのならば、最新の考証や研究結果を徹底的に盛り込むか、または価格が田宮と同等かまたは多少上回る事になってもモールドの精度を上げて田宮を打ちのめす内容のどちらかでなければ、愛好者に魅力を感じ取ってもらう事はできないのではないかと考えます。彼らにとって重要なのは一にも二にも内容であって、安いことは二次的な要素に過ぎず、加えて3〜4割も安いのならともかく田宮との価格差が1割そこそこではほとんど意味を持ちません。
 また大和型3隻を網羅すると言われる、JANUSZ SKULSKI氏のAnatomy of the ship The Battleship YAMATO の全面改訂版が、早ければ来年中にも出る可能性が伝えられている現在に敢えて発売するタイミングも疑問で、もしその改訂版を元に田宮の大和と共存する目的のキット−つまり船体と上部構造物の正確性に重点を置き、細部には目をつぶって洋上とフルハルの選択が可能な製品が2,500〜800円前後で発売されれば、その時点でこのキットの商品価値は無くなってしまいます。

 また田宮と同等の製品を、価格を下げて愛好者以外の層に広くアピールする事が目的ならば、大和と武蔵の主要兵装バリエーションや船体を前期・後期型で作る必要も無かったのではないかと考えます。愛好者以外の層は舷窓の有無や兵装の変化など意識しませんし、船体が二種類になり武装パーツが増えればれば金型代もかさみ、製品開発費の回収はそれだけ遅れてしまいます。仮に国外金型で製作費が従来より格安になっていたとしても、価格を下げて数を出すのであれば、構成もシンプルにして早期に開発費の回収を目指さなければ次の企画も難しくなります。

 だから、今回のフジミの新製品に関しては、対象とする層や販売戦略や競合のリスクといった事が充分考慮されないまま、ただ単に田宮の新版大和と同等の製品をバリエーションを増やして安い価格で出せば、どの層にも売れるだろう程度の見通ししか無かったのではないかと、そう思うのです。

 ただし、私は新しいキットで田宮に真正面から対抗するフジミの姿勢そのものは大いに歓迎します。少なくともWLとの競合が極く一部の会社の製品に偏って、もっと優れたキットを出して欲しいという愛好者の欲求に応えようとしないピットロードよりは、はるかに好感が持てます。それだけに製品の中途半端さが残念ですが、もし今回のキットで早期に開発費が回収できて収益が出たならば、シーウェイのリメイクなり他社の製品との競合という形でも、他にもキットを出して欲しいと願います。ただ単に安いだけでなく内容的にもう少し購買層を絞れば買う側からの支持が得られる要素は充分にありますし、かつてWLがそうであったように、新製品を投入する事でシーウェイシリーズに人を呼び戻す可能性もあると個人的には考えています。
2004年8月12日 記